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日本で生きることをギャンブルにしないために、会社と個人に必要なバランスシートの新しい考え方

6/26(水) 12:00配信

MONEYzine

日本で生きることをギャンブルにしないために、会社と個人に必要なバランスシートの新しい考え方

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■これからの日本とフィンテック

 これからの日本は、超少子高齢化、年金制度の崩壊をはじめ、非常に厳しい状況と向き合っていかなければなりません。そこでキャッシュレス化や新しい金融サービスができることはたくさんあると思っています。今回は、マネーフォワードの事業を俯瞰しながら、これから私たちがやろうとしていることをあらためて整理してみたいと思います。

「宝くじで1億円以上当たった人の末路」(日経ビジネス)

マネーフォワードFintech研究所長 瀧 俊雄さん マネーフォワードの現在の事業ドメインは、以下のように4つに分類することができます。左から、「法人/個人事業主(マネーフォワード Business)」「個人/家庭(マネーフォワード Home)」「金融機関/事業会社(マネーフォワード Finance)」そして「技術・インフラ(マネーフォワード X)」。私たちは主にこの4つのドメインでビジネスをしています。

 「法人/個人事業主」については、バックオフィスのソフト、たとえば会計、請求書、給与計算などのクラウドサービスがあります。「個人/家庭」については、家計簿ソフト、貯金アプリ、クーポンアプリなどのサービスがあります。「金融機関/事業会社」向けには、顧客との接点になるフロントエンドのアプリを提供しています。「技術・インフラ」は、金融に関わるさまざまなテクノロジーやプラットフォームなどですね。

 これが現時点での状況ですが、さらに中期、長期で考えるとどのように変わっていくのか。「○年後にこうなる」と言うのは難しいところですが、仮に中期を2020~2025年ぐらいまで、長期を2026~2050年くらいまでとしてみましょう。将来的には「法人/個人事業主」の領域で、ほとんどのバックオフィス業務は、かなり自動化されてくると思います。

 会社のお金をバランスシートで見たとき、資産、負債、資本というように分かれます。これをビジネス的な展開で紐解くと、バランスシートの左側は「顧客の数」×「顧客当たりの付加価値」と言い換えることができます。一方、右側は、会社が借りたお金や投資してもらったお金などを表しています。

 それぞれのお金には関連する部署があります。たとえば、借りてきたお金を不正に使ったりしないように経理部があります。社員がちゃんと働いているかというのも、最終的には企業価値の計算などに入ってくるので、図の右側、負債側のための仕事というのがバックオフィスに占める割合は大きいです。また、資本のところも、株主の価値の最大化のためにガバナンスをきかせていくための仕事があります。一方、顧客との接点を持つフロントオフィスでは、商品やサービスを作ったり、営業活動をしています。

 企業の価値というのは、バックオフィスがしっかり機能しないために損なわれることがある。でも、バックオフィスがどれだけがんばっても、お客さんに提供する付加価値というのは直接は高くならないのです。日本は人口が減ってきているため、これから多くの会社では、バックオフィスの業務に従事している人を、フロントのほうに連れてきて、お客さんのためにもっと役に立つ将来の商品やサービスを考えてもらう必要があります。

■「楽しく働けるかどうか」が大事

 もちろんバックオフィスの人員がゼロになることはないと思うのですが、会社の得意なことにリソースを集中させて、ビジネスを伸ばしやすくしていく。そのための方法は、2つあります。ひとつが「自動化」で、これはバックオフィスの業務を楽にするもの。もうひとつは「顧客理解」ですね。お客さんが欲しているものを理解し、将来のニーズを把握できるようになると、その会社の付加価値を高めることができる。お客さんが喜んでお金を払うようになれば、もっと人が雇えるようになる。

 必ずしもすべての会社が事業を拡大しなければならないわけではありませんが、規模の大きな会社でも「得意なことにもっと集中できたらいいよね」と考えていると思います。また、規模が大きくなればなるほど、バックオフィスのために仕事をしている状態になりやすい。そういう状況を変えていくことで、働くことをもっと楽しくできるはずなんですよね。

 「楽しいかどうか」はすごく大事なことです。楽しい仕事であれば長く働けるし、楽しくないとしたら別の仕事を探そうと考える。「楽しい」というハードルを作ることで、社会がもっと流動的になるはずなんです。

 自動化によって、仕事を楽にする。顧客の理解に基づく、より良い意思決定をする。あらゆる会社がここにフォーカスした経営をしていくと、それだけで、おそらく日本の中小企業に勤めている人の給料は2倍以上になるはずです。「そんなことできるの? 」と思うかもしれませんが、必需財のようなところを除けば、付加価値を上げる度合いはすごく高いはずです。たとえば、すごく安いご飯屋さんと、その2倍の代金を取るご飯屋さんがあっても、後者は2倍の量が出てくるわけでも、2倍の原価がかかっているわけでもないですよね。

