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【論調比較・年金2000万円不足】 「報告書受け取り拒否」には各紙とも批判 足並みそろう

7/4(木) 17:02配信

ニュースソクラ

日経は報告書をほぼ全面支持、東京は鈍感さを強く批判

 高齢夫婦世帯は老後30年の生活に年金だけでは2000万円足りないとの試算を示した金融庁の審議会の報告書を巡る騒ぎが広がっている。報告は当然のことを書いただけとの指摘があり、目前の参院選を意識して報告書を不受理とした政府の判断が、逆に年金への国民の不安をあおる結果になっている。「100年安心」の年金制度はどこに行くのか。

 発端は6月3日に金融庁が発表した「高齢化社会における資産形成・管理」と銘打った報告書。金融庁の審議会で専門家が議論してまとめ上げたものだ。人生100年時代に向け、長寿化による生活費の増加や公的年金の受取額の減少を見据え、現役時代からの資産運用や定年退職後の再就職など「自助」の必要を訴えている。

 この中で最も注目されたのが、老後の生活資金の試算だ。平均的な無職の夫婦(夫65歳、妻60歳)の場合、毎月約5万円の赤字が生じ、95歳まで生きるとの国立社会保障・人口問題研究所の試算を踏まえ、30年間で2000万円の資産を取り崩す必要がある、とした。審議会に議論を諮問した麻生太郎金融相(財務相)は当初、「いまのうちから考えておかないといけないということを、金融庁として言っておいた方がいいというのが基本的な考え方」と述べ、報告書の意義を強調していた。

 ただ、「年金だけでは生活していけない」と、政府が宣言する格好になり、野党はこの問題を参院選の争点にしようと、批判の声を上げ、10日の参院決算委員会で攻め立て、テレビのワイドショーなどでも連日取り上げる騒ぎが巻き起こった。

 この事態に、官邸は早期火消しに動き、11日に麻生氏は「政府の政策スタンスと異なる」、「(試算は)誤解を招く」として、自ら諮問した審議会の報告書の受け取りを拒否するという前代未聞の対応を決定。「臭いものに蓋」というのが見え見えとあって、かえって国民の不信をあおる事態になっている。

 この間、麻生氏が「(報告書の)冒頭の一部、目を通した。全体を読んでるわけでない」(10日の参院決算委)、「(私自身は年金がいくら入ってきてと・・・・・・心配したことはありません」(14日の衆院財務金融委)などと答弁したことも、批判の火に油を注ぐ結果になっている。

 ちなみに、「2000万円」は機械的計算で、元になる「月々の赤字5万円」は総務省の資料によるものだったこと、また、審議会では金融庁が老後の不足額を「30年間で1500万~3000万円」との独自の試算を示していたことが明らかになっている。一方、安倍晋三首相が19日の党首討論で「年金生活者の生活実態は多様」と強調したように、平均値で見るのが乱暴な面があるのは、その通りだ。

 今回の騒動で年金の「100年安心プラン」が改めて注目されている。公的年金制度を今の仕組みに見直した2004年に政府が使い始めた言葉だ。現役世代の保険料率を段階的に引き上げて年収の18.3%を上限に、そこで固定する一方、少子高齢化の進展に合わせて年金給付を抑えるマクロ経済スライドと呼ぶ仕組みを導入した。

 現役世代の負担増と高齢者の給付抑制を組み合わせて、年金財政の収支が100年にわたり均衡するよう、制度の持続性を高める改革だった。「100歳まで年金で暮らせる」と言う意味ではないが、政府はそういう誤解をあえて放置してきた面がある。実際、安倍首相自身、野党から「制度を維持・存続する意味での安心だ」と質されても、「(国民の)みなさんに安心してもらえる制度の設計になっている」と、あえて曖昧な答弁を繰り返している(10日の参院決算委)。

 さらに、現行制度が相当程度の経済成長を前提にしていることもあって、早晩、見直しは避けられないとの指摘は多い。年金制度の「定期健診」ともいえる5年に1度の「年金の財政検証」がこの夏にまとまる。前回は6月上旬に発表しているが、今回は遅れていている。このため、野党は「5年前の財政検証の最低のケースがいまの経済実態に近い。このままでは36年後に積立金が枯渇する」(玉木雄一郎・国民民主党代表、党首討論)と疑念を強め、安倍政権が参院選前の公表を遅らせているのではないかと、「2000万円不足」と絡めて追及している。

 新聞の報道は、最初は地味だったが、日に日に扱いが大きくなっていった。

 金融庁の報告書の発表を受けた4日の朝刊は、産経が1面左肩3段見出しで図表も付けて「老後資金2000万円必要」と最も大きく、淡々と報じ、朝日が3面をほぼ全面遣って「年期水準『低下』の表現 案から削る」と、表現の後退を主に、「年金 どこまで減る?」とのサイド記事も配して年金減への問題意識で掲載。東京は3面3段で「夫婦老後に2000万円 金融庁、資産形成促す」、毎日は4面の下の方で2~3段格の横見出しで「現役時代の投資推奨」と報じたが、見出しに「2000万円」はなし――といった具合。

