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B級からS級になった中国のIT、その理由はソフトウェアアップデートの速さ

6/22(土) 12:00配信

アスキー

キャッシュレス決済やスマートフォンなど、世界的に見ても一流と思えるITのサービスや製品が中国から生み出されている現実がある。その背景にソフトウェアによる改良の速度の速さがあると筆者は見る。
世界レベルで見てスゴいITのサービスや製品
日本にもあるが、中国からもたくさん出てきた
 先日、筆者も執筆した「中国S級B級論 ―発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)が発売された。
 
 いつB級からS級に変わったかというテーマのもと、中国のITがいつすごくなったのかについて半年以上前に書いた。半年経過すると、執筆当時の考えとは正直かなり変わるもの。一意見としては間違ってないと言い切れるのだが、違和感を感じる部分も出てきた。そこであらためて本記事では、「もうひとつのS級中国IT論、B級中国IT論、いつ中国がスゴくなったのか」について書いていきたい。
 
 中国S級B級論 ―発展途上と最先端が混在する国高口 康太、伊藤 亜聖、水彩画、山谷 剛史、田中 信彦(著)さくら舎
 
 
 中国はどこまでがB級で、どこからS級なのか。そもそもB級は何か、S級は何か、と考えるに、B級はショボいモノ、S級はいいモノを超越したスゴイモノ、その間のA級は普通に利用できるよいモノであると言える。
 
 そこで中国のS級を考える前に、日本のスゴイモノは何かを考えてみよう。
 
 たとえば、富士通やNEC、VAIOといった日本メーカーの軽量ノートPCは他社を超越する軽さがある。中国ではさまざまなノートPCが出ているが、日本の軽量ノートPCのような製品は出ていない。実際そうした「世界最軽量」をうたうものはいい製品である。
 

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 ゲームの世界でも、日本メーカーのゲーム機は世界で通用する製品であり、S級と言えるだろう。またソフトにおいても、世界中の雑誌やサイトのレビューを100点満点で換算して平均値をとったメタスコアにおいて、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「ペルソナ5」「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」などは、極めて高いスコアを獲得していて、世界に通じるという作品という意味でS級製品と言えるだろう。また最近ではリメイク版の「FINAL FANTASY VII REMAKE」が発表されたが、「FINAL FANTASY VII」は当時のユーザーであれば、初めての経験に衝撃を受けた。それもまたS級製品といえる。
 
 では中国はどうか?
 
 B級中国は今も健在である。手抜き製品はいくらでも存在する。ちょっと確認すれば気づくような誤植をさまざまな商品の説明書で見たが、今も有名メーカーの製品でなければよくあること。印刷物もそうだが、ハードウェアそのものについても、用途不明なコネクターがあったり、部品が足りなかったりすることもしばしばだ。
 
スマホではシャオミが1つのブレイクスルー
頻繁なソフトウェアアップデートが製品の完成度を上げた
 中国のIT系ハードウェアが評価されたのは、小米(Xiaomi、シャオミ)のスマートフォンからだ。当時、コストパフォーマンスが非常に優れていて目立っていたことから、日本のIT系マニアが「どうもシャオミはすごいんじゃないか」とばかりに話題にしたり、レビューしたりしていた。
 
 シャオミはそれまでの中国メーカーのスマートフォンと異なり、カスタムUIである「MIUI」をプリインストールし、素のAndroidよりも使いやすくなるように、頻繁にアップデートを行なった。また紙の説明書は極力シンプルにした上で、本体側で電子コンテンツで細かな説明を見られるようにした。現在の洗練された中国のスマートフォンの雛形はシャオミが作り出したと言ってもいい。B級からの脱却である。
 
 ただシャオミは普通にいいモノではあるが、実際のところはS級かというと言いすぎである。S級は何かといえば、たとえばファーウェイのスマートフォン「HUAWEI P20 Pro」。日本のメディアでもライター各氏がそのAIによるカメラ性能を絶賛していることを考えてもS級といえる。ただファーウェイ問題があるので、その次のHUAWEI P30 Proが日本で出てたとしても、さらに続く製品に関してどうなるかは不明だ。もちろんOPPOやレノボなどの他社が、ファーウェイのフラッグシップに負けないようなスマートフォンを投入してくるのかもしれない。
 
 シャオミのMIUIに始まった、AndroidのカスタムUIしかり、ファーウェイのAIカメラしかり、OPPOやMeituやそのほかの端末にしても、現在評価されるまでに素晴らしいのは中国企業ならではのソフトウェアの頻繁なアップデートの賜物である。
 
