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「PDFなどの文書」や「画像だけの地図」もアクセシブルにできる[CSUNレポート]

7/17(水) 10:06配信

Web担当者Forum

「アクセシビリティ」をテーマに、年に1度開催されているグローバルカンファレンス「CSUN」。今年の参加メンバーがレポートする本連載記事の第1回では、インフォアクシアの植木氏がCSUNの全体像を、第2回ではコンセントの中村が訴訟コストに関するセッションやADHD当事者の方によるセッションをご紹介しました。

第3回では「Web/紙媒体を横断するアクセシビリティ」に取り組んでいるコンセントのデザイナーでディレクターの佐野が、「PDFをはじめとする文書のアクセシビリティ」と「地図のアクセシビリティ」についてのセッションをご紹介します。

 

PDFのアクセシビリティとは?

PDFもアクセシブルにできることをご存知でしょうか? アクセシブルなPDFとは、一言で表すなら「HTMLのマークアップのように、適切に構造化されたPDF」です。アクセシブルなPDFであれば、スクリーンリーダー(画面読み上げソフトウェア)を使用した際、Webページと同様に見出しや表組みなどの構造を読み取り、正しい順序で読み上げることが可能です。

アクセシブルなPDFを作成する方法は、主に2つあります。

1. 既存PDFをAcrobat Proを用いて編集し、後から構造化する
2. Word、PowerPoint、InDesignなどで元となるデータを作成する際、適切な機能を用いて構造化し、その構造を保持して書き出す





■ 日本ではあまり対応が進んでいないのが現状

PDFをはじめとする文書※1のアクセシビリティは、日本ではWebアクセシビリティ対応において「例外事項」として扱われることが多く、具体的なノウハウや、そのような事業を展開している企業が少ないのが現状です。

※1 本記事で指す「文書」とは、「そのデータ自体が印刷して配布されたり、ユーザーがローカル環境にダウンロードしてアクセスしたりする可能性のあるもの。いわゆる「Webコンテンツ」に該当しない、PDF、Wordドキュメント、PowerPointドキュメントなど」のことです。

しかし、本来「Webアクセシビリティ対応」には、「PDFのアクセシブル化」も含まれます。なぜかというと、Webブラウザ上で閲覧できるものは「Webコンテンツ」に該当するため、Webアクセシビリティ対応の対象となるからです。PDFはブラウザ上で閲覧することができますよね。そのためWebコンテンツであるPDFは、HTMLと同様にWebアクセシビリティを確保すべきなのです。

PDFの多くは、ユーザーが必要とする情報が掲載されている媒体です。たとえWebブラウザに掲載されておらず「Webアクセシビリティ対応」の対象外であったとしても、文書もアクセシブルであるべきなのではないでしょうか。「マシンリーダブルなもの」つまり「機械が理解できるもの」は、アクセシブルにできるんですから。


■ 欧米でのニーズの多さ

今回CSUNに参加して最も感じた欧米と日本との差は、文書のアクセシビリティに対するニーズの多さです。

第1回と第2回の記事でも紹介していたように、海外諸国ではWebアクセシビリティの確保が法律で義務付けられている場合が多いです。たとえば、アメリカではSection508、ADA、ACAAといった障害者やアクセシビリティに関わる法規制が複数存在しており、問題があれば提訴される可能性があります。そのため文書のアクセシビリティのニーズが多いようです。

一方日本では、アクセシビリティの確保は民間においては努力義務であり、強制力が弱く罰則もありません。そのため、対応が後回しにされがちです。やはり法的なリスクが少ないという現状が、文書のアクセシビリティ対応があまり進まない理由だと考えられます。

欧米ではアクセシブルな文書の変換・作成サービスを提供している企業が複数あります。PDFだけでなくWordやPowerPointといった文書全般や、HTML5への変換サービスを展開している企業もあります。スピーカーがそういった企業の担当者で、自社サービスの紹介をしているセッションもあれば、Adobeの担当者がPDFに対応する理由や方法、チェックツールについて語るセッションもありました。


