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親会社の意向なので開発中止します。もちろんお金も払いません(IT訴訟解説)

7/10(水) 7:00配信

@IT

「3割」の内訳

 実は、裁判所はベンダーが求めた賠償額の満額は認めず、3割ほど減じている。

 ことのいきさつを見ても、ベンダーに大きな過失は見受けられない。作業は、ほぼスケジュール通りに進み、そこまでに提示した各種の成果物も、大きな問題はないようだ。細かいところは不明だが、少なくとも判決文を見る限り、ベンダーの作業品質が悪過ぎるためにユーザーの親会社がプロジェクトの中断を決断した、などの話はない。

 ベンダーには取り立てて非は認められない。にもかかわらず、裁判所は支払い額の一部を減じたのだ。果たしてこの「3割」とは何なのだろうか。

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東京地方裁判所 平成19年11月30日判決から(つづき)

ベンダーは(略)ユーザーからの正式な発注行為がないにもかかわらず各作業に着手しているところ、ベンダーにおいても、信義則上、上記各作業を行う前にユーザーに対し正式発注を求めたり、作業開始後一定期間が経過しても正式発注がなされないのであれば上記各作業を中止したりするなど、損害発生、拡大を防ぐための対応を取ることが期待されていたというべきである。
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 裁判所は判決文で、「正式な発注がないのであれば、それを求めたり作業を中止したりするなどの損害防止策をとるべきだった」と言っている。そうしたことをしていなかった、いわば「不作為の代償」が「3割」だったといえるだろう。

 しかし、これはなかなかに酷な話だ。私はベンダーにいた経験があるのでよく分かるが、「発注はまだか」と“お客さま”に申し入れても、「手続きが……」「調整が……」となかなか進めてくれないことは多い。そうしている間にも納期が迫ってくるので、作業を止めるわけにもいかない。まして、プロジェクトを中止するなど、現場の判断でそうそうできるわけではない。

 ならば、どうしたらいいのか。

 私の拙い経験を元に幾つかの提言をするならば、第一に、案件を受注するとき、契約書を取り交わすまでは必ず「複数のルート」でユーザーの発注意志を確認しておくことだ。

 今回のケースでもそうだが、ユーザーの現場は本気で発注をするつもりでも、経営層や他の関連部門がネガティブなケースというのは、ままあることだ。それが原因でプロジェクトが中断してしまうことは少なくない。

 確認は営業の役割かもしれないが、現場のエンジニアも、ユーザーのできるだけ多くのルートから発注意志に関する情報を集める姿勢が必要だ。

 第二は、ステアリングコミッティを組成すること。

 前述した通り、プロジェクトの中断は現場のプロジェクトマネジャーには判断できない。その際に発生する損失を受け入れられるか、あるいは損失が出ないように相手側の経営陣と交渉ができる人間(多くは自社経営層)を立て、ユーザーのしかるべき人間といつでも話し合える体制を作っておくことだ。

 第三は、多段階契約を結ぶこと。

 今回の事件は多段階契約を結んでいたので、ベンダーの被害額がある程度抑えられたといっていい。もしこれが一本の契約だったら、第1フェーズからの作業費用全てが回収できなかったかもしれない。

 第四は、「正式な契約の前」に、発注書や覚書あるいは議事録などで、「ある時期までに契約が成立できなければ、そこまでの費用をいったん精算して、再度仕切り直す」よう、取り決めておくことだ。いったんモメだしてからでは遅い。プロジェクトに着手する「前」にしておくことがポイントだ。

 もちろん、これらをやる以前に、正式な契約を結べるよう全力を尽くし、それがない限り、そもそも作業着手はしないというのが、最もあるべき姿だ。

 私が講演などでこうした話をすると、参加しているベンダーから必ず「そうは言っても……」という反応がある。しかし、だからといって最初から諦めていたのでは何も変わらない。まずは、理想の姿を目指して最善を尽くすこと。ベンダーが皆こうした活動を繰り返していけば、ユーザーとの関係も徐々に変わってくるのではないかと期待している。

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最終更新:7/10(水) 7:00
@IT

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