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「杉田久女句集」 ままならぬ人生 ひた向きに 【あの名作その時代シリーズ】

7/5(金) 12:00配信 有料

西日本新聞

澄み切った空気に包まれた英彦山の杉の木立。子どもたちの歓声がこだました

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は06年11月5日付のものです。

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 谺(こだま)して山ほととぎすほしいまゝ

 福岡県の霊峰・英彦山を詠んだ句である。一九三一年、日本新名勝俳句の帝国風景院賞(金賞)句に選ばれ、杉田久女の代表作の一つとなった。

 「谺」の堅い一文字で始まり「ほしいまま」とやわらかに広がっていく。久女は下の五文字が浮かばず、苦吟を重ねた。何度か英彦山を再訪し「ほしいまま」にたどり着くまでに何カ月もかかっている。

 記者も英彦山に登った。句の開放感、壮大さが全身に伝わり、久女がその場の空気まで詠み込んだことが明らかである。妻であり母であった久女。家事による物理的な圧迫と、句作に賭けた精神のほとばしり。両者のせめぎ合いの中で、久女のエネルギーは句作に向かって弾けていく。言葉を選び、そぎ落とし、それが十七文字に結実した一句、一句が、彼女の人生を丸ごと物語っているのだった。

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 久女が句作を始めたのは二十六歳のころ。しばらく自宅に滞在した実兄から手ほどきを受けた。

 「子供達を寝かせつけて、夜なべに冬着など縫ひつつ、台所の竈(かまど)の辺で夜毎になく、虫の音をぢいっと聞きながら、生まれて初めて俳句と云ふものに親しみ初めた」(「久女文集」より)。忙しい日常の合間に、ささやかな楽しみを見つけた様子が目に浮かぶ。高浜虚子に見いだされ、すぐに頭角を現す。間もなく、初期の代表作が生まれる。

 花衣ぬぐやまつはる紐いろ/\ 本文:2,456文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:7/5(金) 12:00
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