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東地中海でも火種 トルコが係争中海域で天然ガス掘削

7/23(火) 10:01配信

ニュースソクラ

東地中海は無尽蔵の天然ガス埋蔵 米中ロが権益獲得に動く

 米国とイランの対立が軍事衝突にまで発展しかねない状況となるなか、中東に近い地中海東部でも石油・天然ガス開発を巡って、紛争の火種がくすぶり始めた。

 トルコのドンメズ・エネルギー相は7月初旬、キプロス島のカルパス半島沖合で「国営石油会社(TPAO)の2隻目となる掘削船『Yavuz』が石油・天然ガスの掘削活動を近く開始する」と宣言した。

 この発言に対し、ギリシャ系のキプロスなど周辺国だけでなく、欧州連合(EU)や米国務省もキプロスとの係争海域における掘削作業を控えるよう警告するなど、緊張が再燃している。
 
 トルコはここ数年、天然ガス田の鉱区開発に積極的な姿勢を示している。2017年、トルコのアルベイラック・エネルギー相(当時)は年内にも地中海沖合におけるガス鉱区の掘削活動を開始するとともに、18年には大深度で掘削作業にも乗り出すと明言した。

 国土が中東地域に連なるものの、産油国でないトルコにとって天然ガス開発は国家的なプロジェクトとして位置付けられる。特に、地中海沖合や黒海での資源開発が注目されている。

 キプロスは英国による統治時代を経て1960年に独立したものの、内部紛争が激化。その後、ギリシャ側によって引き起こされたクーデターをきっかけに、1974年にトルコ軍が軍事介入した。

 結果として、北部にはトルコだけが承認する「北キプロス・トルコ共和国」が形成され、キプロス島は事実上、南北に分断された。それ以来、45年間にわたり、分断状況が続く。

▼地中海での資源開発に積極的なギリシャにトルコが牽制

 地中海における資源開発はトルコだけでなく、他の周辺諸国も活発な動きを見せる。2017年6月半ば、ギリシャのチプラス首相、イスラエルのネタニヤフ首相、キプロス共和国のアナスタシアディス大統領は、3国による首脳会談を開催し、イスラエル沖合で産出される天然ガスを欧州向けに輸送する「メディタラニアン(地中海)パイプライン」の建設推進に合意した。

 その直後、ギリシャ政府は、米エクソンモービル、仏トタル、ギリシャ国営石油会社のヘレニック・ペトロリアムで構成されるコンソーシアム(複合企業体)に対し、クレタ島沖合で計画される石油・天然ガス鉱区開発を承認したと発表した。

 これに加え、ギリシャ政府は、同国のエネルギー開発企業であるエネルギアン・オイル&ガスが進めるギリシャ西部沖合の開発事業も承認した。

 また、ギリシャ国営天然ガス企業のDEPAは2017年10月、天然ガス会社のガストレードが計画するギリシャ北部のアレクサンドロポリス液化天然ガス(LNG)ターミナル計画に参加すると発表。アレクサンドロポリスLNGは、ギリシャ国内で2番目となるターミナルで、液化能力は年間61億立方メートルとされる。

 そのほか、エネルギアン・オイル&ガスは2017年10月末、子会社のエネルギアン・イスラエルが、イスラエルの電力会社であるエデルテックの子会社(ドラド・エナジーなど3社)とイスラエル沖合に位置するカリッシュ・タニン大型ガス田の売買契約を締結したと発表するなど、開発や購買、提携に向けた動きが急速に進んでいる。

 こうした状況下、トルコは自国の掘削活動を国内外に一方的に宣言する傍ら、2018年10月18日にトルコの探査船がギリシャのフリゲート艦に妨害行為を受けたことから、ギリシャ単独のエーゲ海や地中海での資源開発や、地中海東部で資源開発を目論むギリシャの干渉を認めないと抗議した。

 さて、最近のトルコによる天然ガス開発の動きに対し、周辺国の不信が増幅されるなか、欧州連合(EU)や米国務省も自制を促し始めた。EU首脳はこのほど、キプロスとの係争地域における掘削作業を控えるよう警告したものの、トルコのエルドアン大統領は無視している。

 米国務省も2019年7月9日、トルコ当局に対し、キプロス沖合での天然ガス掘削活動を中止するよう要請した。同日付の『ロイター通信』によると、米国務省の報道官は「挑発的な行為は地域の緊張を高める。米国はトルコ当局に掘削活動の中止を要請するとともに、あらゆる当事者に自制を促す」と表明したという。
エネルギー安全保障上の「新たなゲームの始まり」か

 地中海東部では、トルコやギリシャのほか、天然ガスの資源開発でキプロス、イスラエル、レバノンがしのぎを削っている。レバノン政府は2013年5月、沿岸沖合に天然ガス30兆立方フィートの埋蔵を確認したことを明らかにした。

 2017年10月半ばには、レバノン沖合の海洋石油・天然ガス開発権にかかわる1回目の公募が終了し、トタル、イタリア炭化水素公社(ENI)、ロシアのノバテクで構成されるコンソーシアムが2鉱区に入札。その後、レバノン政府がこのコンソーシアムに探査を認可したものの、地中海で大規模なガス田開発にすでに参入済みのイスラエルが、係争地域であることを理由に反対の意を表明し、現在も開発が遅々として進んでいないのが実情だ。

 ところで、地中海海域の天然ガス開発をめぐっては、当事国のほか、米国やロシア、中国などの外国資本が権益獲得に食指を動かすなど、各国の思惑が蠢いている。

 ロシア国営石油会社のガスプロムがすでにイスラエル沖合のガス田鉱区「リバイアサン」の権益獲得を狙っていることが判明している。かつて「リバイアサン」に近接する大規模天然ガス田「タマル」から産出される天然ガスを液化して輸入する覚書(MOU)をイスラエルのデレク・グループと米ノーブル・エナジーと締結したものの、その後、イスラエル当局から認可されなかった経緯がある。

 他方、ガスプロムの「リバイアサン」権益取得の目的が「純粋な経済行為に基づくものでなく、エネルギー地政学的な見地から地中海進出への足掛かり」と分析する専門家もいる。権益を保有することでロシアは軍艦を「警備の名目」でガス田周辺に送り出そうとしているのではないかとの意図も見え隠れするという。

 クレムリン(大統領府)のあるモスクワ、シリア第2の港湾都市タルトゥース(地中海沿岸)にあるロシア海軍基地、さらにリバイアサン天然ガス田をつなぐラインが「ロシアの新たな南下政策の表れ」で、混迷するシリア情勢に肩入れするロシアの狙いともされている。

 中国企業の動向も見逃せない。上海市を本拠地とするコングロマリット(複合企業)である復星国際有限公司は4~5年前からガス田買収に関心を示している。現時点で地中海で日本企業が権益確保に関する動きは伝わっていないが、中国などが権益取得に成功すれば、天然ガス需給に影響を及ぼす可能性もあり、その動向を注視しなければならないだろう。

 エネルギー安全保障にかかわるだけに、自国の利益が最優先されるため、当事国が資源開発で一歩も譲れない立場を貫かざるを得ないかもしれない。一方で、共同開発など英断をもって解決する知恵も求められる。地中海ではいま、軍事衝突の危うさを内包するエネルギー資源開発が同時進行している。

■阿部 直哉(リム情報開発・総研チーム)
1960年、東京生まれ。慶大卒。ブルームバーグ・ニュースの記者・エディターなどを経て、リム情報開発の総研チームに所属。1990年代、米国シカゴに駐在。
著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。

最終更新:7/23(火) 10:01
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