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チャナティップだけでない明確な戦略による好転。Jリーグ財務診断「札幌編」

6/20(木) 7:07配信

VICTORY

Jリーグが開示している経営情報などからクラブの経営状況を探る「Jリーグ財務診断」。第7回はJ1・北海道コンサドーレ札幌を取り上げる。2018年度決算で29億8800万円と過去最高の営業収益(売上高)を計上するなど右肩上がりで売上高を増やしている同クラブ。その好調の要因を探る。

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札幌を運営する株式会社「コンサドーレ」の株主総会が4月に行われ、2018年シーズンの営業収入が過去最高を更新する29億8800万円となったことが発表された。2017年度との比較では3億1200万円、11.7%増という数字で、昨季J1で過去最高の4位と好調だったチーム成績に比例し、企業からの広告収入が2億3600万円増の13億600万円を計上したことなどが大きな支えとなった。

かつて債務超過など経営面の問題を抱えていた時期もある札幌だが、転機は2013年に訪れた。市原、札幌でプロサッカー選手としてプレーしていた野々村芳和氏が運営会社の顧問を経て社長に就任。当時の営業収益は10億7100万円で、これを6年間で実に3倍近くにした計算だ。入場料収入も3億3000万円から6億3600万円と増えているが、特に目立つのが、やはり広告料収入。4億3200万円から3倍以上に増加している。解説者やMCとしてのテレビ出演で人気を得ていた野々村社長が、その「顔」を生かし、自ら広告塔となってスポンサーを集めた側面もあるが、それ以上に注目すべきは行った取り組み。内容は非常に多岐にわたるが、特に大きな効果を発揮したものとして次の2点を挙げたい。

(1)アジア戦略・インバウンド効果

Jリーグのクラブの多くは地域密着を掲げているが、札幌がほかのクラブと異なるのが「地域内」ではなく「地域外」を見て地域の活性化を積極的に図っている点。野々村社長は「北海道を盛り上げる」ことを掲げ、その一つのエンジンとしてクラブを捉えていることをさまざまなメディアで発信している。

中でも特徴的なのが、Jリーグが進めるアジア戦略への積極的な関与だ。Jリーグは2012年にアジア戦略室を立ち上げ、2014年には通常の外国籍選手枠とは別に、アジアサッカー連盟に加盟する国の選手を登録できる「アジア枠」を設定した。さらに今季からは「アジア枠」すら撤廃され、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシア、イラン、マレーシア、カタールというパートナーシップ協定を結ぶ国からの選手が外国籍選手とみなされない規定に変更された。

この動きをいち早く活用したのが札幌だった。2013年にベトナムのスーパースター、FWレ・コン・ビンをレンタルで獲得。2015年にはインドネシアのMFイルファン、さらに2017年には「タイのメッシ」ことタイ代表FWチャナティップを獲得した。

もちろん、限られた予算の中でチームを強化するには欧州で実績のある選手を補強する方が効率的であり、編成上のリスクが少ない。「当初はこうした東南アジア選手の獲得に懐疑的な、ともすれば笑う人もいた」とはJリーグ関係者。しかし、身長158センチと小柄ながら卓越したテクニックを持つチャナティップは、札幌で主力として活躍。昨季は30試合8得点を記録し、東南アジア出身選手初のJリーグベストイレブンに選出されるまでになり、今季から完全移籍に移行。移籍金としてタイの地元メディアは「タイ選手史上最高の2~3億円」と報じている。

ただ、チームにチャナティップがもたらした効果は、ピッチ内だけにとどまらない。中田英寿、中村俊輔らが欧州トップリーグで活躍した2000年前後、それを見ようと日本から多くの観光客がイタリアなどを訪れたように、タイでは北海道などを巡る観戦ツアーが組まれ、少なくないインバウンド効果をもたらしている。

さらに、タイでは札幌の試合を中心にJリーグが生中継されており、チャナティップが札幌に加入して最初の練習をネット配信した際には再生回数が札幌市の人口(200万人)を超える300万回を記録した。SNS時代には露出が一気に世界に拡大する傾向もあり、それがインバウンド旅行者の増加につながっている。

また、札幌は「ガリガリ君」で知られる赤城乳業(埼玉・深谷市)と「アジアプロモーションパートナー」契約を2017年12月に締結。チャナティップを起用した「ガリガリ君」のタイでの広告展開、販促活動を進めるなど、アジア戦略がインバウンドのみならずアウトバウンドの可能性も広げている。実際に第2のチャナティップを期待するように、2018年には広島がFWティーラシン、神戸がDFティーラトン(現横浜FM)という新たなタイ選手もJリーグに加入。直接的なインバウンド効果に加え、海外展開を見据える企業にも恩恵のある取り組みとして、札幌のアジア戦略は注目を集めている。

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最終更新:6/20(木) 7:07
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