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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第7回】ドライバー心理が垣間見えたマグヌッセンの暴言と、謝罪を受け入れたチームのケア

6/20(木) 11:30配信

オートスポーツweb

 今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと小松礼雄チーフエンジニア。第7戦カナダGPでは、ケビン・マグヌッセンとチーム代表との無線が大きな話題となった。今回は、ミスをしたドライバーへのケアの方法や、チーム代表の知られざる人となりを小松エンジニアがお届けします。

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 第7戦カナダGPは、前戦モナコGPで機能させられたタイヤを、ダウンフォースを削った状態でうまく使えるかどうかがカギになると予想していました。結果としては、予選でのペースはほぼ予想どおりでした。ケビン(マグヌッセン)はもし予選Q2でクラッシュしていなければ、確実にQ3に進出できていたはずでした。もちろんQ3でどれくらいやれたのかというのは確実にはわかりませんが、ニコ・ヒュルケンベルグ(ルノー)と争える位置にはいけたのではないかと思います。

 一方でチームメイトのロマン(グロージャン)は、金曜日の出だしからあまり調子がよくなかったので、フリー走行2回目終了後の夕方にいろいろと話をしました。彼はクルマのことだけでなく、自分自身のことやその時の状況などを考えて、細かく分析するタイプのドライバーですが、それが彼にとって悪い方へいってしまうこともあるので、その様な時は悪い循環を断ち切ってやらないといけません。

 ロマンとは付き合いも長く、何が彼を悩ませているのかというのを大体はわかっているつもりなので、話し合って「リセットしよう」と伝えました。彼の場合は、このような会話を通してスイッチを入れ直せることがあるんです。

 おかげで、土曜日のフリー走行3回目(FP3)では走り出しからよくやってくれましたが、最終コーナーの立ち上がりで壁に当たってリヤウイングを壊してしまいました。その後ウイングの交換に時間がかかったこともあり、FP3ではソフトタイヤを履いて予選の練習をすることができませんでした。これが後に予選でひびいてきます。

 ジル・ビルヌーブ・サーキットは、普段はあまり使われていないので、Q1の出だしは路面コンディションが悪くてラップタイムも遅いです。なんとかふたりともQ1を通過しましたが、Q2ではロマンが1回目のアタックを失敗し、2回目もそこまで良いタイムには届きそうにありませんでした。最終的にはケビンのクラッシュにより赤旗が出たため、タイムを計測できずに15番手となりましたが、きちんと走れていたとしても1分11秒8くらいのタイムだったと思いますし、Q3には進めなかったと思います。

 一方でQ2終了間際に大きなクラッシュを喫したケビンですが、幸い彼の身体へのダメージはありませんでしたが、クルマの修復作業は大変でした。日曜日の午前3時くらいまで作業をしていましたが、本来は土曜日の深夜帯の作業というのは許されていません。

 通常の場合、予選が終わった3時間半後にはパルクフェルメでクルマにカバーがかけられて、日曜日の決勝レースのスタート5時間前まで作業ができないことになっています。ちなみに、この規則を破った場合のペナルティというのはレギュレーションに明記されていませんし、前例もちょっと思い当たりません。

 過去にある例は、シャシー交換を行ってピットレーンからのスタートとなった場合くらいです。シャシー交換をすれば、規則で自動的にピットレーンスタートになります。交換作業にはかなり時間がかかるので、これもほぼ自動的に規則外の時間で作業をすることになりますが、すでにシャシー交換でピットレーンスタートとなっているので、それ以外のペナルティーは発生しません。

 またこの機会を使って通常は許されていない予選後のセットアップの変更も行いました。というのもただ最後尾から走って順位を上げることは難しいので、最高速重視のセットアップにしました。これは、ある程度のギャンブルです。たとえダウンフォースを削ったとしても、もしタイヤがうまく機能しなければ、コーナーの立ち上がりが悪くなり、結局は追い抜くことが出来なくなるからです。

 良い方向に向かうことを願うしかなかったのですが、最終的にダウンフォースを削ったセットアップで臨んだ決勝レースでは、路面温度が52度まで上がってリヤタイヤにも影響が出てしまい、その目論見は外れてしまいました。結果としてケビンは17位で、ロマンはスタート直後にダメージを負ったこともあって14位でそれぞれレースを終えました。

■マグヌッセンの暴言と謝罪の裏側にあるドライバー心理

 上述の通り、セットアップの変更は失敗に終わり、ケビンがレース中に不満を漏らすようになりました。それを聞いたギュンター(シュタイナー/チーム代表)からは、第5戦スペインGPでケビンとロマンが同士討ちをした時と同じように、ドライバーに注意をするべきかと僕に相談がありました。