 野党が問題にし、6日に役人を呼んだ合同ヒアリングで追及を始めるなど、ボツボツ報道が続き、7日に麻生氏が「赤字という表下は不適切」と鎮静化に乗り出したが、週明け10日の国会論戦で一気に火が付き、11日朝刊は東京が1面トップで当初案からの表現の後退を大きく書き、朝日、毎日は国会の詳しいやり取りを含めて2、3面で大きく報じた。11日夕刊、12日朝刊は「受け取り拒否」を各紙一斉に大きく載せ、「前代未聞の不受理劇」(毎日12日朝刊2面)「『参院選影響』火消急ぐ」(東京同)などの見出しが躍った。

 その後、毎日13日「『老後2000万円』根拠は厚労省」、20日「在政審『年金水準低下』削除」と、いずれも朝刊1面トップで関連の特ダネを報じるなど、報道に熱が入っている。

 ただ、安倍政権支持の論調を展開する読売は、「モリカケ問題」などのときと同様に、問題の報道は大きく出遅れ、8日2面の下の方で「麻生氏『不適切表現』釈明」という地味な扱いが初報。その後は野党の反発などを中心に、単に流れを追う程度の記事を掲載。産経も与野党の攻防、野党の思惑、金融庁の失策という視点での冷ややかな報道。読売、産経とも、扱いは朝日などに比べて小さめだ。

 社説(産経は「主張」)でも書くし、繰り返し報じ、20日までに朝日4回、毎日3回、読売、産経、東京各2回掲載した。

 まず、金融庁の報告書自体について。
朝日(15日、https://digital.asahi.com/articles/DA3S14056585.html?iref=editorial_backnumber)<たしかに、支出の平均値を生活に必要な額のようにとらえ、収入との差額を、報告書が「不足」「赤字」と表現したのは乱暴だった。その点は政府が丁寧に説明する必要がある。ただ、「今後、社会保障給付は低下することから(貯蓄を)取り崩す金額が多くなる」と審議会で指摘したのは、他ならぬ厚生労働省だ。政府もこれまで、私的年金の拡充などの政策を進めてきた。「公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか考えてみることが重要」という報告書の主張は、政府のスタンスと異なるわけではない>

 毎日(13日)<生活水準は世帯によって異なる。にもかかわらず、報告書は平均値だけを示し2000万円という数字が独り歩きする状況を招いた。説明は丁寧さに欠けた。……表現に問題があっても、蓄えを使い切るリスクについて警鐘を鳴らすという狙いは間違っていない>

 読売(15日、https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190614-OYT1T50362/)<報告書の本旨は、長寿化を見据え、早めに資産形成に取り組む重要性を訴えることにある。時宜を得た問題提起と言えよう。「赤字」という刺激的な言葉や、全世帯で2000万円の資産形成が必要かのような表現が独り歩きして批判を招いた。生活に直結するデリケートな問題であり、配慮を欠いた面は否めない。……高齢者の生活は、現役時の貯蓄や、子供の同居の有無などによって大きく異なる。……そうした事情を丁寧に説明しなかったことが、国民の不安をかきたて、いたずらに混乱を拡大させた。金融庁の責任は重い>

 産経(12日、https://www.sankei.com/column/news/190612/clm1906120002-n1.html)<数字の独り歩きを招く表現は軽率だった。……老後に必要な資金額を紹介し、自助努力を促すことは本来、当然のことである>

 東京(12日)<金融庁には「貯蓄から投資へ」を掲げ個人資産の運用を広げたいとの考えがある。報告書も資産運用の重要性を訴え「資産寿命」を延ばす「自助」を促すことが狙いなのだろう。だが、そうは受け取れない。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、……貯蓄のない人は全世帯の約15%、母子世帯では四割近い。現役世代は非正規雇用が増え貯蓄する余裕のない人も少なくないだろう。給付額もさまざまだ。国民年金加入者は最大でも月約六万五千円ほどで年金だけでは暮らせない。報告書は、国民の置かれている現状や感じている将来への不安に鈍感すぎるのではないか>

 日経(12日、https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46006000S9A610C1SHF000/)<公的年金が先細りする現実を考えれば、引退後に備えた資産形成を家計に促す報告書の内容は重要だ。専門家が重ねた議論をほごにし政策に生かさないのはおかしい。政府は参院選を前に逃げたといわれても反論できまい。……これは、平均的な無職世帯について年金を含む収入と支出を比べた客観的な数字だ。赤字と表現するかどうかは本質論ではない。……高齢層の家計を1つの平均値で測れないのは、そのとおりだ。しかし多くの高齢者にとって、生活費を年金だけに頼るのが難しい時代は確実にくる>

 2000万円赤字という表現が乱暴で丁寧さを欠き、数字が独り歩きするなど、問題点は多くが指摘しつつ、年金だけで生活していくのは難しいという基本的な問題意識は当然との評価が多い。その中で日経は報告書の内容をほぼ全面的に支持する一方、東京は将来不安への鈍感さを強く批判し、日経と両極をなしている。また、読売が、首相や金融相の主張に沿う形で、混乱を招いた金融庁を強く批判しているのが目立つ。

