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芸術品のように魅せる。こだわりの美術セット『ごん GON, THE LITTLE FOX』メイキングvol.3

7/17(水) 11:50配信

CINEMORE

食器はろくろで手びねり。作り方まで本物志向

 兵十の家の土間にさりげなく置かれている、斧や鎌、ナタなどの農具にもこだわりが詰まっている。刃は鉛の塊を削り出し、金槌で叩いて作る。刃物を鍛える際についた槌跡を再現するためだ。この一手間で、グッと本物らしくなる。

 食器や水がめなどは、手回しろくろで手びねりした。材料のオーブン粘土は、焼いて磨くとツヤが出て、使い込まれた陶器の表情が出る。

 陶器類を担当したスタッフは以前、陶芸の窯元に勤めていた経験があるそうだ。そうでなければ、直径3センチほどの小ささでこれほど洗練されたシルエットを出すのは難しいだろう。

ときには自然物をアレンジして

 ごんが兵十の家に届ける松茸や栗。松茸はカサの部分を粘土で、軸を木で作った。松茸の軸部分のケバだちを表現するには、木を粗くひっかいた質感がぴったりだった。大根やさつまいもの葉は実物の草を乾燥させたものだ。イガグリは、芯に実物の栗のイガの針を一本一本植えつけて、ごんの小さな手のひらに収まるようスケールダウンさせた。

デザイン画がない?スタッフとの意識共有

 通常、CM撮影などの美術制作には、どんな小物がどこに置かれているのか、それはどんな色なのか、という指定がある。大勢のスタッフで共通意識を持ち効率的に進めていくためにデザイン画は必須だ。

 だが『ごん』の小道具のほとんどには、デザイン画は存在しない。美術スタッフは自分たちで資料を集め、細かいイメージは監督と相談しながら作っていく。

 なぜデザイン画を描かないのだろうか。監督は、普段のCMの仕事とは別だが…と断った上で話してくれた。

 「あらかじめ机上で決めた計画(デザイン)は、”あたり”でしかないと思っています。むしろ計画的で合理的にやるならCGとかのほうが向いているのかなと。できてきた物を見て、もっとこうしたいとアイディアを出したり、現物ありきで進めていけるのはストップモーションの良さだと思っています。」

 しかし、監督がどんなものを求めているのか、迷うことはなかったのだろうか。美術スタッフに聞いた。

 「監督の自宅にお邪魔したときに、その周辺の植物の色とか、家に置いてある食器やインテリアを見ることができたのは大きいです。体験を共有するというか、監督のいる環境に立ってその目を通してみると、好みが大体わかってきて作りやすくなりました。そういう意識共有のしやすさは、少人数でやっている良さだと思います。」

 監督はセットや小道具について「芸術品のように作りたい」と話す。

 「映像作品のセットだけれど、せっかくコマ撮りで、現物でやっているのだから、単にストーリーを遂行するための道具として存在するだけじゃなく、ストーリーがなくてもその存在(美術)が好きだなと思えるように作りたい。」

 CGや手書きアニメにはない、”実在すること”の価値を、監督は常に意識しているという。


-Next-
動物、鳥、昆虫…小さな生きものを通して自然を描くーー『ごん GON, THE LITTLE FOX』メイキングvol.4

『ごん』にはいくつもの小さな生きものが登場する。里山の空気感を演出する名脇役たちを、写真つきで紹介。また、雨の独特な表現方法も併せて紹介する。


取材・文: 池浦 蓮介
1988年生まれ、東京都出身。
高校生の時に観た『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』をきっかけに、ストップモーションアニメの世界にのめり込む。
大学卒業後、映像制作業のフリーランスとして活動中。

『ごん / GON, THE LITTLE FOX』
(新美南吉「ごんぎつね」原作)
2019年秋公開予定 上映時間:28分
制作・著作:太陽企画/エクスプローラーズ ジャパン
公式サイト: http://gon-project.com/
公式twitter: https://twitter.com/gon_tecarat

池浦 蓮介

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最終更新:10/4(金) 11:22
CINEMORE

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