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両手両足つかまれ連行…強引な「ひきこもり支援施設」の実態を脱走者が証言

6/21(金) 12:12配信

BUSINESS INSIDER JAPAN

「証拠がない」と被害届受理されず

イチロウさんは入所中に一度だけ、スタッフの同伴なしで外出できた。交番で被害を訴えたが相手にされず、区役所でも複数の部署をたらい回しにされた挙げ句に「証拠がない」と対応してもらえなかった。

アカリさんは入所直後にも一度脱走し、警察に保護された。彼女は、無理やり連れてこられたことを警察官に必死で説明したが、暴力を受けていないなどとして、施設職員に引き渡されたという。脱走後、複数の警察署に被害届を出したが、受理してもらえなかったと話す人もいる。

被害者支援に当たる望月宣武弁護士によると、たとえ親が子どもの連れ出しに同意したとしても、子どもが成人、あるいは10代半ばなど意思表示できる年齢に達している場合、法的な拘束力はないという。

「施設職員が、子どもを無理に連れ出し家に帰さないのは、逮捕監禁罪に当たる可能性が高い。しかし職員は突然訪問するため、被害者に証拠となる動画や写真を撮る余裕はなく、立証は難しい」

と話す。また行政が介入しづらいのは、民間の自立支援施設を規制する法律が存在しないことも一因だとして、「業者に網をかけるための法律を、早急に立法すべきだ」と訴えた。

無理に連れ出しても回復しない

入所者の中には、自ら納得した上でこうした施設に入り、自立に向かう人もいる。しかし、ひきこもり当事者・家族が作る「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」共同代表で精神科医の中垣内正和氏は、

「当事者の意に反して、強引に連れ出した場合は、ほとんど回復にはつながらない」

と話す。

「むしろPTSDを引き起こし、社会や親への不信感を募らせるなど、予後が深刻になり逆効果だ」

と指摘した。

KHJは、川崎殺傷事件の後に出した声明文でも、「家族が法外なお金をかけ引き出し屋といわれる支援業者に依頼する場合もあるが、問題解決よりも、トラブルに見舞われることが多い」と警告している。

一般的なひきこもり支援では、当事者と信頼関係を築いて外出や就労を促すまで、年単位の時間がかかることも珍しくない。

一方、アカリさんらがいた団体のホームページは、早ければ3カ月で自立させるとうたっている。都内のKHJの支部には最近も、この団体をネットで見つけた父親から「息子を預けるのに良さそうだが、どう思うか」という相談があり、「あわてて思いとどまらせた」(支部長)という。

望月弁護士は、こう強調する。

「ひきこもり支援に特効薬はない。しかし『誰にも頼れない』と追い詰められ、視野狭窄に陥った親ほど、『1カ月で回復させる』といった言葉にだまされてしまう。まずは家族会への参加を促すなど、親を孤立させないための支援が必要だ」

また中垣内医師は、回復に時間がかかったとしても、本人への支援を続けることに意義はあるという。

「川崎殺傷事件は、加害者に支援が届かず孤立した中で起きた。社会が何のアプローチもしなければ、当事者は絶望して暴力的になる恐れもある。訪問支援などで『誰かが気にかけている』と感じ取ってもらうことは、非常に重要だ」

アカリさんは事件後、脱走した施設の職員が、支援の専門家のような立場でメディアに出演しているのを見て「はらわたが煮えくり返るような怒り」に襲われたという。彼女は訴える。

「親は、たとえわらをもすがる思いであっても、安直に暴力的な支援団体に子どもを託さないでほしい。ひきこもり当事者の人権を踏みにじり、外から殻をこじ開けようとしても、さらに深い傷が残るだけです」

(文中カタカナ名は仮名)

(文・有馬知子)

有馬知子

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最終更新:6/21(金) 13:37
BUSINESS INSIDER JAPAN

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