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【マンションが危ない(19)】 京都で斬新な「大規模改修」、建物と共同体を再生

6/20(木) 13:10配信

ニュースソクラ

住民と建物の「ふたつの老い」を乗り越える

 高経年マンションのストックが増え、スラム化が声高に叫ばれる一方、住民と建物の「ふたつの老い」を自力で乗りこえるマンションが現れている。

 マンションを次の世代に住み継ぐ芽が吹いてきた。

 京都市右京区西京極の「ルミエール西京極」もその一つ。1983年竣工の7階建て、183戸のファミリータイプのマンションだ。

 ルミエール西京極は、常識にとらわれない「大規模改修」を二度行い、建物と共同体の再生を積み重ねている。大規模修繕と呼ばないところがミソなのだ。

 1996年の初回の大規模改修では、外壁や屋上防水の修繕だけでなく、白いタイル張りの殺風景だった中庭に欅の木を植え、自然石のベンチも設えてマンションのシンボル的な空間に変えた。ここではジャズバンドや吹奏楽の演奏会、ジャグリングや手品の大道芸が催され、住民総会も開かれている。

 2011~12年の二度目の大規模改修では、建物のメンテナンスや設備の更新に加えて、アトリウムをウッドデッキに変えて開放的な扉を付け、事務所を誰でも使える「交流室」にリフォーム。全面ガラス張りにした。交流室は、子どもの遊び場や、PTAの会合、朗読会、紙芝居の集まりに使われている。

 深さ51メートルの井戸も掘り、全戸の住民が日常的に使いながら、災害に備える。京都盆地は、地下が巨大な水がめのような地質構造になっており、琵琶湖の水量に匹敵するほどの良質な水が蓄えられている。この自然の恵を活用し、いざ、災害が起きて電力供給が止まっても、関西電力の送電が復旧すれば電柱の変圧器から直接、井戸のポンプに配電できる装置を備えている。

 さらに管理組合は、マンションに併設された店舗や事務所を買い取って会議室につくり変えた。と、ルミエール西京極の改良策を並べていくと枚挙にいとまがない。つまり、単なる修繕を超えた改良の手を次々と打つので「大規模改修」と呼んでいるのである。

 しかも、数々の改良事業は、住民自身が発案し、計画を立てて実行している。

 なぜ、住民がこのような事業を遂行できているのか。

 ありていにいえば、管理組合を運営する「理念」と「執行体制」の両輪が備わっているからだろう。管理組合は、住民が嫌々係わるボランティア組織ではなく、プランを立てて問題を解決する経営体に似ている。経営といってもお金儲けではなく、「無事(生命と安心)に暮らせる環境」の醸成を目的とする。居住価値を高める経営体と言い換えてもいいだろう。

 ルミエール西京極管理組合法人の理事で、大規模改修を先導してきた丸橋次生さんは、次のようにふり返る。

 「1993年、38歳のときに管理組合の理事長を任されました。外壁塗装や防水の修繕が視野に入ったころです。同世代で、マンションの将来を真剣に議論できる仲間が何人かいましてね、夜な夜な酒を酌み交わして話し合った。管理組合団体のNPOに、知識や情報のサポートをお願いしました。

 結局、自分たちの家なのだから他人任せにせず、自分たちでアイデアを出して実現したら楽しい、先々を見通せる、と合点した。ただの修繕では代わり映えせず、寂しい。温泉を掘ろうとか、エレベーターから滝を落とそうとか、いろいろ出ましたねぇ(笑)。

 夢は夢として、できるところから手を付ける。新しく改良すれば、他の住民も、オッ、いいスペースができたな、きれいになったな、何かやってみたいな、と興味を持ってくれる。面白さの連鎖を起こしたかったんです」

 とはいえ、斬新なことをやろうとしたら、何ごとにつけて反発は起きる。初回の大規模改修では全戸で4人が反対した。修繕積立金が貯まっておらず、戸当たり27万円の持ち出しに同意しなかったのだ。

 そこで、反対者と徹底的に話し合う。これがルミエール西京極の流儀だ。

 「4名の反対者のうち、3名は電話ですんなりOKがとれ、一人の方とはひと晩、話をして納得していただいた。反対を反対のままきり捨てたらシコリが残ります。改修は大きな工事でみんなの生活に関わります。一人の反対で変な方向になりかねない。

 工事業者を選ぶときもそう。役員で評価をして、全員が合意できるまで話し合います。総会で反対意見が出たら、終わったあとにその人と話し合います。時間は惜しみません。顔と顔の関係が支えです」
 と丸橋さんは語る。

 マンションのコミュニティ力は、つまるところ本音で話し合える場をどれだけもてるかだろう。管理組合の理事に「活動費」を認めているのも、ルミエール西京極の特徴だ。18人の役員は、1回2時間の定例会議に出席すれば1000円の活動費が認められている。

 年間24回、総額で40数万円。個々に支払うのではなく、理事意識の向上のために理事会が管理し、お酒やジュースの購入、懇親会の開催に使われる。

 もちろん、会計監査は厳密だ。住民の公認会計士が監査役として目を光らせ、総会では細大漏らさず、収支報告がされている。ガバナンスを利かせながら事業をマネジメントする。経営体に似ているという所以だ。

 ルミエール西京極は、マンションのルールを定めた管理規約の第一条に、管理組合を運営する「目的」を、こう記している。

 管理組合法人は居住者相互の親睦、地域との交流、行政との連携によって、本マンションに生活するすべての者(障がい者や高齢者、介助者、子どもやその親など)が、災害を含むあらゆる状況において無事(生命と安心)に暮らせる環境にするために活動することを目的とする。

 「無事に暮らせる環境」の目標は、
 ・大災害時に一人も死者を出さないこと。
 ・ここで、子どもを育てたいと思えること。
 ・子どもたちが、いつまでも住みたいと思えること。
 ・ここに暮らしてよかったと思えること。
 その他、人を思い気遣えるようになるためのあらゆる活動の結果。

 平易な誰でも理解できる言葉で管理の目標が記されている。このような管理規約は見たことがない。理念を血肉化させる工夫といえるだろう。

■山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『神になりたかった男 徳田虎雄』(平凡社)『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)

最終更新:6/20(木) 13:10
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