■ 対応にあたっての課題は万国共通

日本とのニーズの差を実感する一方で、実務での共通点は非常に多かったです。PDFをはじめとする文書のアクセシビリティは、アメリカでも「対応すべきだが、難易度が高く厄介な存在」と認識されていました。私を含め各セッションの参加者には業務担当者が多かったようで、登壇者への質問はかなり実務的なものが目立ちました。

たとえば、「パンフレット(ブローシャー)はアクセシブルにできますか?」という質問。スピーカーの回答としては「できなくはない。しかし、難易度は高い」ということでした。もともと印刷する冊子用に作られたパンフレットは、文字要素と画像が複雑に入り組んだレイアウトであることが多いです。

アクセシブルなPDFにするには、見出しなどの情報構造と要素ごとの読み上げ順序を適切に設定する必要があります。レイアウトが複雑であればあるほど、この構造化の難易度は高くなります。

特にパンフレットなどのページ数が多い冊子は、1冊を通しての章立てや、見開きで成立する情報構造を前提として作られています。それらをアクセシブルなPDFとして構造化するとなると、現実的に考えて難しい部分があったり、物理的に工数が非常に多くかかってしまったりという現状があります。


■ アクセシブル文書作成はコストがかかりすぎる?

こういった事態に対し、「Is Document Accessibility Really Cost Prohibitive?(アクセシブル文書の作成コストは本当に高すぎるのか?)」というDeque Systems(デキューシステムズ)社※2のSachin Gupta(サチン・グプタ)氏とTom Wright(トム・ライト)氏によるというセッションがあり、アクセシブルな文書作成のコストを削減して継続的に取り組んでいくためのポイントが述べられていました。

※2 第2回でも紹介したDeque Systems社は、アメリカでチェックツール開発やコンサルティング等、デジタル分野のアクセシビリティを高める活動に幅広く取り組んでいる企業です。





セッションの中で、アクセシブル文書作成コストに関するデータが紹介されていました。上図の左の棒グラフは、Wordでの文書作成時に適切な構造化機能を使用することで、Word文書作成自体の工数が削減できることを示しています。

さらに右の棒グラフでは、そのような機能を用いて作成したWord文書をPDFに変換することで、そうでない場合に比べて33%の労力でアクセシブルPDFが作成可能なことが示されています。

つまり、アクセシビリティを考慮せずに作られた文書をゼロからタグ付けするよりも、Wordファイルでタイトル、見出し、箇条書きといったスタイルを用いて文章を作成し、それをPDFに変換する方が作業効率が良くなるということです。


■ 「文書」である必然性を疑うことも大事

またセッションでは、まず文書をアクセシブルにしようとする前に、「そもそもこの情報が文書である必要はあるのか。同じ内容をWebページで提供してはどうか」という観点をもつべきである、ということが述べられていました。





セッションで紹介されていた、ある文書をアクセシブルにしようとした時の業務フロー図では、最初に「Has to be Doc?」(=ドキュメントである必要はあるか?)という質問が書かれています。そして、別にドキュメントである必要がないのなら、Web Doc=Webページで提供することが推奨されています。

たとえば、会社案内パンフレットのPDFがWebに掲載されていたとします。しかし、そのパンフレットはもともと印刷用に作成されたもので、ページ数も多く、構造タグを後付けしてアクセシブルなPDFにするのが現実的ではなかったとします。そのような場合は、PDFのままどうにかしようとするのではなく、「同じ情報をWebページとしてHTMLでマークアップすればよいのではないか?」ということです。

もちろん、Webページで提供しづらい情報だからPDFにして掲載している、という場合もあるとは思います。ですが、その情報がアクセシブルであるべきならば、別の形で提供する可能性も合わせて考えることが重要なのです。

 

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最終更新:7/17(水) 13:51
Web担当者Forum

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