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アップル「iOS 13」日本で重要なワケ

6/25(火) 9:00配信

アスキー

【WWDC19戦略解説】アップルがiOS 13でパフォーマンスを高めるのはiPhone 6sやiPhone SEなど昔の製品のため。いわゆる「格安スマホ」の文脈でiPhoneを販売するには重要なアップデートだ。

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 WWDC19ではiPhone・iPod touch、HomePod向けのiOS 13が発表されました。今回iOS 13の対象デバイスからiPadが外れたのは、iPad向けにiPadOS 13が用意されたから。iPadは、iPhoneと同じアップル設計のAシリーズチップが採用されることから、コアな部分は引き続き一体的に開発されていくことになります。
 
 そのiOS 13にも、リマインダーや写真アプリ、地図アプリなど基本アプリの大幅な機能向上が加えられていますが、個人的に最も重要な戦略上の意味をなすポイントは、iOS 13のプレゼンテーションの冒頭で語られた「パフォーマンス」についてです。
 
●体感できるほど早くなりそう
 iOS 13のパフォーマンスに関する改良点をまとめると、次の通りです。対応するデバイスは異なりますが、コアな部分は共通と言うことで、iPadOS 13のパフォーマンスに関しても加えています。
 
1. Face IDの認識速度を30%高速化。
2. Apple Pencilのレイテンシ(反応時間)をこれまでの20ms(ミリ秒)から9msに高速化。
3. アプリのパッケージ方法が新しくなり、初めてダウンロードするアプリは最大50%小さいサイズに、アップデートの際には平均60%小さいサイズにコンパクト化。
4. アプリサイズの縮小により、アプリ起動は最大2倍高速化。
 
 アップルのOSアップデート全般に言えることですが、パフォーマンス向上は、最新のデバイスのためのものではありません。むしろ、既に市中に出回っている過去の製品のためのものと断言できます。
 
●アプリサイズ縮小による高速化の本質とは?
 最新の製品が早いのは当たり前です。もちろん競合となるスマートフォン同士でのパフォーマンス争いはありますが、チップ単位の採算を度外視でき、動作させるOSまで作り込むことができるApple Aシリーズに、勝てるチップを単体でビジネス化することは、事実上不可能です。iOS 13のパフォーマンスの勝負の本質は、そこではありません。
 
 iOS 13は、A9プロセッサ以降の製品で動作します。iPhoneで言えば、2015年発売のiPhone 6s、2016年発売のiPhone SEとそれ以降のiPhoneで利用できます。特に途上国を中心にこれらのデバイスはまだまだ人気がありますし、日本のような先進国でも、格安SIMとの組み合わせで安くiPhoneを導入したい人に根強い人気があります。
 
 このあたりのデバイスで、体感的に「サクサク感」を出すにはどうすればよいか。その答えが、アプリ起動の高速化。そのためにアプリサイズを小さくすれば、アプリを読み込む時間は、プロセッサの世代にかかわらず高速化できます。考えてみれば当たり前のことですが、それが実現できるかと言われれば難しいかもしれません。
 
 アプリサイズ縮小にはもう一つのメリットがあります。現在の最新モデルは64GBストレージからの販売となっていますが、過去のモデルには16GBで販売されていたものもあります。アプリサイズが最大50%縮小できれば、古く容量の小さなiPhoneを持っていたとしても、よりたくさんのアプリを楽しむ事ができるようになります。
 
 これらの理由から、アプリサイズ縮小と、それによるアプリ起動の高速化は、過去のiPhoneのための施策、と捉えることができるのです。
 
●特に日本では重要な戦略に
 6月18日、総務省は携帯電話料金に関する有識者会議を通じて、電気通信事業法の改正案をまとめました。その案では、通信会社を通じて販売され、通信サービスを前提として携帯電話本体の値引きをする場合の値引き額は2万円以下と定められることになりました。
 
