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『デス・プルーフ in グラインドハウス』デカいアメ車と女性とスタントマンへの、最高のタランティーノ式オマージュ

7/22(月) 7:07配信

CINEMORE

「僕は巨乳好きじゃなく、脚フェチなんだ!」

 おおっ、ラス・メイヤー祭り! と、クエンティン・タランティーノ監督の2007年の超絶傑作『デス・プルーフ in グラインドハウス』を初めて観た時、反射的にそう叫びそうになったことをよく覚えている。この作品は1960年代~80年代の低予算B級映画を、まるでバーゲンセールのように数本まとめて激安上映する米国の映画館(あるいは上映形態)を模した企画『グラインドハウス』の中で撮られた一本。

 ラス・メイヤー(1922年生~2004年没)とは、エロと暴力を売りにしたインディペンデントの娯楽映画監督として人気を誇った奇才。『デス・プルーフ in グラインドハウス』ではタランティーノ自身が撮影監督を務めており、下からナメるようなカメラワークで大柄なバッドガールズを捉えた構図は、メイヤーの代表作『ファスター・プッシーキャット キル!キル!』(65)や『 スーパー・ヴィクセン』(75)などの“女体描写”を彷彿させたのだ。

 そんな感想を、公開当時来日していたタランティーノ本人にインタビューした際にぶつけてみると、「ラスだったら視線の向かう先は巨乳だろう(笑)。僕の場合は胸ではなく、脚フェチだ」と言われてしまった。なるほど、その通り! さらに「それに今回はグラインドハウス調に倣うという大前提があったんで、セクシーな女の子たちを集めることは不可欠だった。前半はテキサスのオースティンが舞台になっているんだけど、めちゃくちゃ暑いんだよ。だから女の子たちはみんな、ヴィンテージのお店でTシャツとショートパンツを買って、自分の好きなようにデザインしてそれを着ているだけなんだ」と続けてくれた。

『バニシング・ポイント』等の爆走ヴィンテージカーたち

 確かに『デス・プルーフ in グラインドハウス』におけるラス・メイヤー印はあくまで一因であり(とはいえ荒野で強気の女性たちがパワフルに大暴れする終盤などモロに似ているんだけど)、具体的に熱烈なオマージュを捧げているのは往年のカーアクション映画だ。劇中では主人公の殺人鬼スタントマン・マイク(カート・ラッセル)がブロンド美女のパム(ローズ・マッゴーワン)にこんな台詞を言う。

 「『バニシング・ポイント』(1971年/監督:リチャード・C・サラフィアン)や『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』(1974年/監督:ジョン・ハフ)、『爆走トラック‘76』(1975年/監督:ジョナサン・カプラン)……当時の映画は本物の車を本物の人間が運転していたんだ」。

 これら偉大なる先行例に倣って、『デス・プルーフ in グラインドハウス』のカーアクションも余計なVFXの盛り付けなど一切なし。車にカメラを直接設置し、ヴィンテージカーを120kmから160kmのスピードで突っ走らせ、ドライバーの凄腕テクで実際に横転やクラッシュをぶちかます。エンジン音を唸らせて豪快に暴れ回るデカいアメ車は実に官能的だ。

 前半でスタントマン・マイクが乗るのは1970年型のシボレー・ノヴァSSの凶暴な改造車(“耐死仕様”=デス・プルーフ)。ボンネットにドクロマークを禍々しくペイントしてあるのが中二病チックで痺れる。それが大破したあとは、1969年型のダッジ・チャージャーに乗り換える。ちなみに『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』では、主演のピーター・フォンダがシボレー・インパラとダッジ・チャージャーを自分で運転している。

 そして後半、マイクと壮絶なカーチェイスを繰り広げるのが、『バニシング・ポイント』に登場したモデルと同じ白の1970年型ダッジ・チャレンジャーだ。この車の“キャスティング”に関して、タランティーノは興奮してこう言う。「まるであの映画の車がゲスト出演しているみたいだよ!」

 テネシー州の田舎レバノンを舞台に、このダッジ・チャレンジャーにはタフな女性チームが乗り込む。『バニシング・ポイント』は虚無に憑かれた主人公コワルスキー(バリー・ニューマン)がただひたすらアクセルを踏み続けるアメリカン・ニューシネマの名作のひとつだが、あの男臭い孤独と破滅が、シスターフッド(女性たちの連帯)の陽気さに乗り換えられている光景は、いま(2019年)の眼で観ても実に現代的なアップデートだと思う。

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最終更新:7/22(月) 7:14
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