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【対談】『みどり町の怪人』彩坂美月と『掃除屋 プロレス始末伝』黒木あるじが読みどころを語り尽くす

7/19(金) 16:00配信

本がすき。

山形在住でデビューもほぼ同時期。
以前から交流のあるおふたりの新刊が立て続けに刊行されます。
青春ミステリーを多く書いてきた彩坂さんが、都市伝説をモチーフにしたミステリーを発表し、怪談実話作家として多くの著作を刊行している黒木さんが、本格プロレス活劇に挑むという、それぞれ、今までの作風とは一線を画した野心作となりました。
お互いの作品の感想と読みどころを存分に語ってもらいました。

──それでは、黒木さんの新刊『掃除屋(クリーナー)』の話に移りましょうか。

彩坂さん、いかがでしたか?

彩坂 私、プロレスには全然詳しくないんですけど、楽しくて、最後まで一気に読んでしまいました。

黒木 ……ほんとですか? 大丈夫でした?

彩坂 いや、面白かったですよ。黒木さんだなあって思いました(笑)。
黒木さんの小説って、読者を楽しませようというサービス精神がてんこ盛りで、漫画喫茶に行ったら、たくさんお菓子が出てきて、マッサージもしてくれて、おまけに人生相談までしてくれちゃったぞ、っていうような感じがあるんです。
一つ一つの短編で人間ドラマをきっちり描いていて、その上でラストに向けて盛り上がりを作っているのがすごいな、と。
脇キャラが人間くさくて魅力的ですよね。
私、ヤンキーマスクさん(作中に登場する三流のマスクマン・レスラー)が好きだったりするんですけど。

黒木 いやもうほんと、恐縮するばかりで。
怪談だと、「いやあ、今回はこの話が」とか「いいネタが取材できました」なんて言えるんですけど、文芸作品って全く別な筋肉を使って書くんだなあと実感しました。

彩坂 これ、取材はされたんですか?

黒木 基本的にはしていません。
もともと、プロレスはものすごい好きなんですよ。祖母の影響なんですけど。
彼女は御年98でまだ存命なんですけど、ちっちゃいころによく一緒にテレビで見てたんです。
おだやかな人なんです。
満州から引き揚げてきて、弘前で早くに夫を亡くして、縫い物が趣味という人なんですけど、この祖母がですね、金曜夜8時のプロレスが放映されているときだけ、「狐憑きのようになる」と、我が家では評判で。
見ながら、「行け、猪木! その外道を殺せ!」なんて危なっかしい言葉を口にしていましたから。

当時のプロレスって、ミル・マスカラスしかり、アンドレ・ザ・ジャイアントしかり、常人ではないというか、異形の人たちで溢れていて。
それが現実世界で運動も出来ないし、友だちと遊ぶこともままならない僕にとっては、怪談や怪獣、妖怪と同じように魅力的に映ったんです。
子どもの頃には、メキシコのマスクマンをはじめとしたルチャドールや、あるいはシンプルな悪役に目がいきがちだったんですが、年を取ってくると、見方も変わっていくわけです。
普段はスポットライトがあたらないし、メインイベントに登場することもほとんどないんだけれど、いつもきっちり仕事をこなして、ファンの間では「実はあの人がいちばん強いんだぜ」と噂されるような人の面白さにだんだん傾倒していくようになりました。

で、そういうレスラーの話をいつか書きたいと思っていたんですけれど、彩坂さんと一緒で、なかなか書かせてくれる場所がなくて。
そんなおり「小説すばる」から、「読み切りの短編を書いてみませんか」という依頼があって、なんとか一作書いたところ、ありがたいことに「じゃあ、次はノンジャンルで何か一編書いて」と次の依頼がきたんです。
そこで「ノンジャンルということは、“ホラーや怪談以外で、おまえは何が書けるんだ”と問われたのではないか」と勝手に思って、「ずっと書きたかったプロレスを書くしかない」と、プロットも立てずに書き始めたんですね。
ところが、構想はある程度あったんですが、依頼された枚数では終わらなかった。
なので「つづく」と書いて送ったんです。

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最終更新:7/19(金) 16:00
本がすき。

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