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くすぶるEU懐疑論 前途多難な欧州議会

7/17(水) 15:25配信

THE PAGE

EU懐疑派が新会派、先行き不透明な新体制

 EU加盟国としては小国の部類に入るリトアニアのヴィリニュス大学国際関係政治学研究所で情報戦争やプロパガンダの歴史について教鞭をとるネリウス・マリウケヴィチウス氏は、これまでリトアニアや他の加盟国に対するロシア政府のプロパガンダ工作をモニターし続けてきた第一人者。5月の欧州議会選挙ではロシアからの情報戦はほとんど存在しなかったと語る。

「意外だったのは、欧州議会選挙前にクレムリン主導のものと思われるプロパガンダやフェイクニュースがEU加盟国内であまり見られなかったことだ。投票率が50パーセント強しかなかったことを、ロシアによる妨害工作が成功した証拠だと指摘する声もあるが、明確な証拠として考えられるものが今回はほとんど見当たらなかった。しかし、クレムリンが右派ポピュリスト政党を支援しているのは間違いなく、21世紀の『インターナショナル』はロシアの後ろ盾による右派政党の世界的な連帯を意味する。有権者の意識も5年前とは大きく変わった。移民問題や環境問題といった、よりグローバルなものに対して多くの有権者が関心を示した結果となった」

 数字上は最も大きなものではないが、欧州議会内のEU懐疑派は、先月13日に新会派の結成を発表した。各国の右派政党所属議員によって作られた会派の名は「アイデンティティーと民主主義(ID)」。ルペン党首率いるフランスの「国民連合」所属の議員や、イタリアの極右政党「同盟」の議員、「ドイツのための選択肢(AfD)」の議員ら、9か国76人の議員が参加し、欧州議会内で第5会派となった。また、第1会派の座をキープした欧州人民党グループは議席を大幅に減らした影響で、これまで推してきた人物が予定通り欧州委員長に就任するのが困難な状態になった。

 今月2日には欧州議会が開会し、同じ日に行われたEU首脳会議では、欧州委員長と欧州中央銀行総裁に、ドイツのフォンデアライエン国防大臣とIMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事が選出された。EUにおける主要なポストをドイツとフランスで分け合った格好だ。翌日の欧州議会ではイタリア人のダヴィド・サッソーリ氏が欧州議会議長に選出された。しかし、フォンデアライエン氏の欧州委員長の就任には新EU派の緑グループ・欧州自由同盟などが反対を表明し、16日の議会承認(絶対過半数376)はぎりぎり賛成が上回る状況だった。

 新体制による欧州共同体の舵取りは間もなくスタートするが、EUには解決しなければならない問題が山積しており、一定の影響力を持つEU懐疑派とも付き合っていく必要がある。1つの共同体としての欧州の先行きは確実に不透明さを増している。

 フランス東部のシュトラスブールで欧州議会が開会した2日には、調和が取れない現在のEUを象徴するような出来事も発生している。議会開会式の冒頭に「欧州の歌(ベートーベンによって作られた歓喜の歌をベースにしたもの)」が演奏されたのだが、イギリスのブレグジット党に所属する議員29人が背を向けるパフォーマンスを行い、「敬意に欠ける行為」として顰蹙をかっている。欧州議会の初日に欧州懐疑派が早くも宣戦布告した形だが、調和を見出せない現在のEUは新体制によってどう変わっていくのだろうか。

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■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う

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最終更新:7/17(水) 15:25
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