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【オーストラリア】【特別企画】日豪のM&Aを語ろう(上) 業界座談会第4弾

7/22(月) 11:30配信

NNA

 昨年の日本企業による海外での合併・買収(M&A)件数は777件と、過去5年間で過去最高を更新し続けている。そのうちオーストラリアも68件と好調で、累計直接投資額も930億豪ドル(約7兆円)と英国を抜き、米国に次ぐ2位に浮上した。日豪間のM&A市場では何が起きているのか。日豪のM&Aを支えるエキスパート4氏に、現況や今後の課題について語ってもらった。【NNA豪州編集部】
 【NNA・西原】ではまず自己紹介からお願いします。
 【松田】RBG法律事務所の松田です。1989年にクイーンズランド州でオーストラリアの弁護士資格を取りました。同年のブリスベンのコアラ園の買収案件が、私が関わったM&A第1号です。今はシドニーとブリスベンを拠点にしています。
 【イアン】ハーバート・スミス・フリーヒルズ(HSF)法律事務所のイアン・ウィリアムズです。若い頃に神戸製鋼で一生懸命働きながら(笑)、同社のラグビー部で選手をしていました。シドニー大で経済学と法律を勉強したので、M&Aは両方に関わる仕事なので楽しく、自分の性分に合っていますね。
 【荒川】グラント・ソントン会計事務所の荒川です。中小企業に焦点を向けていて、地元ビジネスに密着しています。オーストラリアは広大な土地の割に人口が少ないため、家族経営、いい企業がたくさんあります。ただ、公開情報が少ないので、そうした素敵な企業を日系企業に紹介するM&Aのオリジネーションにも重点を置いています。
 【加納】クレイトン・ユッツ法律事務所の加納です。私は日豪両国の弁護士ですが、通算すると日豪合わせてM&A弁護士として22年目です。強みとしては、日豪両国の弁護士としての知識と実務経験を活かし、言葉の違いだけでなく、法律や文化の違いを踏まえたアドバイスができる点です。
 【西原】日豪の歴史を振り返ると、1957年の日豪通商協定以来、2000年代までは資源関連のM&Aが多かったです。
 【松田】資源以外にも、80年代後半から90年代はじめにかけて不動産ブームがありましたが、最近の業種の多様化、規模の拡大化は確かです。
 【加納】感覚としては、私がオーストラリアに来た17年前は資源関連のM&Aが8~9割でしたが、今は逆転して資源関連は1~2割ですね。それだけ多様化しています。
 【イアン】総合商社や製鉄会社などのM&Aはよく新聞に出てきますが、特に合弁を組んでから業務を広げるといった、新しいタイプの投資は表に出てこない傾向があります。全体の投資額を考えれば、まだまだ電気やガス、鉄鉱石などの資源が多いと思います。それに2~3年前から総合商社が一般炭を売りに出し始めています。
 【西原】イアンさんの法律事務所の統計によりますと、2017~18年の日系によるオーストラリアでのM&A件数は68件で、業種別では資源エネルギー(19%)、製造業(16%)、消費財(12%)、次いで金融サービス、住宅建設、専門サービス、テクノロジーとなっています。資源案件が少なくなってきたこともあると思いますが、中小規模のM&Aが多くなってきたようです。
 【加納】資源の19%というのは、買いだけでなく売りもかなり含まれていますが、他分野は買いがほとんどではないかと思います。これも資源と非資源で違う特徴です。
 【荒川】80年代からと言うと、私は説得力に欠けるのですが(笑)、今の日本は市場が狭くてサバイバル状態になっているため、「欲しいから買う」という流れがありますね。それと、日本の受け入れ体制の変化から中小企業の買収案件が増えてきていると感じています。以前は「石炭が必要だから英語話者がいなくても買う」という感じでしたが、今は「英語話者も含めM&A体制が本社にできてきたので、こういう買い方もできる」という形で多様化しています。
 【加納】石炭に関しては、日本もまだ石炭火力発電所を建設していますし、発展途上国を含めて世界的にはまだまだ需要があるので、企業イメージ的に環境問題に向き合う潮流には逆らえないとは思いますが、石炭が死滅することはなく、その分野でのM&Aも継続すると思います。
 私がオーストラリアに来た2000年代初めは、日本企業が何千億円もかけてオーストラリアの上場会社を買うという案件はほとんどなかったですが、ここ7~8年で出てきていますね。逆に数億円、中には数千万円でオーストラリア企業や事業を買う、というケースも増えてきています。
 【松田】業種の多様化について言えば、ここ3年で私がM&Aで関わった業種としては、マイニング、住宅・建設、物流、エンジニアリング、観光、医薬研究などがあり、中小規模が多いです。
 【西原】引き合いから成約に行かなかったケースも含めると、全体でどのくらいに膨れ上がるのですか?
