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なぜ今、終身雇用見直し論?

7/4(木) 15:00配信

ニュースソクラ

ネットでは逃げ切り世代へ反発、「とっくに終わっている」との声も

 このところ、経済界から「終身雇用は限界」との発言が相次ぎ、波紋が広がった。

 終身雇用に代表される「日本型雇用」を掲げてきた張本人の大企業トップからそんな言葉が飛び出したのだから、衝撃は大きい。それだけ日本企業の危機感が強いことの現れと言えるが、真意はどこにあるのだろうか。

 「(終身雇用は)制度疲労を起こしている。終身雇用を前提に考えることは限界がきている」(経団連の中西宏明会長)

 「雇用を続けている企業へのインセンティブがあまりない。終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」(トヨタ自動車の豊田章男社長)

 「昭和の時代は機能した。ただ、経済そのものが大きく変革し、(終身雇用は)今後もたない」(経済同友会の桜田謙悟代表幹事)

 5月中旬、経団連の中西会長を皮切りに、経済界のそうそうたる面々が異口同音に終身雇用への「決別宣言」をした。「制度疲労」「限界」「もたない」と、全否定する発言が連なる背景には、日本企業が置かれた苦境がある。

 経済のデジタル化が進み、どの業界もビジネスモデルの転換が待ったなし。分かりやすいのが自動車業界だ。メーカーだけでなくIT大手も巻き込んだ自動運転の開発競争が激化し、豊田氏は「100年に一度の大転換期」と口癖のように繰り返している。

 各社ともデジタルのスキルを持つ人材をのどから手が出るほど求めているが、大企業内で比重が高まっているのは、バブル期に大量採用された50代の社員たちだ。デジタル化への対応が難しいだけでなく、年功序列のため賃金も高い。この世代を大量に抱え続けることは、企業にとって相当な重荷になりつつある。

 中西氏は、日本の慣行である新卒者の一括採用にも繰り返し異論を唱えてきた。一連の発言からは、「新人を大量採用して社内で育て、定年まで雇い続けるより、時流に合った即戦力を必要に応じて採用したい」という本音が透けて見える。

 さらに企業に追い打ちをかけそうなのが、政府の未来投資会議が打ち出した「70歳雇用延長」方針だ。希望者を70歳まで雇い続けることを企業の努力義務とするもので、強制力はないものの、財界関係者は「将来、年金支給開始年齢を70歳に引き上げるための布石。

 70歳雇用延長もそのうち義務化されかねない」と警戒する。中西氏の発言には、年金財政が厳しい中、企業に高齢者の生活を支えさせようとする政府をけん制する狙いもありそうだ。

 豊田氏の発言についても「政府へのメッセージ」との見方がある。豊田氏は終身雇用の「インセンティブ」の必要性を強調しており、自動車業界関係者は「米国との貿易協議で追加関税をちらつかされるなど、日本の自動車メーカーの立場が危うくなる中、日本政府に強力な支援を促す意図がある」と解説する。

 インターネット上では、自らは日本型雇用制度の中でサラリーマン生活を送ってきた経済界トップらに対し「逃げ切りだ」と不満が渦巻く一方、「終身雇用はとっくに崩壊している」と冷めた見方もある。

 いずれにしても、日本型雇用が大きな曲がり角にさしかかっているのは確か。再就職支援や職業訓練といったセーフティーネットの強化が求められるとともに、終身雇用と引き換えに長時間労働や転勤を受け入れてきた働き手の側でも、滅私奉公型の働き方を見直す動きが加速しそうだ。

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:7/4(木) 15:00
ニュースソクラ

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