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人はなぜダイヤモンドに魅せられるのか?―ラシェル・ベルグスタイン『ダイヤモンドの語られざる歴史:輝きときらめきの魅惑』まえがき

6/18(火) 6:00配信

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富と権力の象徴として人々を魅了してきたダイヤモンド。その歴史を、オードリー・ヘップバーンやマリリン・モンローらハリウッドスターとの関係、ダイヤモンドの製造・流通、呪われたダイヤモンドのエピソードなど、あらゆる角度から紐解いた書籍『ダイヤモンドの語られざる歴史』を、著者自身の前書きから抜粋して紹介する。


◆人はなぜダイヤモンドに魅せられるのか?

キラキラ光る石が人の心をとらえ、うっとりさせるのはどうしてか? 私がこの本を書き始めたとき、壮大な成功やロマンスだけでなく、恥ずべき強欲の象徴でもあるダイヤモンドという石が基本的に持っている複雑な性格に注目して、それが私たちの文化のなかでどのような役割を果たしているのかを調べてみようと思った。ダイヤモンドがとても美しく、折に触れ蠱惑的(こわくてき)でさえあることは私も十分認めるが、私は祖母ほども強くこの石に憧れている訳ではない。私の嗜好は少々シンプルである。あの金遣いの荒い宝石狂たちのようなせかせかと落ち着きのない気質など私にはない。しかし、私のこのような言いかたは公平とは言えないだろう。時代の違いを考慮しなければならない。私の祖母の時代には、ダイヤモンドは王位や富、それにまぎれもない偉業の象徴であった。そのため、ダイヤモンド産業の舞台裏では、日夜多くの人々が働いていた。今もその状況に変わりはないが、近年になってさまざまなけがらわしい現実との関わり合いが表面化してきた。このため、ダイヤモンドの評判はかなりのダメージを受けている。すなわち、地質破壊、奴隷労働、分断された先住民族、想像を超える暴力などである。確かにダイヤモンドは今でも流行しているが、かつてほどの流行ではない。この現実認識は本書に反映されている。

ダイヤモンドは文字通り、また比喩的に言っても、びっくりするほど多面的である。今までずっと、ダイヤモンドはさまざまな人にとってさまざまに異なる意味があった。その昔、ダイヤモンドは幽霊を退散させるものと考えられていた。透明なダイヤモンドには死を避ける効果があり、逆に不透明なダイヤモンドは死を招くものと信じられていた。さらに豊穣を促し、内臓切開などの手術を成功させ、夫婦の和解をも促すものと思われていた。もっとも、これらの現象は、当時、ダイヤモンドによってもたらされると信じられていた異世界パワーの一例にすぎない。また、中世ヨーロッパでは、社会の中枢から外されたユダヤ人たちに仕事の機会を与えたのがダイヤモンドだった。ホロコースト時代のユダヤ人たちには、逃亡に必要な持ち運び可能な財産となった。17世紀のインドのマハラジャは、ダイヤモンドを超常的な力の源泉として大切に保管した。金ぴか時代のニューヨーク市の富裕層にとっては、世界の檜舞台で認められ、上流階級に受け入れられるための手段であった。

しかし、ダイヤモンドとその発掘、流通、販促からなる複合産業はいつの時代でも苦境に強いことを証明してきた。千年紀(ミレニアム)の変わり目には、いわゆる─紛争ダイヤモンド─危機が起こり、ハリウッド映画の大作にもなったが、洋の東西を問わず一般の人々はダイヤモンドを買うのを止めなかった︒我々はいつもダイヤモンドの魅力に惹かれていると言って間違いない。

ダイヤモンドは我々を夢中にさせると同時に、過去の思い出を忘れさせる力も持っている。例えば、私の夫が私に年代物のダイヤモンドとサファイアの婚約指輪をプレゼントしてくれた時、私の両目に涙があふれたことを今ではすっかり忘れているし、あるいは、私の祖母が台所のテーブルに置いた宝石に反射してゆらめく光のダンスに見入っているときの心境はどうだったのか、見当もつかない。

私にとって、この無色の石は以上述べたことすべてを意味するものである。多くの人たちが、究極の愛情表現でありながら、同時に、醜悪な物質主義の象徴でもあるとみなしていることこそが︑ダイヤモンドをこれほど深く魅力的なものにしている決定的な要因である。本書では、ダイヤモンドの持つ数多くの表情を直視しながら、どうしてわれわれの社会で愛されるに至ったのか、またどのような人たちがそれに一生をかけてきたかなど、折に触れ、ユニークなエピソードを交えて披露するつもりだ。

[書き手]ラシェル・ベルグスタイン(ライター、編集者)

[書籍情報]『ダイヤモンドの語られざる歴史:輝きときらめきの魅惑』
著者:ラシェル・ベルグスタイン / 翻訳:下 隆全 / 出版社:国書刊行会 / 発売日:2019年05月22日 / ISBN:4336063354

国書刊行会

最終更新:6/18(火) 6:00
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