 中国のハードウェアのB級、A級、S級の差は修正や更新が矢継ぎ早にできるソフトウェアアップデートの差にあると思っている。更新できないハードウェアでは勢いで作ったB級的なモノが多い一方、更新しやすいAndroid搭載機器などではA級なものが多く、そこから多くの人が研究開発に携わりブラッシュアップされた製品はS級になれるわけだ。
 
最初はバグだらけでも、ユーザーの要望によって急速に改良し
模倣元とは似ても似つかぬ超強力サービスに進化
 実際に中国発のソフトウェアは強い。最初はバグだらけだったものが、アップデートごとに修正され、さらに中国人ウケのする機能を追加して、オリジナルの路線を突き進んでいく。
 
 日本のソフトではありえないくらい高頻度で更新し、一気に改良していくため、やがてすごいソフトへと化けていく。たとえば、微博(Weibo)はTwitterの模倣から始まったし、微信(WeChat)の前にはWhatsAppがあった。
 
 微博や微信はユーザー数を増やし改良に改良を重ね、微信であればキャッシュレスのWeChatPayやミニプログラム(小程序)と呼ばれるアプリ内アプリ(クラウドアプリ)プラットフォームを普及させるなど、インスパイア元を凌駕するサービスへと化けた。微博や微信はS級サービスだろう。WeChatPayやAlipayのキャッシュレス決済もいち早く普及させて世界中を驚かせたので、S級サービスと言えよう。中国のPCとインターネット普及の立役者であるQQというインスタントメッセンジャーも、もともとICQの模倣から始まって独自機能を付け加えたので、QQもS級サービスと言える。
 
 最近では中国発のサービスが外国に展開されて受け入れられている。日本でも若者を中心に利用されているTikTokは、中国のバイトダンスが出したものだ。また女性に支持されているフォトレタッチの「BeautyPlus(美図秀秀)」は中国のMeitu(美図)製だ。これらを利用する若い世代の中国製品のイメージはかなりよく、それより上の世代と大きな意識の差がありそうだ。これもまたS級だろう。
 
 「TikTok」や「BeautyPlus」は中国国外にも進出し普及したS級製品だ。中国国内で展開するサービスにはさまざまなS級サービスがある。たとえばキャッシュレスを越えて信用スコアなどのサービスを提供するフィンテックの「支付宝(Alipay)」ほか、シェアライドの「滴滴出行(Didi)」、フードデリバリーをはじめとして、多様なサービスでリアル店舗とつなぐ「美団(Meituan)」などだ。もっともS級となった背景には、デリバリーやシェアライドですぐ動ける労働者が非常に多いこともそうしたサービスの背景にはある。
 
 Android搭載のデジタル製品が発売され、ソフトウェアアップデートがより気軽に手軽にできるようになり、A級製品が増えてきた。また中国ではIoT機器が続々と発売され、導入されている。これもアップデート可能であり、ソフトウェア的には補正が容易だ。
 
 中国企業のIoTは日本企業のIoTよりも迅速にアップデートすることから、ハードウェア的な不良は出にくいだろうし、使いやすくなるまでの時間は日本よりもずっと短いことが想像できる。
 
 個人向けの有名どころではシャオミからはIoT機器が発売されているが、今後はむしろ生徒の成長をチェックできる学校への導入や、病院、自動化工場、さらにはスマートシティなどで、規模の大きなS級パッケージ・S級システムが誕生するのではないかと思う。社会実験を法制度ができる前に積極的にできる土壌の中国だからこそ、S級パッケージ・S級システムは出てきそうだ。
 
ソフトウェアアップデートが無い世界では
今後も日本は強いか
 今後もS級を出し続けるだろう中国だが、初めに書いたとおり、日本はアップデートできないハードウェアやコンテンツでは強い。軽量薄型のノートPCしかり、ダウンロード不要で遊べるコンシューマーゲームしかり。
 
 バランスが悪くても課金次第で進みやすくなるオンラインゲームは中国は強いが、各キャラクターのバランスが重要な格闘ゲームは中国は苦手とするところ。またアニメも技術では追いついているが、総合的な完成度では日本は高く、中国人も日本のアニメのほうを高く評価している。つまりネットでのアップデートでも変わらないところでは、日本はS級を出し続けると思っている。
 
山谷剛史(やまやたけし)
 
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)、「日本人が知らない中国インターネット市場」「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」(インプレスR&D)を執筆。最新著作は「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 」(星海社新書)。
 
文● 山谷剛史 編集● ASCII編集部

最終更新:6/22(土) 12:00
アスキー

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