 これには例外があり、最終調達日から2年が経過した「在庫」端末は最大5割、製造中止から12ヵ月で5割、24ヵ月で8割の割引が許されます。世代交代が半年ごとにされるAndroidスマートフォンについて、その値引き幅がこれまでのように大きくとられています。
 
 しかしiPhoneは、2019年6月現在、最新端末は2018年発表のiPhone XR、iPhone XSシリーズですが、2017年発売のiPhone 8シリーズ、2016年発売のiPhone 7シリーズもアップル・携帯キャリアを通じて販売が続いており、また途上国向けなどに引き続き製造されるiPhone 6sやiPhone SEも調達自体は可能です。
 
 そのためiPhoneの場合、3~5年前のモデルであっても、製造が中止されていなかったり、1年前まで調達されていたものが含まれ、値引き制限が緩和される例外に一切当てはまらなくなっています。
 
 最新端末を値引くことは、おそらくアップルの戦略上ないと思いますが、毎年100ドルずつ値引いてきた過去に発売した併売端末を、更に大幅に値引くこともできるでしょう。
 
 たとえば2019年9月以降、2万円の値引き幅を前提として、iPhone 7やiPhone 8をこれまでのペース以上の幅で価格を下げる戦略を採ることも考えられます。そうした過去の併売モデルを戦略的に扱っていく上で、iOS 13のアプリサイズ縮小とアプリ高速起動は、重要な基盤となっていくのです。
 
●「長持ち」を性能化するアップル
 2018年9月のiPhone発表イベントでは、環境・政策・社会イニシアティブ担当副社長のリサ・ジャクソン氏が登壇し、iPhoneの環境性能やリサイクル資源の活用、そしてiOS 12が当時5年前のデバイスであるiPhone 5sでも動作することをアピールし、iPhoneに「長持ち」するという性能があることを明らかにしました。
 
 これはアップルにとっても明らかな方針転換です。アップルはiPhone発売当初から、携帯電話キャリアの2年契約を前提に米国では450ドルを端末代金から割り引く料金施策を提案してきました。結果、2年という買い換えサイクルを作り出すことに成功しました。
 
 しかしスマートフォンの性能向上が鈍化するにつれて、スマートフォン市場全体で買い換え周期は長期化し、2.5~3年へと伸びてきました。同時にスマホ市場は世界的に飽和しているため、買い替え需要のサイクル長期化は、スマートフォンの販売台数低下に直結します。それが、昨今のiPhoneをはじめとするスマホ販売不振の構造です。
 
 しかしアップルは買い換え周期の長期化を助長するような「長持ち」を性能に加えました。その長持ち性能の裏付けをiOSによって実現しているわけです。
 
 先日来日したリサ・ジャクソン氏にインタビューするチャンスがあり、iPhoneの長持ち性能について聞きました。すると、今に始まったことではない、という考えが返ってきました。
 
 「長持ちする高品質の製品を作るというアイデアは、アップルの最初期から存在していました。スティーブ・ジョブズが、どれだけ1つの製品の内側は外側と同様に美しくすることにこだわったという逸話がありますよね。これは極めて重要なことだと思います。すなわちアップルは1年使える製品を作っているのではなく、長い長い年月使い続けることができる製品をデザインしているのです」(ジャクソン氏)
 
 ハードウェアとソフトウェアの開発を通じて、アップルはこれまでもiPhoneの大きなアドバンテージを作ってきました。スマホ活況期に有効だったiPhoneの戦略は、スマホ不況期に入っても、少なくとも他社よりは上手くやるだけのポテンシャルを持っている、と考えられます。
 
 あとは、iPhoneの製造を依存している中国と、アップルの本国である米国との貿易戦争の行方が、最大のリスク要因になりますが、この話はまた別の機会に。
 
筆者紹介――松村太郎
 
 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
 
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
 
文● 松村太郎 @taromatsumura

最終更新:7/11(木) 16:31
アスキー

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