ここから本文です

天皇の呼称をどう理解すればよいのか。文字の意味の重さを改めて知らしめる―野村 朋弘『諡-天皇の呼び名』本郷 和人による書評

7/14(日) 6:00配信

ALL REVIEWS

◆文字の意味の重さを改めて知らしめる

皇室典範の規定に従うならば、天皇陛下がお隠れになることによって元号が変わり、先の元号は亡くなられた天皇陛下のお名前(諡)になる。明治、大正、昭和はそうであった。今回、上皇さまは特例として生前退位をされて元号は令和となった。このとき、上皇さま以外に具体的な呼称はないものだろうか? いつまでもお元気でいらしていただきたいので、平成上皇と申し上げるのは誤りになる。といって今上陛下といえば、それは天皇陛下のこととなる。はて?

明治より前にも多くの天皇がいらっしゃるが、その呼称には明らかに異なる性格のものがある。一つは清和源氏という言い方でよく知られる「清和」のようなお名前。もう一つは院政で有名な「白河」のようなもの。ああ、付け加えると「後白河」のように「後」という字がつく方もいらっしゃる。これらをどう理解すればよいのか。本書を読めばたちどころに分かる。

明を樹立した朱元璋(しゅげんしょう)は、太祖と呼ばれ、洪武帝(こうぶてい)ともいう。この違いも実は本書はしっかりと説明してくれるが、彼は「文字(もんじ)の獄」と呼ばれる大弾圧を行った。「光」や「禿」などの字を使った者を、中国史上最大の成り上がりを遂げたこの皇帝が、出世前に僧侶だったことをあてこすり嘲弄(ちょうろう)しているとして、片っ端から処罰したのだ。一方わが国では古来「光」の字が特別な意味をもって天皇の名として用いられており、朱元璋と同じ頃、北朝の天皇が多くこの字を用いている。とても興味深い史実だが、文字というのはそれほどに重い意味を持つ。

本書はきわめて分かり易い解説を示してくれるとともに、すぐれた天皇の歴史書でもある。何かの時に恥ずかしい思いをしないでいいように、一冊、家に置いておきたい本といえよう。

[書き手] 本郷 和人
1960(昭和35)年東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。中世政治史、古文書学専攻。史料編纂所で『大日本史料』第五編の編纂を担当。著書に『天皇はなぜ生き残ったか』『戦国武将の明暗』など。

[書籍情報]『諡-天皇の呼び名』
著者:野村 朋弘 / 出版社:中央公論新社 / 発売日:2019年05月21日 / ISBN:4120051943

サンデー毎日 2019年6月11日掲載

本郷 和人

最終更新:7/14(日) 6:00
ALL REVIEWS

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事