 受け取り拒否など政府の対応はどうか。
朝日(13日、https://digital.asahi.com/articles/DA3S14053556.html?iref=editorial_backnumber)<あけすけな小心さと幼稚な傲慢(ごうまん)さが同居する政府与党の姿には、あきれるしかない。……議論を頼んでおきながら、風向きが悪くなると背を向けるのでは、行政の責任者の資格はない。審議会は政府を代弁すべきだという「本音」が露呈している。麻生氏は「これまでの政府の政策スタンスとも異なっている」という。異論があるなら、受け取ったうえで反論すればいい>

 朝日(15日)<報告書を封印すれば国民の不安が消えるわけではない。国会での論戦を避ける姿勢こそが、年金制度への信頼を傷つけていることを、政府・与党は自覚すべきだ>

 毎日(13日)<金融庁の報告書をなかったことにしようとする麻生氏の対応は理解に苦しむ・……政府はその存在をなかったことにするのではなく、正面から受け止めるべきだ。……首相は少子高齢化を「国難」と述べる。一方で、関連する年金について「安心」と繰り返す。その一点張りでは国民の不安は解消しない>

 読売(15日)<自ら諮問しながら、受け取りを拒むのはいかがなものか。有識者が積み上げた議論の結果を政策に生かさないのは残念である>

 読売(20日、
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190619-OYT1T50356/)<首相は理由について、赤字などの文言を使い、「誤解が生じた」と説明したが、政府の対応が分かりにくいのも事実だろう>

 産経(12日)<金融庁は事実上の撤回に追い込まれた。数字の独り歩きを招く表現は軽率だった。……政府・与党も報告書の撤回でお茶を濁し、少子高齢化で迎える厳しい現実から目を背けてはならない>

 東京(14日)<報告書をないものにしたいのだろうが、年金制度の問題はなくならない。年金制度の実情説明から逃げ回っていてはかえって不安を拡大させることになる。……政府の対応はあまりに無責任である>

 日経(12日)<政府は参院選を前に逃げたといわれても反論できまい>
読売、産経は表現がマイルドだが、受け取り拒否への批判で各紙の足並みがそろう。

 年金が政争の具となることへの危惧も各紙、指摘するところだ。

 朝日(20日、https://digital.asahi.com/articles/DA3S14062657.html?iref=editorial_backnumber)<今回の(党首)討論では、夏の参院選を意識してか、野党側からの提案も目立った。枝野氏は、医療・介護など、社会保障の自己負担総額に上限を設ける「総合合算制度」の導入や、介護・医療従事者の賃金の抜本的な底上げを訴えた。玉木氏は外需に頼らない、家計重視の経済政策への転換を主張。共産党の志位和夫委員長は、高額所得者からの保険料を増やし、マクロ経済スライドを廃止するよう求めた。年金を政争の具とせず、与野党が共通の土俵にのって、冷静に議論しようというのであれば歓迎だ。しかし、首相はマクロ経済スライドの廃止こそ否定したものの、それ以外の提案に見解を述べることはなかった。これでは議論は深まらない>

 毎日(19日)<不正確な知識や誤った情報に基づく議論は控えたい。国民の不安をあおり、公的年金の信頼を傷つけると、制度そのものの信頼が揺らいで若い世代の将来にも大きなダメージとなる。この機会に、年金制度についてじっくり考えたい>

 読売(15日)<老後の暮らしを支える資金をどう賄っていくか。与野党の建設的な議論が欠かせない>
読売(20日)<枝野氏は、低所得者対策として医療や介護などの自己負担に上限を設ける「総合合算制度」を提案した。財源の確保は難しいとはいえ、報告書の批判に終始するのではなく、首相に政策論争を仕掛けたことは評価できる>

 産経(12日)<野党は、ことさらに公的年金と豊かな老後を送るための余裕資金を混同させ、不安をあおってはいないか。これが参院選を控えた戦術であるとすれば、あまりに不毛だ。これでは少子高齢化が加速する中で、国民の利益につながる老後のあり方について、建設的な論議など望みようがない。……与野党で幅広い真摯(しんし)な議論を進めるべきである>

 東京(14日)<政府は国会に対し年金制度の実情を説明する責任がある。……野党にも言いたい。「年金不安」として参院選で政府・与党への攻撃材料になると考えていないか。だが、社会保障の議論は与野党関係なく社会の支え方を考える問題である。政争の具にすべきではない>

 日経(12日)<与党議員らがうたい文句にしてきた「100年安心」を信じる有権者は、今や少数だろう。参院選へ向け、与野党が改めて年金改革の案を示すときだ。……制度を地道に持続させるための年金論議を聞きたい>

 産経が、もっぱら野党批判に終始する特異な論調を掲げるほかは、一致して与野党に冷静な議論を求める。朝日と読売が、珍しくそろって立憲民主党の枝野幸男代表の「総合合算制度」の提案を肯定的に評価したのが目を引いた。

 また、議論を深めるため、朝日、毎日、産経、東京が、財政検証の早期発表の必要に言及している。

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:7/4(木) 17:02
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