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膨れ上がる米レバレッジドローン市場 拡散するリスク

6/18(火) 19:02配信

ニュースソクラ

【経済着眼】企業収益悪化が最大の懸念材料

米国のトランプ大統領は公然とFRBへ利下げ圧力をかけている。彼はトランプタワーなどを建設した不動産王であったが、元利返済の繰り延べなどを余儀なくされており、過剰債務の怖さも体験したはずだ。IMF(国際通貨基金)が最近のレポートで世界の債務積み上がりに警告を発していたが、その最大の問題は米国企業部門の過剰債務にあることは衆目の一致するところである。いまや、米国の企業部門の債務はグローバル金融危機後の2012年以降、7年の間にGDP比で7%も上昇した。家計部門がサブプライムショックの影響で大幅な過剰債務圧縮で減少した分をほぼ相殺する規模である。

 米国企業にとっては世界的な低金利の中で債務を増やしていくことは合理的な行動であったのも事実である。もっとも、企業部門は、借りた金で設備投資を行ったわけではない。バランスシート的に捉えれば、企業部門は自社株買戻しと企業買収を通じて2012年以来2.9兆ドルの株式償却をおこなった。このファイナンスの金額と企業債務の増加額がほぼマッチしており、借金で株価上昇を狙った自社株買いを行い、経営者自らの報酬を引き上げるという循環を形成してきた、というのがマクロ的に見た解釈である。

 米国企業は社債市場での起債、銀行からの借り入れなど各種の手段で債務水準を引き上げてきた。とくに問題視されているのは「レバレッジドローン市場」(leveraged loan market)の急拡大である。レバレッジドローンは主として信用力の乏しい企業向けローンが銀行団によって組成されて、セカンダリー市場での売買を通じて大部分は年金、ヘッジファンドなどのシャドーバンキング部門に転売されている。信用リスクが大きいため、銀行は転売してそのリスクを極力回避する一方で、少しでも高い金利収入のほしいヘッジファンドなどの投資家層がリスクを承知で購入してきた、という構図である。このローンの借り手は小さな非上場企業からアメリカン航空などの上場企業にまで広範囲にわたっている。米国で急速に拡大をたどり、総残高6兆ドルとライバルのジャンク債市場と肩を並べるところまできた。債券ではないので固定金利ではなく、大部分のレバレッジドローンは市場実勢に即して金利が変動する。FRBの利上げで米国金利が上昇を続けたなかで、投資家にとっては金利ヘッジ商品としても人気があった。欧州ではレバレッジドローンは主として不動産業界で利用されており、市場規模も1.2兆ドルと米国の1/5程度に過ぎない。

 レバレッジドローンの急増は企業債務の累増の象徴という意味で市場関係者の頭を悩ませている。パウエル議長やジャネット・イエレン前FRB議長、ブレナード理事などのFRB関係者のほかにも、IMF、イングランド銀行、BISも警告を続けてきた。FT紙は3月はじめにFSB(金融安定化委員会)が同市場の調査に乗り出したと報じている。

 レバレッジドローンの問題点としてよく挙げられてきたのは証券化の進展でリスクが拡散していることである。つまり、100~250本程度のローンをまとめあげてプールするローン担保証券(CLO: Collateralized Loan Obligations)を組成する。これらの債務は、さらにリスクの異なるトランシェに分けられて債務不履行の際のリスク形態にバラエティーをもたせている。シニア―、メザニン(中二階部分)、ジュニア―といったクラスに分けられる。前者はデフォルト確率が低いかわりに利回りも低い、後者になればなるほどその逆となる。イングランド銀行の調査によると、世界中のレバレッジドローンのうち8兆ドルがCLOという形態で販売されている。米国では全体の市場の過半のウエイトを占める。

 クレジットの質が悪化している証左となるのは、レバレッジドローン市場におけるかなりの部分が財務制限条項(covenants)を全く有さないローンとなってきたことだ。財務制限条項とは借り入れ企業の財務比率が悪化した時には強制的にローンを償還させるなど、投資家を保護するために設けられる。そこまでいかなくとも財務制限条項を軽くしたコブ・ライト(covenants light)のウエイトは新規CLO発行額の85%をしめるに至っている。逆に金融市場でショックが起きた場合にはデフォルトする確率が極めて大きいことを意味する。

 ただ、レバレッジドローンがデフォルトするような場合が、金融市場を動揺させる唯一のルートではない。投資適格債券の場合、2012年には価額ベースで40%がトリプルBというジャンク債の一つ上のランクになっていた。今やその比率は50%に達している。もし、景気悪化によりこれらのトリプルBがワンノッチ低下するようなことになれば、リーマンショック後の2011年の経験では、9%ほどこれらのローン、債券の価格が落ち込んだ。新たな金融ショックが起きた際には、相当の震度になることは間違いない。

 つい最近まではレバレッジドローン、ハイイールドボンド市場などの市場悪化要因としては金利上昇がもっとも大きなリスクとみられていた。FRBが2018年に続いて2019年以降も中立金利水準血見られる3%程度まで短期金利の利上げを行うと確信されていたためである。国債金利とのスプレッドも2016年以降、次第に拡大していった。さらに2016年には警戒感が高まり、レバレッジドローン市場では価格が最大の下落を示したため、同ローンに投資していたMMFからの資金引き揚げも続いた。しかし、パウエル議長が19年初に利上げの休止を言明して以降、企業債務に対する懸念は消滅、株価は上昇、国債と民間企業の金利スプレッドも縮小した。レバレッジドローンの価格も上昇に転じた。2月のCLO発行額は前12か月平均を上回った。市場の期待は、恐れられていた、近い将来における企業債務の供給が金利上昇の悪影響により抑圧させられることはもはやない、と大きく転換した。

 金利上昇に代わる最大の懸念材料は、企業収益の先行き悪化懸念となってきた。トランプ大統領の大幅企業減税によりS&P500社の2018年の企業収益は22%の増益となった。しかし、2019年は中国、欧州などを中心に世界経済の減速傾向が強まっている。もし万が一、賃金コストが急上昇すれば、FRBは政治的圧力を押しのけてでもすかさず利上げに踏み込もう。これは債務返済コストの上昇を招来するであろう。とくに今後、世界経済がラガルドIMF専務理事の指摘のように世界同時スローダウンとなれば、トランプ大統領による減税効果が立ち消えになることと相まって債務残高の大きい企業にとっては困難に直面することになる。ジャンク格付けに転落したCLOが真っ先に償還問題を起こし、リテール投資家が投資した資金をレバレッジドローンや社債から引き揚げさせることにもつながる。

 この最悪シナリオのケースでも、10年前のCDOの破綻を契機としたグローバル金融危機の災難の大きさからみれば、金融ショックとしてはマイルドなものにとどまるであろう。金融機関の資本バッファーは飛躍的に向上し、監督当局の早期警戒体制も充実してきているためだ。しかし、空前のクレジットブームを背景とした脆弱性の下で、米国が債務問題に引きずられた景気後退に直面する可能性は低くはない。実証的研究によれば、景気後退は、それが起きる前の経済主体による借り入れの水準が大きければ大きいほど、深くかつ長くなっている、とのことだ。日本のバブル崩壊が典型例であろう。繊細な神経を要するこういう微妙な時期に、大統領選挙狙いで中央銀行に一方的に圧力をかけるのは最も避けるべきビヘイビアであることは論を俟たない。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:6/18(火) 19:02
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