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「鯨神」宇能鴻一郎 畏怖と讃嘆の果ての官能【あの名作その時代シリーズ】

7/29(月) 12:00配信 有料

西日本新聞

生月地域の江戸期の捕鯨を描いた「得庵本」(1830年、松浦史料博物館蔵)。鯨神で描かれた壮絶な人間とクジラの闘いが活写されている

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年1月14日付のものです。

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 その物語の冒頭は「あたし、…」で始まってはいない。

 「あたし、○○なんです」で始まる一人称の独白スタイルを生んだ官能小説の第一人者、宇能(うの)鴻一郎=横浜市在住=の出発点は純文学だった。

 〈ここに一巻の古い鯨絵巻がある。〉。芥川賞を受賞した短編「鯨神(くじらがみ)」の冒頭の一文である。

 「わたし」は、巨大クジラと漁師との死闘を描いた絵巻を所有する旧家当主に会い、鯨神の言い伝えを聞き書きするというところから始まる。

 明治初期の田舎の漁村で、子クジラを人間に殺された巨大なクジラ「鯨神」と、祖父と父、兄を奪われた一人の若い羽指(はざし)・シャキが繰り広げる壮絶な命のやりとりは、野性的なエネルギーに満ちている。羽指とは、極寒の海に飛び込み、クジラを最後に仕留める、捕鯨の主役のことだ。

 後に「あたし」語りで官能小説の開拓者となる宇能は、当時二十七歳。クジラと若者の復讐劇を描いた純文学はやはり官能を描いた物語でもあった。 本文:2,531文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:7/29(月) 12:00
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