ここから本文です

「日本人は、人生よりも『仕事』を大事にする」 鈴木敏夫さんがタイで感じた、現代日本人の生き方

6/23(日) 11:24配信

ハフポスト日本版

『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』などを手がけた、日本が誇るスタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫さん。

【写真】インタビューに応える鈴木敏夫さん

ジブリの裏側、映画プロデューサーや経営者としての仕事論ーー。これまで数多くの書籍を綴ってきた鈴木さんは2018年夏、自身初のノンフィクション小説「南の国のカンヤダ」を上梓した。

描いたのは、鈴木さんが都内にあるマンションのエレベーターで出会ったタイ出身のシングルマザー、カンヤダとの交流だ。カンボジアの国境近くにあるのどかな村、パクトンチャイ出身で、仕事に活かせる日本語を学ぶために日本に留学した経験を持つ。


カンヤダは1年でタイに帰ってしまうのだが、帰国後も鈴木さんとの付き合いは続き、その縁は鈴木さんの友人にも広がっていく。鈴木さんはパクトンチャイを訪れ、自由奔放に生きるカンヤダを助けようと、みんなで彼女の職探し・家探しに奮闘する。最終的にはバンコクでジブリ公認のレストランをオープンするまでに至るのだ。

明日のことは考えず、過去も振り返らない。「いつも、今、ここを生きている」。鈴木さんはカンヤダについてそう書いている。その生き方は、「貧しかった頃の日本人」の姿も重なったという。

鈴木さんは、なぜカンヤダの生き方に惹かれたのか? パクトンチャイで生き生きと暮らすカンヤダたちに、私たちが学べることはあるだろうか。鈴木さんにインタビューした。

ーー本では、自由気ままなカンヤダにたくさんの人が巻き込まれていく様子が描かれます。「赤の他人」同士なのに、深い絆ができていく様子がすごく新鮮でした。

カンヤダは、お金には代え難い体験をさせてくれるんです。

あとは、やっぱりパクトンチャイですよ。そこでの暮らしは特別ですよね。カンヤダの実家に行くと、夕方ちょっと前ぐらいから近所の人たちが集まりだして、庭で酒盛りを始めて、みんなでワイワイしていて。そういうのを見ると、やっぱり安らぎますよね。

日本にいる時とパクトンチャイへ行った時とで呼吸が違う。胸が開いて、顔が緩むんですよ。

朝に日本を出て、パクトンチャイに着くのはだいたい早くて夜の10時とか、ともすると深夜12時を回る時もある。10数時間の長い旅でしょう?けれど降り立って空気を吸った瞬間、大概誰かが言い出すんです、「空気がおいしい」って。最初の深呼吸、これですべて変わってしまうんですよね。

それで一晩経つと、朝は「いや、よく寝ました」ってみんなが馬鹿の一つ覚えみたいに同じことを毎回言うんだよ。(笑)そこにいると体から変わるんです。


ーー鈴木さんは、パクトンチャイを貧しかった頃の日本に重ねています。懐かしさも感じると。そういう場所はもう日本にはなくなってきていると思いますか?

なかなかないですよね、もう既に。やっぱりテレビとかのメディアの力で、日本中が一つになってるじゃない。

ところがタイにはそうじゃないところがまだいっぱい残ってる。だからみんな行くんじゃないですか。

ーー日本は貧しかった頃、つまりパクトンチャイみたいに戻るべき、という考えもあるのでしょうか?

というより、僕は、放っとくとそうなるんじゃないかと思って。

昔の日本人は、「お金はないけれど心は豊か、貧しいけれど心は豊か」という生き方をしてきたと思います。それが何でそうじゃなくなったかと言えば、経済が発展して物資的に豊かになったからでしょう?

ーー裕福になる代わりに「心が貧しくなった」と。

でも、その物質の豊かさは今変わりつつあるじゃない?それは、傍から見ていて僕はおもしろいと思いますけれどね。

ーー日本にまた貧乏な時代がやってくると?

まだ「食えなくて困る」とか、そういうことはないでしょう。でも、いずれそういう問題が出てくると思うんですよ。今はアジアの人に声をかけたら、みんな日本に働きに来てくれる。なぜなら、日本が豊かだと思っているからですよね。

でも、このままいくとどうなるか?日本に来なくなりますよね。

そうすると、日本だけでやっていかなきゃいけなくなる。そして、そうなると多分人は幸せになってくるんだと思います。


ーー貧しくなると「幸せ」になるんですか?

これは本当に難しいんだけれど、物質と心って反比例するんですよね。

何もなくなると、持っていないと、人間は何かしようとする。そうすると人生が大事になってくるでしょう?そういう気がしますよ。

例えば、僕がネットというものがすごいなと思うのは、音楽や映像、本だけじゃなくて、車のシェアみたいに、リアルな世界にも及んできましたよね。毎月7,000円払えば何万着の中から好きな洋服を借りられる、みたいなサービスもある。

ーーシェアリングエコノミーですね。

そう。あれは「お金を使わない」ということでしょう。ある種必然的に生まれてきたものですよね。そして、それは知恵ですよね。本来は、お金があれば全部買えばいい。それができなくなってきたことの証拠でしょう。

色々な会社が、これからどんどん変わっていくと思います。

今までは、世界中に展開するなら大きな会社を作って、各地に支社を作る必要があった。アジアだったら、日本だけじゃなく中国にも東南アジアの各国にも支社を作る、とかね。今はネットの力でそれも減り始めていて、アジアで1支社、ヨーロッパで1支社とか、それくらいで世界を見渡せるようにもなった。そういうことがどんどん増えていくんじゃないかと思います。

1/2ページ

最終更新:6/23(日) 11:37
ハフポスト日本版

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事