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戦後、形成された「『不法』なる空間」が、やがて消滅するまでの全体像に迫る―本岡 拓哉『「不法」なる空間にいきる:占拠と立ち退きをめぐる戦後都市史』武田 砂鉄による書評

6/24(月) 6:00配信

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◆その土地の歴史をも消す危うさ

街を健全なものにするため、不健全と称される場所や人を消すことを急ぐ。来年開催される東京オリンピックに向けて新設される国立競技場の建設が進む前、真っ先に追いやられたのは、近隣の公園で暮らすホームレスだった。

都市計画は街を漂白することから始まる。かつてのオリンピックの頃から変わらない。戦後、都市にバラックが増殖して形成された「『不法』なる空間」が、やがて消滅するまでの全体像に迫った本書が知らせるのは、その地域が「さまざまな社会的抑圧からのアジール」であり、「独自の『生きる方法』が展開する場」だったという史実。

高度経済成長期に多くの「不法占拠」が消滅するが、都市の経済性に見合う地域のバラックは早々に消え、河川敷に住まう人々はしばらく撤去を免れることもあった。

衛生、景観、防災、反社会性の観点からみれば、問題はいくらでも生じていた。メディアも「悪臭むんむん、ハエうゎんわん」と書くなどして、排除に加担していった。特筆すべきは、不法占拠地帯が社会から隔絶され、孤立していたわけでもなく、たとえば地区内の「バタヤ(屑拾い)」業は「地域における再生資源業に内包されていたからこそ存在していた」。異質だが、孤立はしていなかったのだ。消滅させるために場の不法性を高め、隔絶していった。

立ち退き問題への著者の関心は、阪神・淡路大震災に被災し、非自発的に移住を迫られた人々が生まれたことと関係している。「さまざまなネガティブなラベリング」によって特定の土地を無効化させる行為には、その土地が抱え持ってきた歴史をも消す危うさがあることを伝える。

「不法」なる空間の生成と消滅を巡る問いが、現在にも続く問題としてさほど延伸して語られないのが残念だが、催事にかこつけて街を浄化しようとひた走る現在に、「オルタナティブな戦後史」は警鐘にもなる。

[書き手] 武田 砂鉄
1982 年東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年秋よりフリーライターに。 著書に『紋切型社会』(朝日出版社、2015年、第25回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論』(青弓社)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋)、『日本の気配』などがある。

[書籍情報]『「不法」なる空間にいきる:占拠と立ち退きをめぐる戦後都市史』
著者:本岡 拓哉 / 出版社:大月書店 / 発売日:2019年04月17日 / ISBN:4272521128

朝日新聞 2019年6月1日掲載

武田 砂鉄

最終更新:6/24(月) 6:00
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