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再審のハードル上げる 最高裁、異例の取り消し波紋 大崎事件

6/27(木) 9:14配信

西日本新聞

 大崎事件の裁判のやり直しを認めなかった最高裁決定は、福岡高裁宮崎支部が再審開始の根拠とした法医学鑑定を疑問視した。弁護側が新証拠として提出した科学鑑定の証拠価値を厳しく判断し、再審開始に高いハードルを課した形だ。裁判のやり直しを認めた地裁、高裁の決定を最高裁が自ら取り消すのは異例。確定判決を覆す司法判断が各地で相次ぐ中、識者は「再審開始は慎重に行うべきだとの最高裁の考えが見て取れる」と指摘する。

【画像】大崎事件再審請求の経過

 2018年の高裁決定が重視したのは「転落事故などで死亡した可能性が高い」とした弁護側の法医学鑑定だった。今回の最高裁決定は、法医学者が遺体を直接見ておらず、鑑定の根拠が解剖時に撮影された12枚の写真だったことを挙げて「証明力に限界がある」と批判した。

 だが、事件当時の解剖所見や捜査資料を改めて専門家が鑑定し、新証拠として提出する手法は再審事件では一般的。事件発生から相当の年月を経たケースが大半で、遺体などの証拠は失われ、関係者の記憶も薄れているためだ。1985年に熊本県で起きた「松橋(まつばせ)事件」でも、被害者の遺体の写真や、解剖医のメモを分析した法医学者の鑑定が決め手となり、今年3月に再審無罪が確定している。

 元判事で法政大法科大学院の水野智幸教授(刑法、刑訴法)は「再審は古い事件が多い。最高裁決定は、鑑定の評価と再審開始のハードルを上げすぎることになるのではないか」と疑問視する。

 松橋事件や2011年に再審無罪が確定した「布川事件」などを踏まえ、水野教授は「法的な安定性を重視し、一度確定した判決を再審で簡単に覆すべきではないとする最高裁の考えが透けて見える」と指摘。26日に開いた会見で大崎事件の弁護団も「上級審で破られることを恐れ、再審開始決定を書くことを躊躇(ちゅうちょ)する裁判官が出てきかねない」と他の再審事件への影響を懸念した。

   ◇    ◇

 大崎事件の再審請求審では、検察側の「証拠隠し」や、抗告による審理の長期化など、再審制度が抱える問題点も次々に浮き彫りになった。

 再審請求審の手続きについては、刑事訴訟法にも具体的な定めがない。大崎事件の最初の再審請求は24年前。これまでに3度も再審開始が認められたが、そのたびに検察側が抗告し、開始決定が取り消されたことになる。非公開で進められた一連の審理では、弁護側が開示を求めた証拠について検察側が「存在しない」と説明し、後にそれが虚偽だと判明する事態が繰り返されてきた。

 最高裁が今回取り消した高裁決定は、そもそも殺人事件ですらなかった可能性を指摘していた。

 刑事裁判の鉄則は「疑わしきは被告人の利益に」。元東京高裁判事の門野博弁護士(東京)は「確定判決に疑念が生じているのは間違いない。再審を開始して公開の法廷で堂々と双方が主張を行い、有罪無罪を決するべきだ」と話している。

「白鳥決定」が崩壊

 大崎事件を取材しているジャーナリスト江川紹子さんの話 決定は、弁護人が新証拠として出した法医学者鑑定について「尊重すべきだが、決定的な証明力を有するとまではいえない」と退けた。有罪に疑問があれば再審を開始すべきだとし、再審請求の基準となってきた「白鳥決定」が崩壊したと言っていい。松橋事件の再審無罪や「再審法改正をめざす市民の会」の設立などで、再審をしやすくすべきだという機運が高まっているが、水を差した形だ。今回の判断に関わった裁判官には、こうした機運への嫌悪感があったのではないかと想像する。

西日本新聞社

最終更新:6/27(木) 9:14
西日本新聞

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