ここから本文です

【自由研究】キッチンでできる!植物バイオ入門

7/18(木) 15:15配信

リセマム

 「バイオテクノロジー」という言葉は知っていても、それがどういうものなのかよくわからない、という保護者も多いだろう。子どもの好奇心を惹きつけてくれる実験から、バイオテクノロジーを楽しく学ぶことで一生の宝物となるような経験を得られるかもしれない。

関連画像を見る

 早稲田大学本庄高等学院 実験開発班の著書「魅了する科学実験2」(すばる舎)より、自由研究や理科の学習に役立ち、生徒をハッと驚かせる実験を紹介する。

難易度 ★★★☆☆
対応する指導要領:中学校理科
細胞分裂と生物の成長、生物/代謝

実験のテーマ

 敷居の高そうなイメージのある植物のバイオテクノロジーをキッチンにある道具で実践。こんなに簡単にできる!と身近に感じることのできる実験

特殊な実験器具は一切ナシ キッチンからのぞく植物バイオテクノロジーの世界

 「植物バイオテクノロジー」「植物組織培養」というと、無菌室やオートクレーブ、クリーンベンチ、インキュベーター等、特殊な実験器具を必要とする小難しい実験というイメージが先行します。

 そもそも植物組織培養とは、植物の持つ分化全能性(ある細胞がその個体のあらゆる細胞に分化することができる性質)を利用し、植物体の一部を無菌的に培養する技術のことです。こう聞くと日常生活とは関係がないように感じられますが、白菜・キャベツ・イネのような野菜や穀物の育種、イチゴやカーネーション等のウイルスフリー苗の作出、ランや観葉植物等の大量増殖と、私たちの生活に密接した様々な場面でこの技術が用いられています。

 この技術の肝とも言える無菌操作と無菌苗の獲得は、実験室で専用の器具や設備を使えば成功しやすくなりますが、実は一般家庭のキッチンにある調理器具を使っても、ある程度の成功率を収めることができるのです。今回の実験では、主に入手の容易な調理器具を用いて、植物組織培養の導入である、無菌播種(はしゅ) に挑戦し、サボテンの無菌苗の獲得を目指します。

基本実験:圧力鍋で作る無菌苗

用意するもの

・耐熱容器:湯煎を行うので 500~1000ml のガラス製のもの。目盛りがあるとなお良い。ビーカーであれば最高
・スポイト:100円均一のもので OK
・ジャム瓶2個:培養瓶用と殺菌液用。口にリムがついているか、スクリューのもの。 200ml 程度入れば良い
・圧力鍋:食品以外のものを入れるので、専用のものを用意する
・水:できれば浄水器を通した水が良いが、水道水でも可
・ピューラックス:薬局で売られている次亜塩素酸ナトリウム6%液
・サボテンの種子:園芸店で購入できる、スポイトで吸えるサイズのもの。サカタのタネの「サボテンのタネ 混合」がおすすめ
・微粉ハイポネックス 1.5g:植物用の粉末肥料。ホームセンターなどで入手できる
・アルミホイル:2つ折にして瓶の口径 +4cm の正方形にしたものを2つ用意しておく
・グラニュー糖 20g
・粉末寒天 8g
・電子測り、コンロ、かき混ぜ棒、輪ゴム、軍手

ピューラックス
注意事項
 カビが出たら、必ず瓶ごと圧力鍋で減菌してから、培地を生ゴミとして捨てること

実験手順

1. 培地を作る。耐熱容器に水道水1Lと微粉ハイポネックス1.5g、グラニュー糖20gを入れ、よく混ぜる(ハイポネックスは完全には溶けない)。グラニュー糖が溶けたら、粉末寒天8gを入れ、時々攪拌(かくはん)しながら10~15分湯煎する。溶液がある程度透明になったら、培地の完成。


2.滅菌の準備をする。培地はジャム瓶に2割程度入れ、用意しておいたアルミホイルで栓をする。軍手を使ってしっかりと閉め、栓が回らなければ合格。もう1つの瓶には水を測り入れて、アルミ栓をし、輪ゴムで留めておく(後々0.1%の殺菌液を作る。200ml の殺菌液を作るなら水196.7mlだが、大体でOK)


3.滅菌する。(鍋の)規定量の水を入れた圧力鍋に、培地と殺菌液用水を入れた瓶を入れ、蓋をして加熱する。蒸気が出始めたら、蒸気が出たままになる程度まで火を弱め、20分後に火を止める。十分に冷めたら圧力鍋を開け、培地と水を常温まで冷ます。培地が固まっていれば次の工程へ


