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食べて吐いての繰り返し…秋本啓之さん語る「過食嘔吐」との壮絶な闘い

6/24(月) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

【愉快な“病人”たち】

秋本啓之さん(柔道家・33歳)=過食嘔吐・摂食障害

 ◇  ◇  ◇

 今から14~15年前、ボクは大量に食べては無理やり吐く……という毎日を繰り返していました。「過食嘔吐による摂食障害」と診断されたのは、大学内の診療所でした。でも、実は医療機関を受診したのはそれ1回きり。

「通って意味があるかな?」と思ってしまったので、それきり行きませんでした(笑い)。

 過食嘔吐の原因は、おそらく減量によるストレス。柔道には階級があり、体重別で試合が行われます。当時ボクの体重は75キロ前後ありましたが、66キロ級の選手として登録していたので、試合のたびに10キロ近い減量をしなければなりませんでした。周りからは「階級を1つ上げて挑戦してみては?」と何度も言われていたんですけど、66キロ級で世界一を狙える位置にいただけに、その階級にこだわってしまったんです。

 高校の頃から減量期間には過食嘔吐の症状はありました。でも、毎日のように吐くようになったのは大学1年の後半からです。その頃には全日本選手にも選ばれていたので、学生の大会に加えて全日本の大会もあり、半年間に6~7回も減量しなければなりませんでした。減量のことが頭から離れない時期が続いて、逆に食に対する欲求が強くなってしまったのだと思います。

 通常は食事量を少し減らし、有酸素運動を増やしたり、油ものをカットするなどして体重を落とすのですが、食べたい欲求が強すぎて抑えられないんです。

 幸か不幸か、当時はひとり暮らしだったので、誰にとがめられることもなく、コンビニやスーパーでお菓子やらパンやら甘い飲み物などを大量に買い込んではそれを一気に全部腹の中に納めます。ざっと買い物袋3~4つ。その後で全部吐き出すんですが、無理やり吐くので気づくと鼻血がサーッと出ていたりして(笑い)。

 そうやって、胃の中が空になったところで少量の食事をして就寝するのが習慣化していました。ひどいときは朝まで食べて吐いてを繰り返すことも……。手元にあるお金はほとんど食べ物に消えていました。ちなみに、チョコレートは吐きづらかったです。体に吸収される前に吐き出していたので、塊のまま食道を逆流させるとゴリゴリしてね(笑い)。

■階級を1つ上げたことが完治のきっかけ

 そうやって減量しても、初めのうちは体調が良く結果も出ていたのですが、だんだん試合で自分の力が発揮できなくなっていきました。そして2006年、ドーハで行われたアジア大会で、スタミナ自慢のボクがスタミナ切れで負けてしまったのです。そうなって初めて、当時全日本のコーチで、大学柔道部の監督でもある岡田弘隆先生に過食嘔吐の症状があることを打ち明けました。

 後日、大学内の診療所でカウンセリングを受けて「過食嘔吐による摂食障害」と診断され、その後は数カ月間、その岡田先生の家で下宿生活を送りました。朝晩、先生の奥さんが作る健康的な手料理を食べ、学校や練習場に通う日々。それでだんだん過食嘔吐の頻度は減っていったものの、自宅に帰るとやっぱりダメで、2~3年は治りませんでした。

 完全に治ったきっかけは、階級を1つ上げたことです。それを決断できたのは2008年の全日本の欧州遠征でした。3連戦の2戦目で、筋肉の収縮が起きたのです。まるで電気刺激で筋肉を鍛えるパッドを付けたように腕や腹筋が勝手にぴくぴくと収縮運動をするんです。そんなこと初めてだったのでびっくりしました。そして次の試合ではお尻の肉離れ……それが決定打でしたね。

 ちょうどその頃から柔道もポイント制が導入され、コンスタントに試合に出ないとシード権が得られないようになりました。つまり、連戦ができないと勝ち上がれない。このままの階級では続けられないと悟ったのです。

 柔道で1つ階級を上げるということは、とても勇気がいることです。相手の体の大きさや手足の長さはものすごく試合に影響しますからね。でも、フタを開けてみたらとんだ取り越し苦労で……。階級を1つ上げた初の大会だった2009年の講道館杯で優勝したんです。こんなことなら、もっと早く階級を上げればよかったと思いました(笑い)。

 しかも、減量から解放されたら逆に食に対する欲求が減って自然に体重が落ちました。のびのび柔道ができるようになり、子供の頃のように柔道を楽しめるようになったんです。それまでは減量のために柔道をしているようで苦しくて、ケガも多かった。何よりつらかったのは過食嘔吐をやめたいと思っているのにやめられなかったことです。

 振り返ってボクが言えることは、自分の症状を周りの人に認知してもらうのが大事だということです。指導者となった今は、あの経験があってよかったと思います。減量で苦しむ選手に、ボクなりのアドバイスができますからね。

 (聞き手=松永詠美子)

▽あきもと・ひろゆき 1986年、熊本県生まれ。日本を代表する柔道選手だった父の下で5歳から柔道を始める。全国高等学校柔道選手権大会の無差別級で優勝を果たし、一躍注目を浴びる。全日本選手に選ばれ、筑波大学進学後は国内外の大会で優勝。2016年の「柔道グランドスラム・パリ」の後に現役引退を表明。現在は了徳寺大学職員で柔道部コーチ、全日本柔道女子コーチも務める。

最終更新:6/24(月) 9:26
日刊ゲンダイDIGITAL

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