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武者小路実篤「君も僕も美しい」 己を生かす精神根付く 【あの名作その時代シリーズ】

7/11(木) 12:30配信 有料

西日本新聞

鹿遊(かなすみ)と呼ばれる山々から、小丸川の流れに「半島」のように突き出した日向新しき村

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は06年11月26日付のものです。

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 山と山とが讃嘆(さんたん)しあうように
 星と星とが讃嘆しあうように
 人間と人間とが讃嘆しあいたいものだ (「君も僕も美しい」)


 詩の世界が、眼前の大パノラマと重なって胸に迫る。宮崎県木城町石河内の峠に建つ、武者小路実篤の文学碑。ただ、黒い石に刻まれているのは、よく言えば童心あふれる、正直言うと小学生の手習いのような字である。

 「それが先生なのよ。体裁なんてまるで考えないのね」

 実篤が始めた「日向新しき村」の住民、松田ヤイ子さん(74)が楽しげに言うので、町役場にある原本を見せてもらった。厳重な金庫から出てきた書は、なんと「讃嘆しあいたい」の「た」を間違え、堂々とバッテンを付けて書き直してある。町に贈られたのは一九六八(昭和四十三)年。実篤が八十三歳の時だ。

 ヤイ子さんの夫、省吾さん(63)は笑って擁護する。「だって、詩が生まれた心には『間違い』はないからね」

 実篤の絵を思い出した。おおらかで前向きで天衣無縫。「仲よき事は美しき哉(かな)」と達観し、カボチャにもジャガイモにも美を見いだして一心に描いた。努力家でもあったらしい。

 「本当に八十過ぎても九十になっても、あきらめたくなかった人だった。父の印に『牛一歩』というのがあって、これは『モウ一歩』と読むそうで、まったくいつもその気だった」

 実篤の三女辰子さん(78)=東京都小金井市=は、回想記にこうつづっている。

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 九十年の長命を全うした実篤は、何を考え懸命に生きた人だったのか。峠を下りて日向新しき村へと向かった。 本文:2,484文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:7/16(火) 11:40
西日本新聞

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