 スペインGPの時は「チームメイト同士で2回もぶつかることはないと思うから、ドライバーを信頼して任せよう」と僕は言いましたが、結局彼らは2回もぶつかりましたし、先に注意するべきでした。だけどできれば公の場で注意をしないほうがいいと思い、今回もギュンターには「ケビンがもう1回不満を言うまでは待ってほしい」と提案しました。

 彼もそれをわかってくれて、一旦は落ち着きました。しかしそれでもケビンが「このクルマはキャリアのなかでも最悪のクルマだ」と不満を口にしたので、ギュンターからの注意がありました。

 ケビンのレースパフォーマンスは、やっている僕たちチーム全員にとってもまったく満足できるものではありません。どうしてこのような状況になったのかと考えれば、それはもちろんケビンが予選でクラッシュをしたからですが、プッシュしていればクラッシュすることもありますし、そのミスに対しては僕もギュンターも怒っていません。それなのに、レース中にあのようなことは言うのは無責任です。

 実は以前にも似たようなことがあって、レースの週末が終わってからケビンと話をしました。そこで彼は、「ひとりで運転しているときは誰かに自分の考えを伝えることができないので、どこかのタイミングで、自分のなかで溜まってたものを吐き出さないといけなくなる。でもそれを言ったとしても、言葉通りの意味があるわけではない」と打ち明けてくれたんです。

 ケビンの言っていることは本当だと思います。ただ、無線を聞いているのは状況を理解している人間だけではないですし、細かい事情を知らないメカニックや、さらにはスポンサーなど世界中の人々がそれを耳にします。だからそういうことは言うべきではないと、彼には再度レース後に伝えました。

 もちろん今回も、ケビンに悪意があったわけではありません。当然僕もギュンターも、ケビンの担当エンジニアもそれを理解していますし、だからこそギュンターには注意するのを待ってほしいと言ったんです。

 レース後のデブリーフィングでは、ケビンは一番最初に謝ってくれました。話し合いが終わった後には僕のところへ来て「きちんと謝りたい」と言ってくれましたが、僕は「クルマを直してくれたメカニックのところへ謝りに行ってくれ」と伝えました。もちろん彼はきちんとメカニックに謝りましたし、とても反省して落ち込んでいました。今後、同じことが起こらないことを願います。

 今回のレースのことはともあれ、今のケビンは精神的に良い状態にあります。彼はこれまで、考えなくてもいいようなことまで考えてしまうことがありました。ケビン自身は、そういう考えがパフォーマンスに影響することはないと言っていましたが、僕は必ずしも同意見ではありませんでした。

 それが3シーズン目を迎えた今年は、まったくそのようなことがありません。ケビンは、余計なことを考えないで済むような環境を整えてあげれば、集中してパフォーマンスを発揮できるタイプです。結果にはつながりませんでしたが、カナダGPとモナコGPではそれができていたので、きちんと成長していると思います。

■“忠誠心のある、優しい”チーム代表からの電話

 最後に、チーム代表のギュンターについてです。なかなか彼の人となりが伝わっていないようですが、彼は根はとてもいい人です。もちろん感情的になって怒ることもありますが、故意にそうしているわけではないですし、絶対に公の場でドライバーを批判したりすることもありません。忠誠心があって、優しい人ですね。

 例えばモナコGPではケビンの戦略を失敗してしまい、僕はもちろん、ギュンターだって頭にきていたわけです。でも、だからといって彼が僕を責めることはありません。それは僕のことを見て、自分のミスを理解していると彼が判断したのだからだと思います。

 それどころか、モナコGPの数日後にギュンターから電話がかかってきました。何かと思ったら、戦略を失敗して落ち込んでいた僕を心配しての電話だったんです。こうして電話をもらうほど落ち込むこともありますが、立ち直れなければやっていけません。

 決してミスを軽視するわけではありませんが、落ち込んでいても始まらないですし、僕のような立場の人が落ち込んでいると、下の立場の人も落ち込みます。僕に唯一できることは、ミスの原因を明らかにしたうえで、2度と同じことが起きないようにして次のレースに向かうことです。解決策を見つけて、次の第8戦フランスGPではどうしたらもっと上手くやれるだろうかとを考えて、ポジティブな方向へ持っていくしかないです。

 フランスも暑くなりそうです。良いレースをして、バルセロナ以来となる2台揃ってのトップ10で完走したいと思います。

[オートスポーツweb ]

最終更新:6/20(木) 11:59
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