 【イアン】成約に行かないケースは半分ぐらいでしょうか。交渉の場合は、大体8~9割成功します。しかし、プライベートエクイティが売りに出す時はなかなか進みませんね。
 【加納】私が関与した案件では、日本企業はビッドでも落札率が高いと思います。誠実で、資金力もあるし、同業の場合は特に高いシナジーが出ることを期待されて、ビッド案件でも優位に働いていると思います。また、実際にそのようなフィードバックを落札後に売り側から明かされることもあります。われわれリーガルが案件の依頼を受けて関わる段階から考えると、依頼を受けた案件のうち8割くらいは成功していると思います。
 【西原】オーストラリア企業は日本企業を好意的に見ているのですね。
 【加納】日本企業がバイヤーになる場合は地場企業に比べて豪外資審議委員会を通さねばならないので手続きが増えるとか、その分案件の不確実性が高まるとか、買収実行のタイミングが遅れるとかいった理由で、嫌がる売り手もいるかもしれませんが、実際は、日豪の経済関係が長くて強固なので、日本のビジネスの仕方を比較的よく分かっていると思います。動きが遅くても、誠実に対応してくれるとか、そういった面で、別のアジア企業と比べて信頼は高いと思います。
 【イアン】中国や韓国の企業は、特に一族企業の場合には社長の一存次第なので最後まで分からない部分があります。でも日本はチーム、組織で動きますから、プロジェクトが進めば信頼できますし、分かりづらくは無いと思います。4~5年前は中国からのビッドが多かったです。
 【荒川】オーストラリアでも大企業の考えが中小企業に浸透してきているとは思います。2~3年前は全然状況が違っていて、売りに出そうな事業は、ほぼ最初に中国系に照会を行っていて、日本企業は優先順位が低かったのです。いわゆる「売り残り」だけが紹介されていたんです。ただ、中国系が最後にお金が払えないケースなどが多くなったことで、ああ日本企業がいたじゃないかと。時間がかかっても、成功率が高いのであれば日本企業に持って行こうという風に気がついたブローカーやアドバイザーが増えて、私も良い企業を紹介してもらうことが増えました。ここ1年半でガラッと状況が変わりましたね。
 【加納】一般論では、紹介案件に対して日本企業の動きが遅い背景として、日本のM&A市場では「持ち込み案件にはいい案件があまり無いので手を出すな」という見方も強いので、持ち込んで紹介しても反応が遅いという事情もあるかもしれないですね。
 【荒川】それに、日本からのM&A案件が世界4位とはいえ、まだオーストラリア市場の魅力が浸透していないのもありますね。米国の方が市場が大きいとか、うちはアジア狙いだから、という感じです。資源や農業を別にすると、オーストラリアは遠いイメージがあるのかもしれません。上場企業や、資源分野では日本企業は買い手としてナンバーワンの立場にいますが、中小企業だったりサービス、エンジニアリング分野だと、欧州系が続々来ているところでも、日系企業は豪州の必要な高い技術も持ち合わせていてニーズはあっても、言葉の壁や入札方法の差異もあり、リスクも高い……と。日本側が、日本中心に考えているといい案件はなかなか来ないので、戦略的なニーズをM&Aに特化したアドバイザーに共有して積極的に発掘していくと良いと思います。