4.種子殺菌。滅菌した水にピューラックスを入れ、0.1%次亜塩素 ナトリウム液を作る。(196.7mlの水に対して、ピューラックス3.3ml。大体でOK)そこにサボテンの種子を入れ、10分間攪拌しながら殺菌する


5.播種。アルミ栓を破かないように少し開け、スポイトで沈んでいる種子を殺菌液ごと吸い上げ、培地上に滴下する。この時、できるだけ殺菌液が入らないように注意する。5 ~6粒滴下したら、アルミ栓を閉め直す


6.直射日光の当たらない、温度変化の少ない明るい場所に置いておく。1週間経ってカビが生えなければ、 無菌操作は成功と考えて良い。 1ヶ月もすれば発芽し、ある程度の大きさまで成長する


解説

培地とは

 培地は水、無機栄養素、有機栄養素、植物ホルモン、天然物質、支持材料、 pH、浸透圧等様々な要素から構成されており、植物の種類や培養する部位により最適な組成が異なります。今回使用した培地は、H培地(ハイポネックス培地、京都処方、Kano培地)を元とした、1/2H培地です(1/2H+20g/l suc.+8g/ l agar pH 未調整)。  

 H培地はラン科植物の無菌播種用として考案された培地ですが、植物ホルモンの追加や濃度・組成の修正により、多くの植物に利用できる培地です。材料が安価かつ入手しやすく、作成も容易なため、日本国内で広く使われています。今回の実験のように食品レベルの代替品を用いても、十分に結果を出すことができるのが魅力です。

 H培地の他にも MS 培地や Gamborg’sB5 培地、N6培地等の代表的な培地があり、それらを元に多くの研究者がそれぞれの実験材料に適した組成を考案しています。今回の実験で用いている培地の組成も、決して最適な組成というわけではなく、発芽と成長が確認できた組成というだけです。ぜひあなたの手によって、最適培地を見つけてみてください。

殺菌・消毒・滅菌の違い

 植物組織培養において、カビとの戦いは常につきまといます。栄養と湿度のある培養容器内はカビにとってかなりの好環境であり、カビが少しでも入り込むと、植物を侵食し繁殖します。この状態をコンタミネーション(コンタミ)と言います。コンタミを防ぐために、培地や器具類は事前に滅菌処理をする必要があります。

カビが混入し、コンタミが起こった状態。この状態になったら、瓶ごと滅菌し、培地を生ゴミとして捨てること
 ここで、「殺菌」「消毒」「滅菌」というよく似た用語の違いについてきちんと理解しましょう。

殺菌:目的とする微生物を殺すこと。
消毒:病原性微生物を殺すこと、あるいはその能力をなくして病原性をなくすこと。
滅菌:病原性の有無を問わず、全ての微生物を死滅させるか、除去すること。

 「殺菌」や「消毒」とは違い、「滅菌」という言葉には「全ての」という具体量が定義されています。このことより、「滅菌」は培地や器具に対して使う言葉 であり、人体や植物体に対しては、殺菌や消毒ができても、滅菌は行うことができないとわかります。

 培地や器具の滅菌方法は、主にオートクレーブを用いた高圧蒸気滅菌が採用されます。これは器内を 121度、1.0kg/cm3 の条件にし、20 分間加熱をすることで、微生物を死滅させる方法です。

 なぜここまで手間をかける必要があるのかというと、細菌の中には「芽胞」という耐久型の構造を作る種類が存在するからです。芽胞は30分以上煮沸しても生き残り、簡単には死滅させることができません。しかし、前述の条件で加熱することで、芽胞を含めたほぼ全ての生物を死滅させることができるのです。

 今回の実験では、この滅菌処理に圧力鍋を用いています。調理器具とはいえ、その仕組みはオートクレーブと大差なく、家庭での培養では十分にその役割を果たしてくれます。ただし、食品以外のものを中に入れるため、専用のものを用意するようにしてください。

一番のポイントは種子殺菌

 今回の実験において一番気を使うのが、この種子殺菌の部分です。なぜなら、滅菌処理により無菌状態に保たれた培養容器の中に、滅菌することのできない植物の種子を入れるからです。種子殺菌のポイントは、「発芽能力を保ったまま、付着している菌を殺す」という点です。このある意味矛盾した状況を実現させるために、植物の種類によっては職人技とも言える技術を必要とします。種子殺菌は、前処理、殺菌液の種類、殺菌液の濃度、殺菌時間、すすぎの有無などの要素から構成されており、植物により殺菌方法が異なります。殺菌液には次亜塩素酸ナトリウム溶液(アンチホルミン)がよく用いられます。アンチホルミン6%液のピューラックスは薬局で入手可能なため、家庭での培養にはぴったりの商品です。

