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【門間前日銀理事の経済診断】世界で話題の「日本化」 マイナスな響きに異議あり!

7/22(月) 11:04配信

ニュースソクラ

低成長、低インフレ、低金利の「3L」は日本に固有ではない

 リーマンショックから既に10年以上が経過している。この間、主要先進国は、金融緩和を継続し、政府債務を膨らませてきたにもかかわらず、経済成長はきわめて緩やかなものにとどまっている。

 低インフレ傾向も定着し、金利も歴史的な低水準のままである。低成長、低インフレ、低金利のいわゆる「3L」(3つのlows)の時代の到来である。

 日本は90年代以降、「失われた10年」、そして「失われた20年」と言われ続けた。その局面は世界的には、グローバリゼーション、情報技術の発展、金融の高度化、欧州統合など、経済のダイナミズムが強まった時期に重なる。

 したがって、当時の「3L」は日本固有の問題であり、不良債権処理、金融政策、構造改革などにおける対応のまずさが原因だとされた。

 学問的に正しい処方箋がわかっており、諸外国や国際機関のアドバイスもあったのに、日本が耳を傾けなかったのだから自業自得だ、というふうに世界から見られていた。

 だから日本は国際的な政策論議の場において、長らく「反面教師」の位置づけだった。その、なってはいけないはずだった日本になりつつあるのではないか、という「日本化(Japanification)」を巡る問題意識が、最近、米欧とくに欧州で高まっている。

 ユーロ圏の経済は減速傾向が鮮明であり、基調的なインフレ率も1%前後から上昇する兆しが見えない。

 欧州中央銀行(ECB)は当初、今年の夏以降の利上げ開始を目論んでいたが、少なくとも本年末までは利上げを見送る方針に変わった。実際のところ、来年中に利上げを開始できるかどうかもおぼつかない情勢だ。

 こうして「3L」を抜け出せる展望が遠のく中で、欧州でさかんに「日本化」が言われ始めたのだ。それにしても、経済の慢性的な不正常化、というニュアンスで「日本化」という言葉が使われることに対し、改めていくつかの感想が湧く。

 第一に、長い時間軸でみれば、起きているのは先進国共通の「3L化」であり、もともと日本に固有の現象ではない。その発現のタイミングが、日本は15~20年程度早かっただけだ。このタイミングのずれについては、バブルの発生と崩壊の時期に重要な鍵があるように思う。

 日本は80年代に、それまでの成功体験が遠因となってバブルが生じた。そのバブルが崩壊して気がついてみたら、実は人口動態など様々な構造要因が強まってきていて、高い成長への回帰が難しい時代に入っていた。

 どのみち不可避であった低成長化のトレンドが、バブルによって覆い隠されていた時期が、日本は早かったのである。

 この点、米欧では、80年代から強まった新自由主義への信仰が、冷戦終結によって一段と強固なものになり、90年代以降、経済の金融化やグローバル化が勢いを増していった。そのバブルが剥がれて低成長化のトレンドが露わになるのは、グローバル金融危機を待たなければならなかった。

 第二に、そもそも日本の「失われた20年」は、「失われた」というほど本当にひどい時代だったのだろうか。確かに、80年代までに比べ、90年代以降の日本の成長率は劇的に低下した。不良債権など様々な課題に対し、もっと良い政策対応がありえたことも事実だろう。ただ、人口の頭打ち・高齢化が急速に進んだ割には、日本経済は相応に成長してきた、という見方も可能である。

 人口動態を調整して経済成長を評価する際、労働生産性(一人一時間当たりの実質GDP)の上昇率でみるのが合理的である。それをOECDのデータから計算すると、1991年から2017年の平均で日本は1.5%である。これは、米国や英国の1.6%、ドイツの1.5%と変わらず、カナダ、フランス、イタリアよりは高い。

 第三に、低成長とうまく折り合っていくという意味では、米欧の社会の方が日本以上に苦しむのではないか。

 単一通貨「ユーロ」が誕生してから20年、経済の統合は思い描いていたようには進んでいない。移民・難民や格差などを巡る問題を背景に、人々は現状に強い不満を抱く。先月行われたEU議会選挙で、EU懐疑派が存在感を示したのも、その表れだと言える。

 米国でも、景気拡大が最長記録を達成しようとしているこの局面で、社会の分断が止まらない。2年半前にトランプ政権が誕生したかと思えば、最近は民主党の急進左派にも共感が集まる。

 これに対し日本は、今も「失われた20年」の頃と成長率はさほど変わらないが、政府の世論調査によれば、生活に対する国民の満足度は過去最高を更新している。国際的にみて政治的な安定感も高い。

 もちろん、「だから日本はこれで良い」と言いたいのではない。日本も様々な改革を不断に続けていく必要がある。ただその際に、日本型の経済システムは時代遅れで海外(とくに米国)の仕組みに学ぶべき、という発想だけではうまくいきそうもない、というのが米欧の「日本化」の含意なのではないか。

 新自由主義の限界は明らかになった。ただ、それに続く答えがまだないのである。

 「包摂的な成長」、「SDGs(持続可能な開発目標)」など、鍵となりそうな新たな概念は広まってきた。しかし、それを踏まえて市場経済をどう再設計していくべきなのか、模索は始まったばかりである。

■門間 一夫(みずほ総合研究所 エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。

最終更新:7/22(月) 11:04
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