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リュウグウ2回目着陸に「待った」が出ていた 議論重ねて決断

7/5(金) 13:39配信

毎日新聞

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が11日、小惑星リュウグウに作った人工クレーターの近くへ着陸する。1回目の着陸に成功した今年2月以降、探査機を運用するメンバーは、探査機を損傷して失う恐れもある着陸に再び挑むのか、それとも自重するのかという葛藤を抱えた。そこに突きつけられたのが、組織のトップからの「2回目をやらずに帰ってきてはどうか」という「待った」をかける提案だった。

【動画】くぼみができたリュウグウの表面

 「100点じゃなくていい。60点で帰ってきませんか」

 6月6日、JAXA宇宙科学研究所(宇宙研、相模原市)で開かれた「はやぶさ2運用会議」。2回目の着陸実施を決断する場となる予定だった。そこで国中均所長が、集まった約80人のプロジェクトメンバーを前に切り出したのだ。国中さんは、毎日新聞の取材に「1回目の着陸でサンプル(試料)が取れている。2回目をやらずに帰ってきてはダメなのかと、『動議』を出したんです」と明かした。

 打ち上げ前にJAXAが設定した成功基準は3段階だった。小惑星への到着(最低限のミニマムサクセス)▽表面のサンプル採取と地球帰還(計画通りのフルサクセス)▽クレーターを作って露出した地下物質の採取(最高レベルのエクストラサクセス)――だ。2月の着陸で、2段階目までほぼ達成できており、あとは地球へ無事帰還することがフルサクセスの条件となっている。

 リュウグウの表面は大きな岩だらけで、着陸時に探査機がぶつかれば壊れてしまう恐れがある。国中さんの頭の中には初代はやぶさが2005年、2回目の着陸で大きく損傷した教訓が鮮明に残っていた。はやぶさは2回目の着陸後に燃料が漏れ、姿勢を崩して地球との通信が一時途絶えるという深刻な事態に陥った。

 国中さんはこう話した。「はやぶさの2回目と同じ状態とは言わない。しかし、日和見主義だと言われるかもしれないけれど、私の立場として言わないといけなかった。地球に帰れなければ、結局0点になる。だから、成果を早めに刈り取ることも検討すべきだと考えた。会議では、科学分析を担当する研究者たちにも言いました。『帰ってこなければ分析も何もできない。(2回目の着陸をするということで)あなたたちは本当にいいんですか』と」。もし失敗すれば、宇宙研が構想している後続のプロジェクトに大きな遅れが生じるのは避けられない。はやぶさ2のチームにその責任を取らせることはできない。そんな考えもあった。

 一方、チームを率いる津田雄一・プロジェクトマネジャーも迷っていた。4月5日、クレーター作製に成功した直後の記者会見で「すでに『はやぶさ2』の中にはサンプルがあり、資産価値が上がっている状態。この状態でリスクを許容できるか」と、2回目の着陸に慎重さを見せていた。また1回目の着陸によって、探査機下部のカメラや高度計に舞い上がったリュウグウの砂が付着し、感度が落ちたことが、2回目の着陸運用に影響することも懸念された。

 津田さんは毎日新聞の取材に、「1回目の着陸前から非常に悩み始めていた。悩みはすぐには解決できないので、どんな道も選択可能な状況を作ることに注力した。1回目の成功後、プロジェクト内で2回目をやるべきかどうかの議論をやり直し、プロジェクト外の有識者にも意見を聞いた。それらの結果から、実施へかじを切ろうという方向になっていった」と話した。

 局面が開けたのは5月30日。着陸時の目印となる球状の「ターゲットマーカー」を、人工クレーターから20メートルしか離れていない、大きな岩の少ない領域に着地させることに成功した。狙った地点との誤差はわずか3メートル。その付近にはクレーターから噴出した地下物質が積もっている可能性が高い。チームは「決行」の意思を固めた。

 分析する試料がなければ成果を得られない立場の研究者たちの後押しもあった。探査機を運用するメンバーは当初、研究者たちが1回目の着陸で得た試料を持ち帰ることを重視するのではないかと想像していたという。しかし、実際は違った。「科学者の皆さんが(運用メンバーを)信頼して、背中を押してくれたことは非常に大きかった」と津田さんは言う。

 運用会議では、プロジェクトチームの腹は決まっていたにもかかわらず、国中さんに引き留められ、「1回目の着陸を上回る危険性がないことを数字で示せ」と条件を突きつけられた。そこで、着陸計画の実現可能性のデータを綿密に再計算し、それらをもとに、着陸の運用で想定されるあらゆる条件を盛り込み、10万回ものシミュレーションを実施した。そのすべてが「成功」だった。津田さんは「かじを切ろうとする時にアンチテーゼ(否定的な意見)を提示してもらうのは重要なこと。(国中さんの)問いかけはもっともで、それに答えられるだけの理由がなければ、そもそも着陸を実施するかどうかを決められなかった」と振り返る。

 プロジェクトチームは、6月21日に開かれた「はやぶさ2主任班長会議」で、2回目の着陸運用で安全レベルが維持できること▽安全確保のために降下を中止する条件をかなり厳格にする結果、成功の確率は下がること――などの具体的なデータを国中さんへ報告し、ついに実施の了解を得た。

 それでもリスクは「0」ではない。津田さんは語る。「信頼性は100%にはできないが、プロジェクトメンバーの皆が、そして宇宙研の歴史を作ってきた多くの方々が、『リスクを恐れては宇宙科学の発展はない』という意見だった。私自身、そうした皆さんの挑戦の精神に後押しされたと思っています」

 宇宙研内の激論を経て、たどりついた「挑戦する」という答え。国中さんは「プロジェクトメンバーにとっては、はやぶさ2の成功がすべてだろう。『やりたい』という気持ちも分かる。しかし、宇宙研にとって、はやぶさ2は『ワン・オブ・ゼム(one of them、多くの中の一つ)』だ。これから始まる火星衛星探査や新たな小惑星探査を推進していかなければならない。だからこそ、今回の結論は宇宙研全体を考えたうえで、組織として出したものであり、ケアレスミス(不注意による誤り)は絶対に許されない。安全に運用してもらわないと困るということだ」と話した。

 現在は、地球から約2億5000万キロかなたにあるリュウグウ。はやぶさ2は昨年6月の到着から、多くの想定外に直面し、さまざまな挑戦を積み重ねてきた。2回目の着陸は、リュウグウで挑むはやぶさ2最後の大一番になる。その行方に注目したい。【池田知広、永山悦子】

最終更新:7/5(金) 13:39
毎日新聞

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