 【イアン】オーストラリアの魅力について言えば、まず国土が広い。人口の成長率も高い。物価が高い点は悪いこともありますが、マージンが高いということでもあります。それに寡占市場が多いということもあります。例えば米国では、西海岸の市場もあるし、東海岸の市場もある。米国の全体で展開するとものすごくコストがかかりますし、欧州も非常に難しい。しかしオーストラリアでは、マーケットシェア1位・2位のような企業さえも売買できるチャンスがある。ただ、オーストラリアの大手メディアは今でも、中国企業のことを気にはしますが、日本企業のことをあまり取り上げない傾向がありますね。日本もあまり広告宣伝をしません。本社の社長や会長がオーストラリアに来ても、新聞などのメディアに出かけたりしません。投資金額を見れば日本企業の存在は大きいですし、合弁でも提携でも、日豪関係のM&Aが一番多いと思います。なのに皆あまり知らないのです。
 【加納】確かに、日本人は、政界や経済界を含めて、情報発信の仕方があまり上手ではないと感じます。例えば10年前の資源ブームの時、中国はトップ級の政治家が毎年のようにオーストラリアを訪問し、しかもキャンベラだけでなく西オーストラリアなどの資源州も訪問するなど、資源外交が上手でしたが、その頃の日本は何年も閣僚級の政治家がオーストラリアを訪問しておらず、経済界から閣僚級の訪豪要望が出されたことがあったと思います。ビジネス界においては、日本は、あうんの呼吸や、「間を読む」ことが重要であるように思いますが、それをM&Aの買収交渉などに持ち込んでは上手くいかないですよね。それに買収実行の際などにトップが来るなら、メディアリリースを適時に出して上手く情報発信するとか、現場に足を運んでローカルの幹部に会って直接ビジョンを伝えるといったコミュニケーション手段を駆使していくことが重要だと思います。それがあまり上手ではないことが、日本にとって弱みになっている部分があると思います。
 【松田】オーストラリア企業が日本に進出する際、その辺の食い違いで苦労しているようです。日本サイドは法律と契約だけではなく、業界の約束ごとや忖度(そんたく)などの社会規範に従って動いているので。
 【加納】それはオーストラリア企業による日本企業買収がなぜ増えないのか、という疑問にも繋がって来ますよね。オーストラリア企業にとってみれば、日本企業を買うことでグローバル戦略にどうつながるのか見えにくいのではと思います。日本に行くと、言葉も違う、文化も違う、あうんの呼吸でやっている。オーストラリアは真逆で、明快に、しっかりコミュニケーションを取る文化です。オーストラリアから日本のM&Aは今後も増えないと思います。
 【西原】イアンさん、オーストラリアから見て、やはり村社会の日本は、欧米どころか、韓国、中国などの他のアジア企業と比べても異質に見えますか。
 【イアン】オーストラリアの一部上場企業の取締役はアジア経験者が少ないので、村社会的な日本に対する理解はほとんどないですね。よく皮肉な表現で「pale」「male」「stale」と言われます。つまり「白人」「おっさん」「古くさい」(笑)。彼らはほとんど海外経験がないのです。あるとしても米国か欧州か。日本や中国に住んだことがある人は非常に少ない。
 オーストラリアの会社は海外都市での成功率は非常に少ないですね。米国でも欧州でも、ほとんど大損しました。日本の市場は高齢化とかで、そんなに魅力がないと見ています。国内市場は寡占が多く、国内市場に投資すればリターンが高いので国内市場に注力しがちです。
 【西原】日本企業は意思決定が遅いとかねてから言われてきました。これは、何が原因なのでしょうか。
 【加納】やはり組織ではないでしょうか。契約交渉でも、決定権限のある人に会うのに何日もかかって、ようやくやろうと決まったのに、持ち帰ったら稟議(りんぎ)が通らなくてダメでした、とひっくり返されるケースもあります。あとは、取締役会の日程が月1回で固定されていて、承認を得るにはそこまで待たなければならないとか……。
 【西原】それは中国、韓国系企業にはない?
