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マイヨジョーヌ争いが本格化するツール第2週 ピレネーに向けて選手たちの意欲に迫る

7/17(水) 6:00配信

Cyclist

 ツール・ド・フランス2019は第1週が終了、全21ステージ中10ステージが終わっており、実質折り返し地点を迎えたといえる。続く第2週の舞台となるのはピレネー山脈。数々の名勝負が繰り広げられてきた山々は今年、大会半ばでの登場だ。そして、総合争いも本格的にスタート。そこで今回は現地から、大会1回目の休息日を迎えた選手たちのコメントや、この先の戦いの展望をまとめてみる。

【特集インデックス】ツール・ド・フランス2019
総合上位3選手 第2週へそれぞれの思いを語る
 ツール1回目の休息日となった7月16日、出場チームは宿泊するホテルでそれぞれプレスカンファレンスを実施した。第1週を終えた時点で、上位に位置する選手たちの言葉に注目が集まった。
 なかでも世界各国のメディアが集まったのは、ゲラント・トーマス(イギリス)とエガン・ベルナル(コロンビア)の両エースが個人総合2位、3位と順調にポジションを上げてきたチーム イネオス。選手・首脳陣がそろってカンファレンスの席に着いた。

 マイヨジョーヌを完全に視界に捉えている前回覇者のトーマス。落ち着いた様子で質問に応じ「ここまでキーとなるステージはいずれもよかった。第8ステージでの落車後もコンディションには問題がない」と説明した。
 やはり個人総合順位で好位置につけているあたりに報道陣の興味が集中し、「(個人総合)2位と3位に位置できて、すばらしい10日間だった」と大会前半戦を総括。「マイヨジョーヌから1分以上のタイム差であること以外はいずれも素晴らしい」と現状に満足する。
 第2週は、個人総合首位のジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)を意識する必要が高まるが、トーマス自身はツール総合争いの経験がないアラフィリップは、そこまでマークすべき存在ではないとの見方。とはいえ、「レースが進んでいっても(総合の)状況が変わらないようなら彼を意識せざるを得ない」とした。

 トーマスとならび、チーム イネオスのリーダーであるエガン・ベルナル(コロンビア)も明るい見通しに表情は朗らか。「経験を多く積み、自信をもって走ることができていることが大きい」とし、新人賞のマイヨブランを着用する状況に「本当に特別で、ツールを心から楽しむことができている」と順調な戦いに前向きな姿勢を見せた。
 第10ステージでは横風を利用した攻撃でライバル数人を振り切ることに成功したが、このチーム戦術にベルナルがしっかり加わったことを首脳陣は高く評価する。チームを指揮するデイヴ・ブレイルスフォード氏は「今年のパリ~ニースまで横風のレースを走ったことがなかった。そんな彼が学んできたスキルをこの大会でしっかり発揮した」とほめる。昨年はクリストファー・フルーム(イギリス)の薬物疑惑によって、3週間通してブーイングの嵐だったが、それと比較して「これまでになくポジティブにレースができている。昨年と比較して劇的な変化だ」と、チームを取り巻く環境にも喜びを感じているとした。

 先々を見通すチーム イネオス勢に対し、マイヨジョーヌをここまで計6日間着用しているアラフィリップは現実路線。「さすがにパリ(への到達)を考えることは早すぎる」として、実現可能な目標を口にする。
 いま狙っているのは「ポーでのタイムトライアルステージまでのジャージ保持」とし、第13ステージまではマイヨジョーヌをキープすることを意識。さらには、このタイムトライアルステージでの勝利も狙いたいといい、「タイムトライアルは得意ではないが、丘陵地帯を走るコースで自分自身を驚かせるくらいの走りをしてみたい」と意欲十分。
 ステージ1勝にマイヨジョーヌ着用と、まぎれもなく第1週の主役に輝いたが「私にとってツールは成功したようなもの。これからは自分がどんなことができるか、限界に挑戦していきたい」と第2週へ思いを馳せた。
第2週マイヨジョーヌ争いのポイント
 第1週でヴォージュ山脈、中央山塊とをめぐったプロトン。マイヨジョーヌの変動が数度あったものの、パリ・シャンゼリゼのポディウムに向けては、まだまだいくつものドラマが待ち受けていることだろう。

