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ロシア、隣国ベラルーシと関係悪化 軍事衝突説までくすぶる

7/10(水) 14:05配信

ニュースソクラ

欧州の原油輸入の根幹にかかわる事態、原油価格に影響も

 ベラルーシと隣国ロシアとの関係が悪化している。昨年末に表面化したロシアのベラルーシ向けエネルギー価格の一方的な値上げでそれまでの蜜月から険悪な状況に陥った。

 最近でもロシアが4月に、ベラルーシ経由で欧州諸国に原油供給しているドルジバ・パイプラインに高濃度の有機塩素化合物が混入したため、原油の品質悪化を理由に供給を停止した。事故の可能性が高いが、復旧のめどが立っていないこともあって、ロシアのべラルーシへの嫌がらせ説まであり、ベラルーシ側の疑心暗鬼を生んでいる。

 ドルジバ・パイプラインの原油はベラルーシでも使っている。そのため、ベラルーシの国内製油所は軒並み稼働率が低下、輸出余力を失った。

 同国のルカシェンコ大統領はこのほど、ウクライナやポーランド、バルト3国(エストニア・ラトビア・リトアニア)への軽質石油製品の輸出を停止し、国内向け供給に限定する措置を発表した。送油管の復旧回復の遅れに、ベラルーシは北大西洋条約機構(NATO)寄りの姿勢を示すなど、ロシアを牽制している。

▼1991年の独立以来、ルカチェンコ独裁体制が続く

 ベラルーシの現代史をロシアとの関係も踏まえ振り返ってみよう。同国は1991年、旧ソ連邦から独立した。94年の大統領選挙に勝利したルカシェンコ氏は社会主義路線を導入。以来、現在まで統制経済下にある。

 ロシアとは関税同盟を締結し、90年代後半に経済危機に陥るも、同国のサポートで立ち直りを見せた。ただ、その後も厳しい経済運営を強いられ、国家財政は立ち行かなくなった。ルカシェンコ独裁体制のもと、本格的な経済改革に着手しなかったことで、国内経済は悪化の一途を辿った。

 ロシアとの関係は、親密、険悪を行きつ戻りつしてきた。

 ベラルーシに天然ガスを供給していたロシア国営ガスプロムは2010年6月、天然ガス代金の未払いを理由に同国へのガス供給を削減する措置に出ると警告。

 ベラルーシは、欧州向け天然ガス・パイプラインの通過料金が払われていないとし、欧州への供給停止を盾に抵抗の姿勢を示したものの、未払い代金を支払ったため、事態は数日内に終息した。

 ベラルーシはその後、ロシア主導の国家連合体、ユーラシア連合に参加を表明し、あからさまなロシアとの「同盟」関係を築いた。それを踏まえ、ロシアはベラルーシを通過するパイプラインをロシアが買い取ることを条件に、特別割引価格で天然ガスを提供する協定を締結した。

 しかし、これで決着したわけでなかった。ベラルーシの放漫な経済運営に愛想を尽かしたロシアは2013年、ベラルーシへの資金援助の打ち切りを決めた。これに目を付けたのが、経済成長が著しい中国だった。中国は当時、速やかに15億ドル相当の投資を決め、ベラルーシ経済は九死に一生を得た。

 ロシアへのエネルギー(天然ガス)代金の未払いで思い返されるのは、ベラルーシと隣接するウクライナだ。2014年2月、親ロシア派のヤヌコビッチ政権が崩壊し、親欧米派の政権が実権を握ったことで、ロシア軍によるクリミア併合を誘発したことは周知のとおりだ。

 ラトビア、リトアニア、ポーランドと国境を接する内陸国のベラルーシは、ロシアにとり、NATOとの緩衝地帯の役割を果たす。安全保障上、ロシアはここを死守する必要性に迫られる。

 NATOはロシアへの抑止を目的に、バルト3国とポーランドに4つの大隊を展開し、ロシア国境に迫っている。ベラルーシはウクライナの二の舞を演じることだけは回避したいところだ。ロシアに反旗を翻すルカシェンコ独裁体制に終止符を打つため、ロシア軍によるベラルーシへの武力介入も想定され始めている。

▼エネルギー調達でロシアとの対立を繰り返す

 2016年10月には、ベラルーシによる天然ガス代金の未払いがあるとして、ロシアが原油供給を絞る事態を招いた。そのため、ベラルーシは代替調達先としてイランに接近。核合意により、欧米による経済制裁を解かれたイランは当時、中・東欧諸国に原油の販路を拡張していた矢先でもあり、双方の思惑が一致したとされた。

 一方、ロシアは「原油供給を絞っているのはベラルーシの天然ガス代金未払いが2億7,000万ドルあるため」と反論。ベラルーシも「ロシアによる原油価格の設定が明確でない。原油と天然ガスとを混同すべきではない」などと、互いに一歩も引かなかった。

