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認知症と生きる<上> ワーキングメモリ維持、囲碁の力 

6/19(水) 17:10配信

カナロコ by 神奈川新聞

 認知症を巡っては、アルツハイマー病やレビー小体病などの原因疾患を予防、治療する研究に加え、脳の認知機能を維持・向上させて認知症の症状の進行を遅らせる研究も盛んに行われている。その中で、中等度の認知症の人に対しても、囲碁が注意機能、ワーキングメモリを維持・向上させる可能性があることが、横浜、川崎の高齢者施設などでの研究で明らかになった。囲碁は幅広い人が手軽にでき、地域住民やボランティアとの社会的交流の機会にもなるため、有効活用が期待されている。

 囲碁の効果の研究を行ったのは、東京都健康長寿医療センター研究所の飯塚あい医師ら(社会参加と地域保健研究チーム)。2015~17年、いずれも囲碁未経験の高齢者で、横浜、川崎市内の高齢者施設の入所者と、都内の地域在住者に介入研究を行った。

 施設入所者に対する研究は、中等度の認知症の人から、認知症予備群の軽度認知障害(MCI)の人まで17人(平均年齢約89歳)を2グループに分け、片方は週1回1時間、盤の小さい九路盤を使って囲碁入門講座(講義、練習問題、対戦)を15回行った。その後、認知機能の根幹で、物事に集中し重要な情報に注意を向ける能力である「注意機能」と、複雑な情報を保持・処理し対処する能力で、会話や調理などの日常生活に必要な「ワーキングメモリ」について、講座前後のレベルを比較した。

 その結果、囲碁をしなかったグループはこの間、ワーキングメモリが低下したのに対し、講座を受講したグループは、中等度の認知症の人を含め全員が囲碁のルールを覚え、注意機能は向上し、ワーキングメモリも維持された。囲碁教室の参加不参加で大きな差が生じる結果となった。

 幅広く中等度の認知症の人まで認知機能の向上が認められたことは、認知機能の低下抑制を目的としたさまざまなプログラムと比較しても、注目すべき結果となっている。

 また、認知症を発症していない人を中心とする地域在住者を対象とした研究では、72人の高齢者を、約半年にわたり週1回1時間、全12回の囲碁教室を集団で受講したグループ、自宅でタブレットを使い個人学習したグループ、囲碁の学習をしないグループの3グループに分けた。その後、視覚性ワーキングメモリについて、この間のレベルの推移を比較した。

 その結果、囲碁をしなかったグループは視覚性ワーキングメモリに変化がみられなかったのに対し、囲碁を学習したグループは視覚性ワーキングメモリが向上し、かつ集団で学んだ囲碁教室グループはより効果が高かった。

 飯塚さんは「認知機能が低下していても、囲碁の基本ルールの理解が可能でした。そして、囲碁の学習を行うことで、注意機能、ワーキングメモリが維持・向上する可能性が示されました。囲碁には大きな可能性があります」と語る。

 ◆認知機能低下抑制プログラム 認知症では、アルツハイマー病などの原因疾患があっても、認知症の症状(日常生活の支障など)が表れない人、遅く表れる人がいることが分かっている。その背景には、生活環境や、脳の認知機能の潜在力などが影響していると考えられている。
 「ナン・スタディ」として広く知られるアメリカの修道女678人を対象にした研究では、死後に脳を解剖したところ、病理学的にはアルツハイマー病がかなり進行しているのに生前は認知症の症状がなかった人、逆にアルツハイマー病の進行は初期なのに、生前は重度の認知症の症状を示していた人が見つかった。認知症の発症と遺伝的要素、生活歴、病歴などとの関係が研究されているが、教育歴など知的活動の影響が一因であることが示唆されている。
 認知機能を維持・向上させる活動としては、運動、社会的交流、知的活動などの要素が指摘されており、運動と認知トレーニング(知的活動)を組み合わせた認知症予防プログラム「コグニサイズ」(国立長寿医療研究センター)なども開発されている。

神奈川新聞社

最終更新:6/19(水) 17:10
カナロコ by 神奈川新聞

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