 マイヨジョーヌ争いの第1段階となるのが、第2週のピレネーステージだ。急峻な山々はもちろんのこと、今大会唯一の個人タイムトライアルステージも控えており、順位・タイム差は激しく変動しそうだ。
 第1週を終えた時点で、マイヨジョーヌのアラフィリップから個人総合2位のトーマスまでは1分12秒差。同7位までは2分以内のタイム差につける。さらに、3分まで視野を広げると上位12選手が含まれる。アラフィリップにグランツール上位争いの経験がないため、この先のステージでの彼の走りを占うことは難しいが、事実上トーマスが総合系ライダーの中ではトップに立っていると考えてよいと思われる。
 トーマスから個人総合12位のパトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)までが1分34秒差。以下は2分以上の開きとなっており、上位陣(後述)の実力や実績を加味すると、コンラッドの位置までが総合争いの有資格者と言えるだろう。
 上位進出に向け、どこでジャンプアップを狙っていくか。セオリー的には第13ステージの個人タイムトライアルにチャンスがある。27.2kmで各選手の独走力が試されるが、タイムトライアルを得意とする選手たちは少しでもアドバンテージを奪うなり、ライバルとのタイム差を挽回するなりしたい。

 ただ、総合系最上位のトーマスがタイムトライアルスペシャリストであることが、上位浮上を目指す選手たちの状況を難しくしている。トーマスは第6ステージのラ・プロンシュ・デ・ベル・フィーユで強さを発揮し、横風に荒れた第10ステージでも安定したところを見せた。タイムトライアルでトーマスが一気に伸びてくることも考えられ、もっといえばいまのトーマスに、山岳での一度や二度の攻撃で大きく引き離すことは難しいのも事実。
 そうなってくると、1級山岳2つを越えた後にフィニッシュへのダウンヒルが待つ第12ステージで先手を打ってくる選手が現れても不思議ではない。2つ目に登場する1級ラ・ウルケット・ダンシザンにはボーナスポイント(1位通過から順に8秒、5秒、2秒のボーナスタイム付与)があり、これをめがけてアタックした選手がボーナスタイム獲得と合わせて下りでライバルを引き離すことができれば、上位浮上の機会が訪れる。
 さらには、トゥールマレー峠を上る第14ステージで有力視される選手たちの“脚”が明確になるはずだ。ピレネーの名峰ゆえ、期待されるのは総合上位陣によるノーガードの打ち合いだが、各選手たちが前日のタイムトライアルの結果を受けてどう戦術を整えてくるかが見もの。レース距離こそ117.5kmと短いが、過去のレースに照らし合わせる限り何人もの集団でフィニッシュを迎えることは考えにくく、このステージを終えた段階で総合争いの形成がある程度見えてくる可能性が高い。

 もちろん、第2週最終日の第15ステージも甘く見てはいけない。1級から2級の山岳が4カ所登場の一日で、メイン集団の人数が絞り込まれていきながら、やがて総合系ライダーたちの駆け引きへと移っていくとみられる。ポイントは、最後の上りとなる1級のフォア プラット・ダルビ。フィニッシュに近づくにつれて勾配が緩くなっていくのが特徴で、攻撃のタイミングを最終局面まで待っているとライバルのチェックにあう可能性が高いのだ。その意味では、ボーナスポイントが用意されている、ステージ3つ目の上りである1級ミュール・ド・ペゲールからの仕掛けで、レースを活性化させるのも一つの手だろう。
 各選手・チームの力が拮抗している中で、どうマイヨジョーヌに近づいていくか。第3週にアルプスの難所が控えていることも計算に入れて、まずはタイムの取りこぼしをなくすことと、マイヨジョーヌを確実に射程圏にとらえていることが、大会中盤戦を切り抜ける前提条件となりそうだ。
 なお、第2週のステージ情報については、筆者解説の「コースプレビュー<第2週>」を参照いただきたい。参考までに参考までに、マイヨジョーヌ争いの主要選手とそのタイム差を以下にまとめる(第1週を終えての個人総合順位・選手名・トーマスを基準としたタイム差、の順)。