 ベラルーシはイランだけに留まらず、アゼルバイジャンやエジプトとの関係強化にも乗り出し、エネルギー調達でロシア離れを加速させようとした。ベラルーシの通信社『ベルタ』(2016年10月31日付)は、同国のモズィリ製油所(精製能力は日量約20万バレル)に中央アジアのアゼルバイジャンから原油が到着したと報じた。

 アゼルバイジャン産原油8万4,700トンがジョージア(グルジア)のスプサ港からウクライナのオデッサ港に運ばれた後、ウクライナ本土を経由してベラルーシに鉄道輸送された。輸送は、アゼルバイジャンの国営石油会社であるソカールのトレーディング部門が担当した。アゼルバイジャン産原油の調達によって、モズィリ製油所はフル稼働できるようになった。

▼2017年の交渉では直前に衝突を回避

 対立が表面化する中、プーチン大統領とルカシェンコ大統領が2017年4月3日、サンクトペテルブルグで会談し、18年初めまでに天然ガスの共同市場を設置するため、その運営ルール作成で合意した。

 そのほか、電力についても19年夏までに共同市場を設立し、両国間の輸送コストや価格などを同水準にするなどで合意するなど、一転して関係改善に向かった。首脳会談では、ベラルーシがロシア国営のガスプロムから輸入した天然ガス代金の滞納分を返済し、ガスプロムはベラルーシへの天然ガス価格を割引することでも合意した。

 また、ロシアがベラルーシに約10億ドルを融資し、ユーラシア基金(EFSD)も6億ドルを融資することが明らかになった。そのほか、ロシアはベラルーシに年間2,400万トンの石油製品を輸出し、ガスプロムは2018~19年のベラルーシに対する天然ガス販売料金を割引するなどの情報が伝わった。

 このように、2国間交渉は大方の予想に反して好転したが、その背景にはベラルーシの内政事情があるとされた。ベラルーシでは、同国政府が導入した「ごくつぶし税」がきっかけとなり、これに反対する一般市民がマヒリョウ州バブルイスクという町で抗議デモを起こした。

 この税は、年間の労働日数が6カ月未満の人を対象に約200ドルを課すというものだった。ごくつぶし税導入に対し、反対派は政府の経済政策が無策であり、そのツケを国民にまわすべきでないと主張。デモは首都ミンスクでも広がり、2017年3月25日には、ルカシェンコ大統領の退陣を求める市民ら約200人が当局に拘束された。

▼新たな地政学リスクの萌芽と認識すべき

 ドルジバ・パイプライン汚染問題に加え、ロシアからの原油価格が割高として、最近のベラルーシとロシアとの関係は再び対立の様相を呈している。

 昨年末にロシアがベラルーシ向け原油の値上げを打ち出したからで、背景にはプーチン大統領が、ベラルーシに併合を迫ったのを拒否したからとの説も流れている。支持率が低下ぎみの同大統領が、クリミア併合時のような支持率回復を狙ったと解説されている。

 米エネルギー情報局(EIA)によると、ロシア産原油(コンデンセートを含む)の輸出先で、欧州向けが全体の60%以上を占めた(2014年時点)。ちなみに、ベラルーシは第3位の9%超で、ロシアへの原油依存は数字上からも明らかだ。

 15年1月、ロシアはベラルーシとカザフスタンとともにユーラシア経済連合(EEU)を結成(その後、アルメニアとキルギスが追加加盟)。EEUは25年までに原油・石油製品・天然ガス市場を統合する目標を確定しているため、ロシアとベラルーシが、エネルギー問題で決裂に至るシナリオは小さいとの見方もある。

 2019年3月5日付の『AP通信』は、「ロシア側がドアを閉ざすのであれば、我々は別の解決方法を模索せざるを得ない」とするルカシェンコ大統領のコメントを配信した。

 ベラルーシはまた、2008年以来、国外追放してきた米国の外交団を再び受け入れると表明。20年に大統領選挙が予定され、ルカチェンコ大統領は再選に向け、あらゆる手段を駆使するとみられる。

 内政の失敗を国民の目からそらし、愛国心を煽る手法は国家指導者の常套手段だ。NATO寄りの姿勢をちらつかせることで、ロシアから譲歩を引き出そうとしているのではないか。

 エネルギーをめぐる対立が深刻かつ長期化すれば、原油供給の途絶だけでなく、ロシアのヤマル半島からベラルーシ及びポーランドを経由してドイツに至る「ヤマル・パイプライン」の天然ガス供給がストップする事態にまで発展する可能性も否定できない。

 その影響はベラルーシの国内エネルギー問題に留まらず、最終的にドイツにまで及ぶため、周辺関係国にとって対岸の火事で済まなくなる。ベラルーシとロシアとの摩擦はいまや、新たなエネルギー地政学リスクの萌芽として捉えるべきとの声が出ている。

■阿部 直哉(リム情報開発・総研チーム)
1960年、東京生まれ。慶大卒。ブルームバーグ・ニュースの記者・エディターなどを経て、リム情報開発の総研チームに所属。1990年代、米国シカゴに駐在。
著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。

最終更新:7/10(水) 14:05
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