ここから本文です

「ほかの飛行機より静かだよね」特集・空飛ぶウミガメ ANA A380搭乗記(前編)

7/22(月) 8:12配信

Aviation Wire

 「空飛ぶウミガメ」こと、全日本空輸(ANA/NH)のエアバスA380型機が、7月から成田-ホノルル線を週10往復するようになった。空をイメージしたANAブルーの初号機(登録記号JA381A)が5月24日、ハワイの海をイメージしたエメラルドグリーンの2号機(JA382A)が6月18日に就航し、これまでは週3往復のみだったものが、週14往復のうち大半を占めるようになった。

【ANA A380エコノミークラスの様子】

 ANAによると、これまでに機材不具合による欠航はなく、慎重な投入が奏功しているようだ。同社のA380の座席数は4クラス520席で、ファーストクラスが8席、ビジネスクラスが56席、プレミアムエコノミーが73席、エコノミーが383席と、従来のボーイング787-9型機(3クラス246席:ビジネス40席、プレミアムエコノミー14席、エコノミー192席)と比べると1便あたりの提供座席数は2.1倍に増えた。

 座席数の増加だけではなく、ANAのホノルル線では初のファーストクラス導入で、個室タイプも初導入となった。ビジネスクラスは、家族やカップルが隣同士で座れるペアシートを設け、エコノミー後方には日本の航空会社では初となるカウチシート「ANA COUCHii」を導入するなど、同社初の試みも目立つ機材だ。

 当紙では、ANAがA380を導入すると、まことしやかにささやかれ始めた4年前の2015年から、この話題を追ってきた。今年3月20日の初号機引き渡し前の1月には、独ハンブルクでANAの社員による大掛かりな最終確認作業にも密着し、機体を仕上げていく様子も取材。週10往復化初日の7月2日には、ホノルルで2機のA380がそろう姿を当紙初の空撮で収めた。しかし、機内の様子を紹介する搭乗記は、まだ掲載していない。

 今回のA380就航は、初めてずくしというだけではなく、一度に500人以上の乗客を国際線で運ぶという、ANAにとってもかなり挑戦的な初便となった。それゆえ、機内サービスに時間がかかるなど、事前のシミュレーションでは想定出来なかったような事態も起きていた。

 そこで、こうした点がどう改良されたかも含めた形で、夏休みシーズンが始まるタイミングに、初便の搭乗記をお届けすることにした。まずは成田発初便、5月24日のホノルル行きNH184便エコノミークラスの様子から。

◆離陸とともに拍手

 NH184便の出発は午後8時10分だが、就航記念セレモニーが午後6時30分には始まるため、午後3時前には成田空港に着いた。保安検査場を抜けると、ちょうどNH184便に使用する初号機と、このころはまだ日本に着いて間もなかった2号機が並ぶ姿が見えたので、数枚撮ってから会場へ。

 セレモニーではフラダンスなどが披露された後、鏡開きなどが行われた。午後7時20分ごろには搭乗が始まり、45番搭乗口から大量の乗客が機内へ向かう。搭乗口を通過すると、機体が見える窓の近くでANAの平子裕志社長らが乗客を見送り、地上係員が記念品を手渡していた。ランプに目をやると、トーイングカーにはウミガメのイラストが飾られていた。普段は初便をランプから取材する立場なので、PBB(搭乗橋)側からの景色は少々不思議なものであった。

 機内に入ると、ANAのロゴが目に入る。海外の航空会社では、こうしたドア付近のデザインで自社の色を出すところが増えてきた。機内の第一印象が決まる場でもあるので、日系の航空会社も今後こうした内装が増えていくだろう。ギャレー(厨房設備)もカバーが掛けられており、これまでのような武骨な印象とはかなり違った。

 客室の照明は、独ハンブルクにあるエアバスの工場で、ANAのスタッフが微調整に取り組んでいたもの。私が搭乗した時は深い青色のライティングになっていた。機内安全ビデオも、ラニ(初号機のブルー)、カイ(2号機のエメラルドグリーン)、ラー(3号機のオレンジ)の3匹のウミガメたちを起用したホノルルバージョンが流れていた。

 そして、記念すべきANAのA380初便となったNH184便は、乗客512人(幼児13人含む)と乗員24人(パイロット2人、客室乗務員22人)を乗せ、午後8時10分に成田空港を出発し、午後8時38分にA滑走路から離陸。機内では離陸とともに拍手が起こった。

