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デジタル先進国エストニア、電子納税が驚異の95%、税制も超シンプルで節税要らず

6/22(土) 9:46配信

税理士ドットコム

マイナンバーカードの交付がはじまって早いことに3年が経過します。しかし、全国の普及率はわずか13.0%に留まっています(2019年4月1日現在) 。初期投資だけで3000億円超もの予算を掛けておきながら、約9割の人は利用してないというのが現実です 。

これに対して、日本のマイナンバーカードと同様の「デジタルIDカード」を15歳以上の国民に保有を義務付けている国があります。それが「エストニア」です。デジタル先進国として今世界中から注目を集めている国です。特に、デジタルIDカードを使った「電子納税」の利用率は、95%と驚くべき割合を示しています 。どうしてここまで普及したのでしょうか。(ライター・メタルスライム)

●生き残りをかけた「電子国家」戦略

エストニアは、ロシアの西側に位置し、フィンランドの真下にある国です。人口は130万人で、長崎県と同じくらいの人口規模になります。東京都の人口と比べると10分の1にすぎません。エストニアは、数々の侵略を受け、それを経た後、1991年に独立を果たしますが、資源も乏しく国際社会で生き抜くためには、何らかの国家戦略が必要でした。そこで選んだのが、「電子国家」という戦略です。

これからの世の中、「IT」や「AI」がますます進化することは明らかであり、限られた人員の中で効率的に行政運営をするためにもIT化は避けられないという事情もありました。国民にデジタルIDカードを保有させ、あらゆる手続きをオンラインで処理できれば、人もコストも削減することができるからです。

●外国人が簡単に仮想住民になれる「e-residency」制度

また、エストニアでは、外国人が簡単に仮想住民になれる「e-residency」という制度があります 。仮想住民になると、エストニアで法人を設立することができます。つまり、外国に居ながらにしてエストニアに法人を設立して、ビジネスをすることができるのです。インターネットを使ったビジネスであれば、どこにいようと仕事はできるので、複雑な行政手続きが必要な国でビジネスをするよりも、ほとんどの行政手続きがオンラインで出来るエストニアで起業するメリットがあるわけです。

さらに、起業家にとってメリットが大きいのは、税制上のしくみです。法人については、利益が上がっても内部留保している限りは課税されず、配当する時点で20%が課税されるというシンプルなものになっています。そのため、細かな節税対策を考える必要がなく、申告手続きもオンラインで完結できるので、会計士や税理士を雇う必要がありません。なお、エストニアと日本との間には「租税条約」が締結されているので、二重課税の問題は生じないようになっています。

所得税についても所得の違いによる税率の差はなく一律20%です。デジタルIDカードの利用によって所得は把握されているので、申告書にはあらかじめ金額や必要事項が記載されています。そのため、訂正や修正がなければ、クリックのみで完結することができるという簡単さです。

●日本の実情、自宅から電子申告しているのは2割だけ

日本にも「e-Tax」という確定申告書を作成するシステムがあります。しかし、エストニアとは異なり、申告書フォームに全て自分で入力するというものです。

平成29年の国税庁の資料を見るとICT利用率は65%となっていますが、その中身はわざわざ税務署や地方団体会場に行って申請するものと確定申告書の作成だけe-Taxを使い、提出は書面で行っているものが多く、自宅から電子申告しているのは、全体のわずか2割にすぎません。しかも、郵送での申請では、毎年マイナンバーカードの写しを提出しなければならないという合理化どころか負担が増えているというありさまです。

電子申告が増えない現状に、国税庁もやっと重い腰を上げて、事前の申請を不要とし、平成31年1月からマイナンバーカードとICカードリーダがあれば、電子申告できるようになりました。ただ、それでも個人認証が必要だったり、専用のソフトをダウンロードしてインストールしたりとハードルが高いのは変わっていません。そもそも、マイナンバーカードの発行が増えない限り電子納税は普及しないでしょう。

●メリットの説明が乏しいマイナンバーカード

これまで見てきてわかるように、少なくとも行政手続について日本はIT後進国なのです。国民全員にマイナンバーを割り当てておきながら、マイナンバーカードの交付は任意にするなど中途半端な制度としたために、マイナンバーカードの普及が進んでいません。

その上、マイナンバーカードのメリットとしては、コンビニで住民票が取れることぐらいです。しかも、全部の自治体が対応しているわけではありません。これでは、マイナンバーカードの交付を受けようと思う人が少ないのも頷けます。

マイナンバーカードの導入の際には個人情報が漏洩した場合にどうするのかといった議論ばかりされ、それを利用してどのようなメリットが生まれるかの議論がほとんどなされませんでした。

本来なら時間を掛けてでもマイナンバーカードのメリットを丁寧に説明し国民の理解を得る努力をすべきでしたが、法案を通すことだけを優先したため、安易に妥協し、莫大なお金だけを掛けて国民にメリットのない残念な制度になってしまっています。

●リスクばかり考えても、前には進まない

冒頭でも述べた通り、マイナンバーカードの普及率は、約1割と低迷しています。普及率の低さに危機感を覚え、健康保険証への利用が検討されはじめていますが、これも必ず義務付けるものでなければ、導入に慎重な健康保険組合は同調しないでしょう。

エストニアがこれだけの電子国家になれたのは、人口が少なく共産圏で育ってきた人たちなので権利意識が高くないという事情はあると思います。そのため、日本で直ちに同じようにすることは難しいでしょう。

ただ、リスクばかり考えて何もしないのでは前に進みません。リスクを取らなければリターンは得られないので、その点を十分説明した上で、「マイナンバーカードを発行したい」と思ってもらえるようなサービスの展開を考えて欲しいものです。

そのためには、セキュリティー対策を講じた上で、マイナンバーカードの民間への開放も検討すべきように思います。少子高齢化に伴う人手不足を補うためにもIT化を推進し、公務員の人員を大幅に減らすといった大きな改革が求められる時代ではないでしょうか。

<参考資料>

政府税制調査会海外調査報告(エストニア、スウェーデン)(内閣府)
https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2017/29zen10kai7.pdf

エストニア共和国 基礎データ(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/estonia/data.html

エストニアのe-residency制度
https://e-resident.gov.ee/become-an-e-resident/

エストニアとの租税条約のポイント(財務省)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/press_release/20170830ee_pt.htm

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:6/22(土) 9:46
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