 【加納】海外企業はもう少しフレキシブルに、スピーディに、特別な体制を敷いて臨んできていると思います。これに対し、日本企業の場合、海外M&Aに対応する体制が整っているところもありますが、海外M&Aは10年もしくは20年に1回という非常事態だというケースが多いと思います。その場合に、対応する体制が十分に整っていないと、どうしても既存の体制や対応で当てはめようとすることになり、契約交渉一つ、意思決定一つとっても、どうしても遅くなります。海外M&Aは、いわば非常事態なので、一時的にでも非常事態に対応できる組織を作ることを検討する必要があると思います。
 【イアン】それでも相対交渉の時はどうにか解決できますが、ビッドの時はいつも投資銀行が仕切っていますから、日本企業による承認は時間がかかると判断されて、ならばもう待ってもらえないというケースもあります。
 【加納】ビッドは売る側がレールを敷いて、いつまでに何を出してくださいという形で一方的にタイムラインを作ってくるので、それに乗っていかないと、基本的には外されてしまいます。非常に厳しいですね。
 【荒川】アドバイザーの立場として言うと、オーストラリアに日本のことを教えてあげるのが役割だと思っています。デューデリジェンス(DD、資産査定)に入る前に重要な過程を踏まねばならないのですが、そこに行くまでが一番大変です。オーストラリアなら、秘密保持契約書(NDA)のひな形があるから簡単にサインし、重要情報を共有し、と淡々と行くイメージですが、日本の場合はとても真剣に、NDAをサインするしないで皆で話し合い、意思決定権がある人達がイエスと言った段階でNDAにサインします。契約書一つでもこれだけ感覚が違う。日本側はこれにサインしたらコミットするんだという意識があることを相手側に説明すると、それならもう2週間待ってあげる、などと分かってくれます。
 その次の段階では、アドバイザーとしてコミュニケーションの温度差を調整します。オーストラリアにはあうんの呼吸はないので。DDに行く前の段階でも、日本企業は受け身的です。日本的な謙遜の姿勢で、出されたものを吟味するという消去法が多いです。交渉するだけでも、組織の代表としてみんなの温度を調整するだけでも時間がかかる。だから遅いと言われるのだと思います。しかし、こちらの中小企業は速いし柔軟です。速い人と遅い人が同じ時間軸にいるので、そのタイミングの差が大きく感じられるのでしょう。
 【イアン】サイトビジットに半年、もしくは1~2年かかりますが、その間に皆お互いに分かるようになりますね。両者にケミストリーがあるかないか。売買が終わるまでは時間がかかりすぎかもしれませんけど、後のことは上手くいく。DDの間は交渉相手という立場で話していますので、あまりスピーディーに買ってしまうとケミストリーがあるかどうか分からない場合もある。そういった意味では、長い交渉期間は悪いことではないかもしれません。皆お互い文句を言い合いながらも、時間を一緒に過ごすと親しくなりますね。
 【加納】M&Aはよく結婚に例えられますけれども、パッとひと目ぼれして3カ月で結婚したら、結婚した後でギャップを感じて上手くいかなくなった、といったようなケースはよく聞きます。
 【西原】買収後の統合プロセス(PMI)に関して、失敗したM&Aだとやゆされるケースがあります。それはどういう理由が背景にあるのでしょうか。
 (続きは来週月曜29日付で掲載します)

最終更新:7/22(月) 11:30
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