2 ゲラント・トーマス(イギリス、チーム イネオス) 43時間28分27秒
3 エガン・ベルナル(コロンビア、チーム イネオス) +4秒
4 ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィスマ) +15秒
5 エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) +33秒
6 エンリク・マス(スペイン、ドゥクーニンク・クイックステップ) +34秒
7 アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) +35秒
8 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム) +52秒
9 ダニエル・マーティン(アイルランド、UAE・チーム エミレーツ) +57秒
10 ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) +1分20秒
11 ティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ) +1分21秒
12 パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) +1分34秒
13 リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト) +2分6秒
15 ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール) +2分8秒
16 ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ プロチーム) +2分10秒
20 リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード) +2分47秒

シクロクロッサーが語るロードレースとシクロクロスの関連性
 アラフィリップ、マイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)。

 彼らに共通するのは、第1週のステージ勝者であると同時に、シクロクロスで名を挙げた選手であること(サガンはオフロード時代マウンテンバイクが主だった)。やはりツール現地でもシクロクロッサーのロードでの活躍が一目置かれていて、アラフィリップやファンアールトのステージ優勝時にはメディアから具体的な質問が飛んだ。
 選手たちもそのような質問が来ることをある程度準備していたのか、はたまた聞かれ慣れているのか、メディアに限らず観る者の多くが抱く疑問に真摯に答えていた。
 ジュニア時代の2010年にシクロクロス世界選手権で銀メダルを獲得しているアラフィリップは、「ダウンヒル能力の向上やハンドルさばきがロードでの走りに生かされている」と説明。いまのプロトンでは屈指と言われるダウンヒルテクニックは、シクロクロスにルーツがあるものと自身は考えている様子。

 現役シクロクロッサーとして世界のトップに君臨するファンアールトは、勝利した第10ステージ後の記者会見で問われ、「深くは考えたことがない」としながらも、「自転車のキャリアを始めるには最適のスポーツではないかと思う」とコメント。既定の時間内で常に高強度を維持できるパワーとバイクコントロールの面が、ロードに反映されていることがうかがえる。
 両者ともにフィジカル面については言及しなかったが、そのあたりは今後より深く掘り下げて考えられていくことだろう。ちなみに、ファンアールトはツール後、1レースを走ってシクロクロスシーズンの準備に入ることをツール前に明かしている。今度は、ロードでの走りをいかにシクロクロスへつなげていくか。非常に興味深いところである。
 シクロクロッサー含め、ロードへの転向組に関する考察は本コーナー294回「ロードレースシーンで存在感を強める“転向組” 大躍進の背景に迫る」を参照されたい。
今週の爆走ライダー-マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン、ドゥクーニンク・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…
1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 このツールだけですでに2勝を挙げたドゥクーニンク・クイックステップ。シーズンインから数えれば、現時点にしては驚異の48勝。そのうち、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)のスプリント勝利のほとんどで発射台を務めているのがリケーゼである。

 リケーゼと聞けば、日本のレースファンでもピンとくる方が多いだろう。2011年から2シーズン、チームNIPPO(現NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネ)で走り、圧倒的なスプリント力を発揮した“あの”リケーゼである。
 あの頃、日本のレースを席巻したスプリント力は、2016年から所属する現チームでリードアウトに大きく生かされている。抜群のポジショニングと正確な発射タイミング。ヴィヴィアーニの勝利量産に熱が入るイタリアのジャーナリストからは、「世界最高のリードアウトマンだ」との評価も。
 2007年のジロ・デ・イタリアではステージ2勝(いずれも繰り上げ)を挙げるなど、当時若手期待のスプリンターとして騒がれた彼も36歳。ゆかりのある日本から現地入りした筆者の問いにも笑顔で応えてくれた。「今大会はハイスピードな一方でトラブルが少ない。それもスプリントを成功させている要素だと思う。みんなテクニックや経験があるけど、ツールに出る選手はそれくらいでなくてはいけない」。その言葉からは、世界の最高峰で戦う貫録と自信が垣間見えた。

福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)
サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU」

【特集インデックス】ツール・ド・フランス2019

最終更新:7/17(水) 6:11
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