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対中協議、米外交の二重性くっきり トランプ派とペンス派と

6/21(金) 15:10配信

ニュースソクラ

【中国ウォッチ】危険な対イラン外交 誰もが強硬

 ドナルド・トランプ米国大統領は、5月5日に突然、ツイッターで中国を非難し、5月10日から関税を引き上げると宣言した。

 <この10カ月間というもの、中国は500億ドルのハイテク製品に、アメリカに25%の関税を払い続け、2000億ドルのその他の製品に、10%を払い続けている。これらの支払いは、われわれの偉大な経済の結果に特に帰するものだ。10%は、金曜日に25%に上がる。3250億ドルの追加の中国製品には無税を続ける。だが遠からず25%を課せられるだろう。関税によって、アメリカにはわずかな製品コストの影響しかない。そのほとんどは中国に行っている。

 中国との貿易交渉は続けるが、遅すぎる。彼らは再交渉しようとするのだ。ノー!>
 
 この2000億ドル分は当初、今年元日から、10%を25%に引き上げる予定だったが、昨年12月1日にアルゼンチンG20で、トランプ大統領と習近平主席の会談を受けて、今年3月1日まで延期された。その後も、米中が交渉中であるとして、トランプ大統領は「関税引き上げ」を言わなくなっていた。

 この間、4月30日と5月1日に、10回目の米中閣僚級貿易協議が北京で行われ、ライトハイザー通商代表とムニューシン財務長官が訪中し、劉鶴副首相と協議した。そして5月8日から、ワシントンで11回目の米中閣僚級協議を行って、一応の決着を見るということになるのではと、楽観的な観測が広がっていた。それが、またトランプ大統領得意の、ちゃぶ台返しである。

 たしかに、10回目の協議の場に現れた劉鶴副首相が、いつにも増して、厳しい表情をしていたのが気になっていた。彼は海千山千の政治家ではなく、ただ習近平主席の中学校の同級生というだけで、副首相にまで祭り上げられた生真面目な経済学者なので、交渉内容は黙秘しても、顔の表情に出やすいのだ。かわいそうに劉副首相の髪は、この一年で真っ白になってしまった。

 6日の中国市場は、この「トランプのつぶやき」によって、大暴落。中国のネット上にも、「株式市場は『緑』(下げ)一色で暴落が止まらない!」「上がった株は105社、ストップ安は959社」「1日で3兆元が消えた!」……などと、不穏な見出しが溢れた。

 だが瞬く間に、それらはネット上から削除されていった。残ったのは、「上海市場は1日で5・58%下落し、深せん市場は7・56%下落した」という1行のみとなった。まさに、これぞ「中国の特色ある社会主義」という対応である。

 ところで、われわれが注視すべきは、「トランプ外交の二重性」という現象だろう。

 トランプ政権は、昨年末に調整役の重鎮だったマティス国防長官が政権を去ったことが大きく、今年に入って、明らかに外交のスタイルを変えつつある。すなわち、昨年まで辛うじて「1本の線」を保ってきた「トランプ外交」が、3年目を迎えた今年に入って、「2本の線」に変わりつつあるのだ。

 それは、あたかも高速道路の2本の車線を、それぞれ勝手に走る2台の車のようなイメージだ。すなわち、左側の車線を、クラクションをよく鳴らす一台のポンコツ車が走っている。そこへ突然、追い越し車線に別のSUV車が現われ、高速で追い抜いていく。道路に車は一台きりだと思っていると、実は二台走っているのだ。

 喧しいポンコツ車は、トランプ大統領自身が運転している。もう一台のSUV車には、ペンス副大統領、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領安保担当補佐官らが乗っている。

 仮にこれらを、「トランプ派」と「ペンス派」と呼ぶと、2月27日、28日に、金正恩委員長との2回目の米朝首脳会談を開いたのは、「トランプ派」である。ところが現場で、「ハノイの決裂」に追い込んだのは、「ペンス派」なのである。

 また、中国との貿易交渉についても、「10日から関税を25%にアップ」と決定づけたのは、「ペンス派」である。では「トランプ派」の意図は? というと、それは翌6日(日本時間7日)にアップしたツイッターに滲んでいる。

 <アメリカは何年もの間、6000億ドルから8000億ドルも貿易で失ってきた。中国に関しては、5000億ドルだ。申し訳ないが、もはやこれを続けていくわけにはいかない!>

 この「申し訳ない」というのが「トランプ派」のホンネだ。

 北朝鮮に関しても、4日に短距離弾道ミサイルを発射したが、トランプ大統領は、これを「短距離弾道ミサイル」とはっきり述べず、同日、次のように発している。

 <この面白い世の中には、どんなことだって起こる。だが私は、金正恩が北朝鮮の大きな経済的潜在力を完全に理解していると信じている。そして、それを遮断したりストップしたりはしないこともだ。彼はまた、私が彼とともにあるのを知っており、彼が私に行った約束を破るのを望んでいない。取引はこれから起こるだろう!>

 こちらはどう見ても、「トランプ派」を代表しての発言である。

 だがそんな中で、これから最も危険になってくるのは、イランを巡る動向である。なぜなら、ことイラン問題に関する限り、「トランプ派」と「ペンス派」の考えは、ほぼ百パーセント一致しているからである。「誰もが強硬」なのである。これは危険だ。

 しかも5月7日から、イスラム圏は「ラマダン」(断食月)に入った。ラマダンのイスラム圏を訪問すると分かるが、人々はひねもす呆けている。日が明けてから暮れるまで、飲食物を一切、口にできないため、働く意欲が湧かないのだ。

 トランプ政権はそんなこと、百も承知だから、この時期にあえて、イランの締めつけにかかろうとしている。「ペンス派」のボルトン大統領安保担当補佐官は5月5日、空母エブラハム・リンカーンを中心とした空母打撃群を中東地域に派遣すると発表した。

 「オバマ政権がサインしたイラン核合意から離脱する」とトランプ大統領が宣言してから、8日で丸1年を迎える。シェールガス革命によって中東の石油を必要としなくなったアメリカは強気なのだ。

 アメリカにとって、北朝鮮の「本当の脅威」は、北朝鮮が経済制裁でやむにやまれなくなって、イランに核技術を「密輸」し始めた時である。中国についても、イランの最大の原油輸出先であることが、アメリカには気に入らない。

 ともあれ、「中東の石油を必要とする」日本にとっては、イランを巡る情勢は、大きな危機である。

■右田 早希(ジャーナリスト)
25年以上にわたって中国・朝鮮半島を取材し、中国・韓国の政官財に知己多い。中国・東アジアの政治・経済・外交に精通。著書に『AIIB不参加の代償』(ベスト新書、2015年)

最終更新:6/21(金) 15:10
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