 現在のマネーフォワードグループの事業は、バックオフィスの自動化、バランスシートの右側のほうに寄っています。しかし、事業の軸を左側のほうにもっていけると、収益源もすごく大きくなっていくと考えています。「売上を増やせるソフト」と「会社を楽にするソフト」を比較すると、やっぱり楽にするソフトに対して払えるお金には限度がある。だから、働く人も経営者の意識も、会社にとっての資産になる方向にどんどん向けていければ、ビジネスが成長していきますし、我々もビッグピクチャーとして、それを支援していける会社でありたいなと考えています。

■個人にも自動化のメリットを

 「人手不足」「働きがい」の話というのは、社会課題のかたまりのようなところがあります。世の中には「働くこと」をマイナスにとらえる向きもありますが、宝くじが当たったときに一番やっちゃいけないのは「仕事を辞めること」だと言われているんですよね。そのことは、2016年のインタビューでもお話ししています。働くことは、楽しい要素もあるし、個人が社会と関わりを持つひとつの方法だったりする。

 近年、議論されている「最低賃金」というのは、こういう考え方の邪魔になる可能性があります。というのは、無償でも働きたい人や領域があるからです。そういうふうに行為をお金で割り切らないでも済むような世界が作れるといいなと思います。やりがい搾取のようなことにもならないようにできるはずですしね。「働く」行為そのものと「お金」は、ある程度分離できます。

 会社におけるフロントオフィスとバックオフィスのような構造は個人にもあって、似たような自動化が可能だと思います。個人のお金のことは、基本的に面倒でわからない部分が多い。マイホーム、自動車、資産運用などは「みんなが持っているものを買う」「あの人に任せよう」「何もしない」というソリューションに落ち着きがちなんですよね。

 私も最近、家を探しているのですが、ちょっと断念しかかっていたりします。自分の過去を振り返ってみると「飽きたから」を理由に17年間で7回引っ越ししている。そういう人間が家を買っていいのだろうかと悩むわけです。また、家族構成や状況によって、適切な家の規模も変わっていきます。

?Adobe Stock/takasu

 こんなふうに、個人においてもお金のことは結構面倒なんです。そのため、わからないところは自動化で解決して、「今の段階では、この予測に沿って生きていけばいい」という人生のプランを立てられるようにしてあげたい。そういうファイナンシャル・プランニングは、これまで比較的富裕層しか受けていませんでしたが、本当はお金を持ってない人こそファイナンシャル・プランニングは意味があるんです。だってお金を持っている人はお金で解決できますから。

 貯金がちゃんとできているかをチェックしたり、直近3か月の収支や再来年の必要資金をアドバイスしてくれる。家を建てたいと思ったら、「この時期までにこれぐらい準備しなきゃだめだよ」とか。でも、ほとんどの人は切羽詰まってから準備して、目の前の選択肢の中からひとつを選ばなければならないという決断を迫られる。年に1回、半年に1回、その人に合った生き方や危ないポイントなどを自動的に判定して、無難な道を示してあげるサービスというのは、あり得ると思います。

■「準備ができていない人」へのペナルティが高くなっていく

 さらに先の話として、2050年ぐらいまでも考えてみましょう。日本は人口減少だけではなくて、高齢化・長寿化する方向に向かっていきます。しかし70代とか80代になると、さすがに20代、30代と同じ労働市場では戦えなくなる。たぶんそうした人たちを、最低賃金法が労働市場から締め出すことになるでしょう。

 そうなると、超高齢化社会の中で生き抜くために、いろんなことが必要になってくる。けれど、今はそれを国が保証できないという状況になってきています。これらのトピックについては、社会学者や経済学者も議論をしていますが、私もいま認知症周りの研究をしながら対応を考えています。

 超高齢化に対しては、貯めてきたお金をいかにうまく満足度の高いかたちで活用できるかという話になります。家計簿で見ると、食費を含む生活費、住居費、医療費あたりがひっ迫してくると大変になってくる。これから独居老人が増えていくと、将来予測をせずそれに向けた準備をしていない人が受けるペナルティが高くなっていきます。私たちのミッションである「お金を前へ。人生をもっと前へ。」は、そういう人たちの生活を明るくしていきたいという意味も込めています。

 でも将来予測をしたり、将来に向けて準備しておくのは、誰にでもできることではありません。予測するには正しい情報がインプットされ、適切なアドバイスがあり、それをどう実行するかという具体的な方法を示す必要がある。さらに、これらを早めにやらなきゃと思わせる“やる気”のようなものも必要です。

 “やる気”を引き出す要素には、「友だちがやっているから自分もやらなきゃ」という「ピア・プレッシャー」も入ってきます。たとえば、家計簿をつけている人の7割が実は将来の準備ができていないけれど、準備ができた3割の人たちは、それ以外の人たちに比べて、20年後にこんなにいい老後を迎えたという話があれば、そこで行動を起こそうという気持ちが生まれるでしょう。