◆垂直尾翼からの映像も

 今回の初便取材は、日本のメディアは往路がメインデッキ(1階席)のエコノミー、復路がアッパーデッキ(2階席)のプレミアムエコノミーで、上下の階を片道ずつ取材する形になった。一方、海外メディアは往路がビジネス、復路がファーストだった。私はエコノミーがどの程度快適なのかが気になっていた。席数もエコノミーだけで400席近く、機内サービスがどう進むかも興味深いところだった。

 まずはエコノミークラスのシートのスペックを見ていこう。1列3-4-3席配列で、シートピッチが国際線用機材で標準的な34インチ(約86.4センチ)、ベッドになるカウチシートは32インチに設定。個人用モニターはクラス世界最大の13.3インチ(最前列は11.6インチ)のタッチパネルタイプで、画面下にUSB端子やイヤホン端子を備える。シート幅はエアバス機では標準的な18インチで、他機種よりやや広めだ。

 個人用モニターで楽しめるコンテンツの一つが、機外カメラだ。最近のエアバス機は機体前方を映す従来のカメラ位置に加えて、垂直尾翼から機体を俯瞰(ふかん)する映像も楽しめる。この垂直尾翼のカメラは他社のA380も採用済みだが、ほかの機体よりも窓から遠い席のあるA380には良いサービスだと思う。実際、多くの乗客がカメラ映像で離陸の様子を楽しんでいた。

 画面が13.3インチともなるとかなり大きいが、圧迫感は感じなかった。私は初便の機内ではあまり自席にいなかったが、食事で指が汚れない限りは、操作して気になることもなかった。

 個人用モニター以外の装備も見ていこう。電源コンセントは、前席下側に着いているので、これまで多く見られた自席の真下よりは使いやすかった。このコンセントはUSB端子付きで、スマートフォンなどは個人用モニター下と合わせて2つ同時に充電できる。

 テーブルは最近のエコノミーで標準的な二つ折りタイプ。初便で自席に戻ったのは機内食の撮影とノートパソコンで仕事をする時間程度だったが、13インチのMacBook Proを置いても特に不自由はなく、フルリクライニング攻撃に遭わなければ、テーブルの使用は問題ないだろう。

 機内Wi-Fiはさほど長時間使用しなかったが、いつ自席に戻れるかがわからないので、離陸後接続できるようになってすぐ、「フルフライトプラン」を申し込んだ。金額は21.95ドルで、後日クレジットカードの請求書を見ると、日本円では2448円だった。通信速度はVPNを使うとかなり速度が落ちるものの、機内で調べ物をするには十分なレベルだ。

 ただ、ホノルル路線もつながりにくくなる場所や通信速度が落ちる区間はあるので、「ネットにつなげられる可能性もある」という認識のほうがいい。

 A380で特徴的なカウチシートはどうだろうか。カウチは専用運賃を払うと、寝具と専用シートベルトが用意され、ベッド状態で過ごせるようになる。大人が2人一緒に寝るというよりは、親子で過ごすような使い方が現実的な広さだ。ANAも小さな子供を連れて旅行しやすくする提案の一つが、カウチなのだという。

 今回は実機で寝心地を体験することはできなかったが、機内取材中に時折様子を見ていた限りでは、乗客たちは快適そうにすごしていた。「ホノルルくらいの距離なら、ビジネスクラスよりもいいかも」と、フライトタイムや実用性のとのバランスで、カウチを評価する男性客もいた。

◆機内の静かさ評価

 「ほかの飛行機より静かだよね。シートの幅が広いの? それはよくわかんないなぁ」。初便のエコノミークラスで乗り合わせた年配のご夫妻に、A380に乗った感想を尋ねると、ご主人からこう答えが返ってきた。

 特に飛行機は詳しくはないというお二人。「お正月明けに格安ツアーで頼んだのよ。そうしたら偶然(A380の初便だった)」と奥さんが笑う。エアバスは機内の静粛性を重視した開発を進めており、2000年代以降に就航したA380やA350 XWBは、これが顕著だ。このご夫妻とは、離陸後のシートベルトサインが消えてさほどたたないころに会話していたのだが、私が機内の静粛性を尋ねる前にこの答えが返ってきた。

 ほかの乗客からも、機内の静かさを評価する声が聞かれたので、ある程度飛行機に乗っている人は、気づきやすい違いのようだった。一方、エアバスはライバルのボーイングと比べ、シートの横幅が広いことも訴求している。この違いについては、なかなかわかりにくいようだった。

