ここから本文です

「死」について考えさせられたある犬の行動 元おくりびとが語る体験

6/27(木) 11:11配信

デイリースポーツ

みなさんは「湯灌(ゆかん)」と聞いて何をイメージしますか?映画「おくりびと」で俳優・本木雅弘さんが演じた役といえば分かるかも知れませんね。いずれにしても、いいイメージではないかも知れません。しかもこの仕事はご遺体に触れることから、他人に話すと気持ち悪がられることもあります。「死」に関わる仕事は縁起が悪いだとか、キタナイという評価を受けてしまいがちです。でも、わたしが体験した湯灌の仕事は、温かくて人間味があり、とても感動的なものです。では現代社会の中で忘れられている「大切なこと」を、お伝えしようと思います。

【写真】家族の尊さを教えてくれた小さな白い犬

湯灌は、亡くなった方を通夜の前にお風呂へ入れて体をキレイに洗い、死装束などの着物を着せてから死化粧をする一連の作業を指します。お棺にご遺体を美しく飾り付けながら納める「納棺」も、湯灌師の仕事です。

わたしには、ある忘れられない湯灌の体験があります。

その日、湯灌をして差し上げたのは、80代の品のあるおばあさんでした。娘さんと同居しておられたようですが、家の玄関や床の間には、おばあさんの好みがうかがえる大きな壺が飾られていました。おばあさんが使っていたであろう和室で儀式を済ませ、おばあさんに着付けをしているときのことでした。扉の向こうから、カサカサッという音が聞こえてくるのです。少しドキドキしながら、作業を続けていると、今度は扉をガリガリ、ガリガリと何かを削る音がしてきます。何だろうと…と不安に思っていると、ふいに扉が開き、喪主である娘さんと一緒に、雑種で中型の白い犬が入って来ました。「ああ、音の主はこの犬か」。わたしは犬を見た瞬間そう思いました。

喪主の話では、おばあさんがとても可愛がっていた犬で、普段は大人しいのに、今日は妙にソワソワしているとのこと。おばあさんの側にいさせてほしいと頼まれたので、犬に付き添われるような状態で、わたしは湯灌の作業を続けていました。その犬はとても大人しく、じっと行儀よく湯灌の様子を見つめていました。

湯灌も終わり、おばあさんを葬儀会場に搬送するため搬送車にお棺を運ぼうとしたとき、大人しかったその犬が突然吠え始めました。喪主は驚き「やめなさい!」となだめました。でも犬は吠え続けるのです。おばあさんが入ったお棺に向かって、いつまでもいつまでも、まるで泣いているかのように。

なぜわたしがこの光景を覚えていたかというと、毎日のようにニュースで親が子供を手にかける事件が報じられるのを見て、「死」を軽視する世の中になったのではないかと危機感を募らせていたからです。犬であっても自分を大切にしてくれていた人の死を悲しむのに、家族でお互いを傷つけ合う人間はなんて愚かなのだと深く考えさせられたからです。

わたしたちが失いつつある「死」を通して家族へのやさしさ、思いやりを、湯灌は教えてくれます。犬の一件はまさにそう。小さな白い犬が、わたしに家族の尊さを教えてくれたと思っています。あの犬がその後どうなったか今でも思い出しますが、きっとおばあさんが可愛がっていたように、残された娘さんが幸せにしてあげていると思っています。

(まいどなニュース特約・酒井たえこ)

最終更新:6/27(木) 12:52
デイリースポーツ

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事