 最近、流行りの「ナッジ(nudge)」は、行動を促す注意や合図を意味します。ナッジの具体的な例はたくさんありますが、「情報量を少なく見せること」もそのひとつです。たとえば「家電」を選ぶのにも世の中には多くの選択肢があるため、家電芸人のような詳しい人が選択肢を狭めてあげる。ただしそのときに、売り手が売りたいもの、見返りがあるものに誘導すると、悪の道に向かいます。

 そうしないためには、心理学や行動経済学の教授で『予想どおりに不合理』の著者でもあるダン・アリエリーが昨今議論している「マーケットノーム(市場規範)」と「ソーシャルノーム(社会規範)」を考える必要があります。マーケットノームに支配された世界では、賃金、価格、費用便益など、シビアなやりとりになりますが、ソーシャルノームは「ソファを運ぶから手伝ってほしい」といった友だちからの頼みごとなどが含まれます。要は商業主義か社会主義かの違いですね。

 マーケットノームが支配している場合は、たくみな導線で商品を売って、買った人が後悔するといったことが起こりがちですが、そうではなく、あくまでもソーシャルノームを運用しなければいけない。金融サービスにおいてもそれをちゃんと意識しながら、最初に見せる情報は何かを考えていかなければ、顧客のやる気を喚起できないし、助言やプランニングを使い続けてもらえないと思います。この2つの規範については、昨年しています。

 「やりたいことがあるなら、そろそろ準備したほうがいいですよ」とつついてあげる。準備ができれば、これから何が起きてもベストエフォートになる。ベストエフォートができていると思えば、人間というのは不安じゃなくなるんですよね。このようなアプローチは、BtoCとBtoBの領域において、とても有効だと思います。

■オープンマインドであることの意味

 最後に、事業ドメインの図のもうひとつの見方に触れておきましょう。テクノロジーの観点から言うと、この図は右から左へ向かうベクトルがあり、「仮説」から「アプリケーション」へ向かっています。仮説が技術になり、技術がインフラになって活用できるようになり、そのインフラの上で何をしようかというのがアプリケーション。新しい技術を採り入れながら、右から左の方向へそれを活かしていくかたちです。

 AIもブロックチェーンもそうですが、多くの議論は、仮説からいきなりアプリケーションまで行こうとしている。けれど、これらはまだ遠い領域にあると思っています。スマホとタブレットがあって本当に良かったなと思うのは、これ以上簡単に使えるインターネットへのアクセス手段は、たぶんしばらくないと思うからです。次はおそらくテレパシーとか、脳波を判定するという方向になるのかもしれませんが、まだ実用化には遠い。脳はどうしてもエラーも発信してしまうので、まだ脳波による判定は遮断される領域にあると思います。

 日本には課題がたくさんありますが、会社を元気にして個人が安心を覚えたら、日本はいい社会になると思っています。日本は良くも悪くも、均質な社会。諸外国に比べれば、社会分断などはまだ起きていません。しかし今は、人間に安心を与えるための「大企業」と「社会保障」という2つの制度が、両方とも不安な状況にあります。その不安を解消するには、「会社は危ないけれど保険の機能は大丈夫」のようにしてあげるとか、社会保障の状況をもっと見える化する必要があります。なまじモヤっとさせておくから、みんなもっとギャンブルしたくなる。わざわざ仮想通貨とか買わなくても、生きているだけでドキドキしませんかっていう。

 マネーフォワードは生まれてまだ7年、人間で例えると小学校1年生ですが、3歳のときに自分たちが作ったソフトを使ってくれた方々がいた。それまで帳簿をつけられなかったりとか、税理士さんに経営判断をゆだねていた方が、データをもとに自分たちで意思決定をしたいと思うようになってきたんです。しかもその方々は、経理や税金のことをすごく勉強したからできるようになったのではありません。これが重要で、勉強や努力をしなくても、より良い意思決定できるようになっている。それはすごくいいことだと思います。要は、その方々がやったことは、新しいツールに対してオープンだったというだけなんです。

 日本の高齢化がもっと進んでいくと、新しいものに対するオープンな感覚が失われていく可能性があります。今までと同じような考え方をしていたら、そうなってしまうでしょう。でも今は、従来よりも新しいものを使うのが簡単になってきています。お金の情報が散らかった状態になっていて、それがちゃんと整理されていないと、人は不安になったり自暴自棄になったりもする。そこに使いやすいサービスを提供してお金の情報をまとめることで、人の生き方や行動が変わっていく。それがマネーフォワードがやってきたことであり、会社のDNAの重要な一部になっていると思います。

【マネーフォワードFintech研究所・瀧さんのフィンテック講義】
 →バックナンバーはから。

最終更新:6/26(水) 12:00
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