 今回はクリーンベンチを使用しないため、殺菌した種子が菌の漂う空気に触れないよう、薄めの殺菌液ごと培地に滴下する方法を採用しました。アルミ栓をめくった際、極力菌が入り込まないよう注意しましょう。

どこに置いておくべきか

 培養苗を順調に生育させるため、本来であれば温度、湿度、光、空気にまで考慮した培養室が理想です。しかし、直射日光の当たらない、温度変化の少ない明るい場所に置いておけば、多少速度は落ちますが問題なく生育します。

 ただ、温度変化が生まれることで、培養容器内外で空気の出入りが生じ、菌が入ってしまう確率が大きくなりますので、できるだけ定温の環境に置いてあげましょう。照明をつけることで生育速度が上がることもあるので、無事発芽したら挑戦してみてください。

継代、さらにその先へ

 今回の実験ではサボテンの無菌苗を得ることができました。サボテンと同様の種皮構造をしている多肉植物等は、同様の方法で無菌播種をすることができます。無菌播種は、発芽の難しい植物を最適な環境で的確に発芽させ無菌環境で育てることで、病害から守り、確実に植物を増やす植物バイオテクノロジーの基本となる技術です。さらに応用で、細胞自体を増殖させクローンを作ったり、遺伝子組み換え……などと発展していきます。

 また、今回は小さな瓶での実験でしたが、衣装ケース等を改造して作った無菌箱やクリーンベンチを用いれば、新たな培地に植え替え(「継代する」と言う)てさらに大きくすることもでき、スケールアップしていくことも可能です。

継代し、増やしたサボテン
 この世界には多くの植物が存在していますが、無菌化が成功している植物は全体から見ればほんの一部です。この分野では、まだ誰も成功したことのないことに、家庭にあるものでチャレンジできるドキドキとワクワクが詰まっています。殺菌方法や培地の組成の組み合わせは無限大です。是非失敗を恐れず挑戦してみてください。

インスタント培地のススメ

 現在技術が進み、インスタント培地というものが開発されています。ヴィトロプランツが販売している「eViP 培地」は、粉末状の培地の素に、熱湯を注ぐだけで様々な組成の培地ができ、容器に注いで栓をすれば、容器内を無菌状態にできるというものです。すぐに培地ができることに加え、耐熱であればプリンカップのようなプラスチック容器でも作れるので、専用の設備がなくてもかなり実験の幅を広げることができます。無菌苗獲得のその先で、ぜひ活用してみてください。

eViP培地を使えば、写真のようなプリンカップでも実践可能
教育のポイント

植物バイオテクノロジーの可能性

 こうした実験をしなければ、おそらくバイオテクノロジーというものに意識的に関わったことのある生徒はほとんどいないと思われます。しかし、その恩恵を受けたことのない人はいないはずです。今回の実験を通して、サボテンの小さな苗が、ウイルスフリー苗の作出、育種、生産 効率の向上、絶滅危惧種の保護、さらには食糧問題の解決といった、この技術の先に広がる光景を想像させてくれます。授業では、それらの仕組みや課題、未だ普及していない人工種子などの技術を、植物の性質と同時に紹介することで、生徒が植物バイオテク ノロジーに興味を持ち、より身近に感じるための手助けとなるでしょう。

※実験に当っての注意事項
・本書に掲載されている実験は、主に高校生以上を対象に、教師が立ち会って行うことを想定して書かれています。教師の目が届かないところで、生徒だけで実験することは絶対に避けてください
・火を使う実験では、火の取扱いには十分注意してください
・書かれている薬品は、必ずSDS検索(https://www.j-shiyaku.or.jp/Sds/)などで注意事項を確認し、事故防止に努めてください
・使用する実験器具、薬品は実験前に異常がないか確認してから使用しましょう
・実験の手順はあらかじめよく読んだ上で、必ず手順どおりに実施してください
・実験時はなるべく肌の露出は避け、必要に応じて防護眼鏡、手袋などを着用してください
・電気を使った実験では、感電、火傷の恐れがあるので注意してください
・難易度が高ければ高いほど、危険を伴うことがあります。その場合は、予備実験および徹底した安全管理を行った上で実験してください
・万が一事故が起こった場合は、まずは落ち着いて事故の内容・程度を把握した上で、適切な応急処置を取ってください
・上記を踏まえて上で、本文中に記載された注意事項は必ず守り、安全第一で実験に臨みましょう
・本書を参考に実験を行い、事故等により何らかの損失・損害を被ったとしても、著者並びに出版社、その他関係者には一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください

<協力:すばる舎>



《リセマム 編集部》

最終更新:7/18(木) 15:15
リセマム

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事