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知財戦略で周回遅れの日本企業 新著「IPランドスケープ経営戦略」を聞く

7/22(月) 12:07配信

ニュースソクラ

【著者に聞く】IP分析でグーグル自動運転の隆盛は4年前に見抜いた

 IPランドスケープという用語をご存じだろうか。IPはIntellectual Propertyの略称でまさに知的財産権(知財)のこと、ランドスケープは環境とか見通すという意味になる。欧米では知財の知識を生かして企業の成長力を導き出す動きが活発で、経営者で知らない人はいない用語だ。だが、日本ではなじみが薄い。そのものずばり「IPランドスケープ経営戦略」(日本経済新聞出版社刊)を出版した日本経済新聞の渋谷高弘編集委員(法務担当)に意図を聞いた。(聞き手はニュースソクラ編集長、土屋直也)

 ――知的財産の情報をトップも含め経営陣がよく把握しているかどうかで、企業の成長力に差が出るということですね

 特許など知的財産の情報をともすれば専門家集団になりがちな知的財産部門の担当者らに任せきりにするのではなく、トップも含む経営陣が自覚しているかどうかで、企業の成長力に大きな差が出ます。平均的な日本企業は欧米企業に比べ周回遅れにあります。 

 経営者が「自社の知財(特許を含む事業の上での有益なすべての無形資産)がどうなっているか」「何が強みで、何が弱みか」「どのような知財を生かせば会社の未来が開かれるか」を意識して経営しているかどうかです。

 ――知財のことを指すIP(インテレクチュアル・プロパティ)を書名に出し、『IPランドスケープ経営戦略』としたのは。

 IPランドスケープという言葉自体これまでは知財の専門家にとどまっていましたから、広く世の中に浸透させたいという思いがあって、書名に持ってきたのです。ランドスケープは直訳すれば環境というあたりですが、将来を見通すというニュアンスも含んでいます。

 これまで、持っている特許などの知財をビジュアル化したパテントマップを作ることが知財部門の重要な仕事でしたが、そういう静的な説明ではなく、持っている知財をどう生かし、会社の次の市場を示したり、事業提携先やM&Aの対象企業を探したり、会社の方向を決めるような提言と提案をしていくのが欧米でのチーフIPオフィサーたちの仕事なのです。

 ランドスケープの提言など日本企業にはほとんど見られません。むしろ、企業買収の直前まで知財部門には知らされず、直前になって知財面をチェックしたら、相乗効果はほとんどなく、青くなったということも現実に起こっています。

 ――ライバル企業の動向も知財から見えてくるそうですね。

 ライバルのみならず、関心がある企業がどんな特許を取得してきているかで、どんな商品をいつごろマーケットに出そうとしているかが、かなりの程度にわかります。

 IPの日本での権威と言えるKIT虎ノ門大学院(金沢工業大学大学院)の杉光一成教授とその研究グループが担当された本書の第2部では、具体的な企業名を出してケーススタディを5つ掲載しています。アップルのデザイン戦略を読み解く、グーグルの自動運転の脅威、三井化学の注力先、ミネベアとミツミのM&A、ダイソンの意外な参入分野と5つを取り上げています。

 例えば、グーグルに関しては、KITグループは4年前から自動運転技術の脅威と唱えていました。当時はグーグルによる自動運転の開発は異業種参入として話題ではありましたが、実用化はまだまだ先の話と日本ではとらえていました。しかし、グーグルの特許出願の特徴を分析すれば、特殊なレーザーによるセンサー技術を自主開発しているなど、本気度が浮き彫りになります。

 ダイソンの出願傾向を分析すると、次の新商品として電動歯ブラシを考えているらしいということが浮き彫りになります。他社の将来像が見えてしまうのが知財です。

 ――本の売れ行きはどうですか。

 発売から2カ月で増刷が決まり、約5000部が売れています。専門的な内容を含む経営本としては、まずまず受け入れてもらえたのかなと。最近は取材で大手企業の知財部門を訪れると、たいてい相手が本書を持っておられていて、手ごたえを感じます。知財関係者から、「部門の改革をしたいので講演して欲しい」と頼まれることも増えました。

 ただ、日本企業は知財部門の改革にとどまらず、経営全体にIPを取り入れないと危うい所まできています。日本の経営ガバナンスは、コーポレートガバナンス・コードが社外取締役を義務付けたことでずいぶん変わりました。次は同コードによって、IP経営の推進を企業に働きかけるべきだと思います。企業が生き残るためには、社外取締役以上にIP経営が不可欠ですから。

■土屋直也(つちや・なおや) ニュースソクラ編集長
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設。

最終更新:7/22(月) 12:07
ニュースソクラ

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