 機内は静かでも、500人以上が乗る機内で客室乗務員がコミュニケーションを取るのは、従来と比べて難しい。A380には通常20人の客室乗務員が乗り込む。そこで導入したのが、耳に掛けて使用するヒアラブル端末「BONX Grip」だ。iPhoneなどのスマートフォンとBONX GripをBluetooth(ブルートゥース)でペアリングし、機内Wi-Fi環境を使ってグループ通話を実現する。初便に乗務した客室乗務員も、BONX Gripを耳に装着していた。

 しかし、普段以上に慌ただしい機内ゆえ、急ぎの場合はまず使い慣れたインターホンで連絡する、というのが初便の使用状況だったようだ。ANAによると、初便後もヒアラブル端末を使っているという。

◆ペリエでブルーハワイ

 客室乗務員が使用するもので見ていくと、ヒアラブル端末以外にも「初物」があった。ギャレー(厨房設備)に設置されたオーブンだ。A380は、今年4月に就航したボーイング787-10型機と就航時期が近いため、一部のシートや装備で共通のものがみられる。例えば、A380と787-10のビジネスクラスは配置が若干違うものの、同じモデルを採用している。ギャレーの中では、オーブンがその一つにあたる。

 ギャレーでテキパキと機内食やドリンクを準備する客室乗務員、曽我部葵さんに話を聞くと、「787-10にはまだ乗務したことがなくて、このオーブン(を使うのは)初めてなんですよ」と笑いながら、次々と機内食をセットして温めていく。

 学生時代から早く機内で働きたいと思っていたという曽我部さんは、ギャレーワークも楽しいという。機内ではホノルル線限定で、カクテルの「ブルーハワイ」を提供しているが、炭酸水をカクテルの原液に加えるのは、ギャレーを担当する客室乗務員の仕事。曽我部さんは、ペリエを加えてブルーハワイを用意していた。

 日本では高級な炭酸水というイメージが強いペリエ。随分と豪勢なブルーハワイだと感心していたら、「ここにある炭酸水がペリエだからですよ」(曽我部さん)と、その便で搭載している炭酸水を使うのだという。つまり、別の炭酸水が搭載されている時は、ブルーハワイにも同じものが使われるのだ。

 「もっとお客様と会話したいですね。帰りは昼間の便なので、ハワイの余韻を楽しみながら帰っていただけるようにしたいです」と、夜のフライトとなる成田発では難しい部分を、昼便となるホノルル発でがんばりたいと笑った。

◆機内食提供とトイレ

 500人以上が搭乗する初便の機内で、課題になっていたのは機内食の提供にかかる時間だった。

 時間にかかった要因は乗客が多いだけではなく、機内販売でA380の機内限定で販売されたウミガメ「ラニ」のぬいぐるみが即時完売になるなど、機内食を提供する以外のサービスにも時間を要していたことも影響した。この「ラニ」のぬいぐるみ、初便はファーストクラスで完売したようだ。

 こうした初便でのサービス状況や、乗務した客室乗務員からのフィードバックを基に、ギャレーの搭載品の位置などを見直し、ANAによると機内食の提供時間は改善されたという。

 初便の機内でもう一つ気になったのは、全席がエコノミークラスとなるメインデッキのトイレだ。前方と中央、後方にあるラバトリー(化粧室)のうち、目に付きやすい中央に乗客が集中しがちだった。一方、後方はさほど混雑が激しくなく、案内の工夫が必要だと感じた部分だった。

 512人の乗客を乗せたA380初便は、現地時間24日午前8時36分にホノルルへ到着。A380に対応したC4スポット前では、消防車による放水アーチの歓迎を受けた。着陸時はやはり拍手が沸き起こっており、初便らしい機内だった。降機した後も、ターミナルの入国審査に向かう通路では、多くの人が足を止め、ハワイに到着したA380の姿をスマートフォンやデジタルカメラに収めていた。

 初便が就航し、2号機の就航、週10往復化と、徐々にA380が飛ぶ姿は、日常の姿になりつつある。しかし、総2階建てとなるA380の機内は特別感があるもの。後編では、アッパーデッキにあるプレミアムエコノミーの様子を取り上げる。

(後編につづく)

Tadayuki YOSHIKAWA

最終更新:7/22(月) 8:12
Aviation Wire

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事