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錦織圭を育てた盛田ファンド“脱アマチュア主義”の合理性

7/13(土) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

武田薫【スポーツ時々放談】

 今年のウィンブルドンも3強で明け暮れた。それにしても錦織圭とロジャー・フェデラーの準々決勝は見応えがあった。錦織が得意のリターンで先手を奪うと、フェデラーが猛然と仕掛けた。いきなり12連続ポイントに、度肝を抜かれたファンも多いだろう。第2セットの獲得ポイントはフェデラー26に対し、錦織は8だった。

 この日、3強に挑戦した3人はすべて第1セット善戦で終わっている。フェデラーは試合前に錦織のリターン能力、バックハンドの技術とともに精神力の強さを挙げた。錦織自身「負けず嫌い」と精神力への自信を口にしたことがあるのだが、そんな選手でも、フェデラーを筆頭とする3強の前では正常心を忘れ、ミスを引きずり出される。

 試合はセンターコートで行われ、家族席に盛田正明氏の姿があった。錦織がテニス人生で最高の恩人とする育ての親は、ソニー創業者の盛田昭夫氏の弟、ソニー生命保険社長を務めた実業家だ。根っからのテニス愛好家で知られ、日本テニス協会の会長も務めた。

 盛田氏は、日本から世界に通用するテニス選手を育てようと、友人のマーク・マコーマックが創業したIMGの協力を得て育成ファンドを立ち上げ、フロリダに若き精鋭を送り込んできた。錦織が13歳から盛田基金でフロリダに渡ったことは有名で、今回は錦織の他にも西岡良仁、内山靖崇とファンド育ちが本戦入り、ジュニアでも望月慎太郎が勝ち進んでいる。

■アマチュア主義からプロ

 テニスに限らず、最近は日本選手の海外での活躍が話題だ。野球の大谷翔平だけでなく、バスケットボールでは八村塁がNBAに1巡目で指名され、陸上100メートルではサニブラウン・ハキームが日本記録9秒97を出した。八村やハキームは外国人2世だからという人もいるが、そんな単純な話ではないだろう。どの競技でも、日本の指導者は基本を徹底的に叩きこむ。教科書通りに繰り返し教える。アマチュア主義だ。

 これまではそこで終わっていた流れが海外のプロにつながったのだ。情報化時代の今、若者に基本を叩きこむ作業は時間と手間がかかり、誰もやりたがらない。しかし基本は大事だ――。

 日本ほど子供の頃から野球の試合数をこなしている国はない。基本はバッチリ。この頃、高校野球の試合でメジャーリーグのスカウトを以前ほど見かけなくなったのは、しつけは日本に任せ、ある程度育ってから本場に連れて行く“楽な方法論”を完成させたからなのだ。

 錦織を生んだのは日本の土壌。しかし、フェデラーに立ち向かう世界ランク7位を育てたのは、彼我の現実をよく知った盛田方式の合理性だ。彼我の差をわきまえず、国内利権に奔走する競技団体を見直し、指導するのもスポーツ庁の仕事だろう。

(武田薫/スポーツライター)

最終更新:7/13(土) 9:26
日刊ゲンダイDIGITAL

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