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アップルのディスプレイ「Pro Display XDR」を「格安」と思う理由

6/18(火) 9:00配信

CNET Japan

 Appleは6月3日から開催した世界開発者会議WWDC 2019で、久しぶりとなるAppleブランドのディスプレイ、Pro Display XDRを発表した。本体4999ドル(約54万円)、スタンド999ドル(約10万8000円)という価格設定には、ため息を通り過ぎて怒りの声まで聞かれるほど、とCNET Japanでも報じてきた。

 Appleはこのディスプレイを作る際、プロのための道具として「妥協を許さない」という品質と、いろいろな場所で使われることを前提とした「モジュール化」のコンセプトを前提としたという。

 筆者はWWDCの会場で、このPro Display XDRと競合となるディスプレイ4種類を見比べる機会を得た。結果から言えば、このディスプレイの画質を一度見ると他のディスプレイが全部取るに足らない存在になってしまう、「格安ディスプレイ」であることが分かった。ただ格安なだけではなく、同じ品質を求めた際、現状他に選択肢がない唯一の製品であるとも言える。

 絶対的な価格が安いという意味では断じてない。プロ向けにも同じ価格のディスプレイは存在するが、Pro Display XDRに匹敵する画質のディスプレイには遠く及ばない。画質で言えば放送マスター用モニタがあるが、これを手に入れるには7倍のコストがかかる。Pro Display XDR 4999ドルに、999ドルのスタンドを付けたとしてもだ。

デザインは冷却を強く意識

 Pro Display XDRは32インチ、6K(6016×3384ピクセル)解像度を持つディスプレイだ。別売となるProスタンドに装着すると、iMacよりもディスプレイの位置をより高くセットすることができ、ディスプレイを見下ろす必要がなくなる。額縁は9mmしかなく、普段iMacに見慣れていると、極めてベゼルが小さくなったと感じた。

 背面には96Wまで充電できるThunderbolt 3ポート1つと、USB 2.0をサポートするUSB-Cポート3つが用意されているが、それ以上に目を引くのは、同時に発表されたMac Proと同じ立体構造のメッシュパターンだ。これをAppleは「レタスパターン」と呼んでいる。Mac Proがそうであったように、このレタスパターンは金属の表面積を増やしながら開口部を拡げる、冷却性能にその秘密がある。

 ProDisplay XDRの全画面を点灯させた際の輝度は1000ニトで、HDR作品の前提をクリアするものとなっている。さらに最大輝度は1600ニトにも及ぶ。バックライトは576エリアに分かれた青色LEDを用いており、点灯と消灯のコントロールを画像にあわせて行うことでコントラスト比100万分の1を実現する。

 バックライトを明るくすればコントラストや輝度は上げられるが、バックライトのLEDによる熱が発生してしまうことになる。これを逃がす仕組みがなければ、いくら明るくする性能があっても、耐久性の面で製品にならなくなる。
AppleはMac ProとPro Display XDRについて、「機能からデザインを作り込み、両立させた」と紹介しているが、Pro Display XDRについても、冷却性能によってHDRにこだわるコンピュータディスプレイに仕立てたことが分かる。

色再現と黒の美しさ

 市場にはすでに、HDRや色再現にこだわるディスプレイは販売されており、通常のディスプレイよりも割高の価格が設定されている。例えばDell UP2718Qという27インチの4K HDRディスプレイは、最大輝度1000ニトを実現し、約20万円で購入できる。またEIZO ColorEdge 31インチ4K HDRディスプレイはカラーキャリブレーションセンサーを内蔵し約60万円の価格が付く。また放送用のリファレンスモニターとして業界標準的に用いられているのは、ソニーBVM-X300という有機EL方式や、BVM-HX310という液晶方式の30型モニターで、価格はそれぞれ約400万円、約440万円。Appleが今回登場させたPro Display XDRの競合はこうした製品ということになる。

 筆者は前述のディスプレイを並べて比較するデモを見ることができた。同じ4K映像を同時に流して、その差を比較するというデモだ。輝度が高いHDRモニターでは、所々色がにじんだり、飛んだりしてしまう事態に見舞われた。また輝度がバックライトの部分駆動に対応しないモニターの場合、例えば夜空の月を大きく映した映像で、月以外の部分がぼんやりと黒の強いグレーのように見えてしまっていた。

 こうした映像の破綻を来さなかったのは、Appleとソニーのマスター用モニターだった。もちろん放送用に用意されている機能はいくつもあるが、コンピュータに接続するディスプレイとして、同じ画質を実現できるProDisplay XDRは、その価格がぐっと下げており、「格安」であるという表現がふさわしいことがわかる。

Appleのディスプレイのこの先

 AppleはPro Display XDRで、それまでの限界を超えるようなプロの道具を目指し、少なくともそれを達成したように見える。ただし、これまでのAppleのディスプレイは、自ら高いスタンダードを設定し続けてきた。

 純正ディスプレイが2016年に販売されなくなって以降、Apple製品のディスプレイはiMac、MacBookシリーズ、iPad、iPhoneに内蔵される形で出荷されてきたが、既に高精細のRetinaディスプレイ、P3(高色域)、HDR再生、4K・5K解像度、環境光で色温度を調整するTrueTone、コンテンツによってリフレッシュレートを可変させるProMotionといった技術を、各製品に拡げてきた。

 例えばiMac 27インチに搭載される5Kディスプレイ向けには40Gbpsの帯域幅を持つTCONを開発し、巨大で膨大なピクセルの制御を行ってきた。Pro Display XDRでも、TCONがローカルディミングに対応するバックライトとピクセルを一糸乱れず制御し、ビデオ再生時でも不自然な遅延を見ることはなかった。

 ProDisplay XDRの驚くべき完成度は、Appleの他の製品に採用するディスプレイに対して、大きなプレッシャーになっていくだろう。特に、iMac ProやMacBook Proなど、「Pro」を冠する製品のディスプレイの画質は、現在のままでは満足いかなくなってしまうだろう。ProDisplay XDRをベンチマークに、どのような発展を見せるのか、楽しみになってきた。

最終更新:6/18(火) 9:00
CNET Japan

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