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一人暮らしを始めたものの安心して働けない 障害福祉制度の壁を崩す

8/1(木) 11:10配信

BuzzFeed Japan

仕事が見つかったら、介助派遣が受けられなくなる

一人暮らしのためにある程度、貯金していた猪瀬さんだが、貯金は生活必需品を一通り揃えていくうちにあっという間に減った。

就職活動を必死に頑張り、半年後の2013年5月に在宅でパソコン入力をする仕事が決まった。病院にいる時とは違い、自宅住所があると面接にこぎつけるのもスムーズになっていた。

喜びもつかの間、役所の人に就職したことを報告すると、驚くようなことが言い渡される。

「仕事時間中は介助派遣を受けられないんですよ」

呆然とした。猪瀬さんはその頃、既にペットボトルは持ち上げられなくなり、服も自分では着替えられず、トイレも介助なしではできない状態だった。

「介助者が私の代わりにパソコンのキーボードを打つわけではないんですよ。日常生活に必要なトイレに行くことや、コップにお茶を注いでもらうこと、寒ければ上着を着ることは仕事中も必要です」

「みんな普通、仕事中にトイレも行くだろうし、水分もとるでしょう。そんな風に健常者が自分で自然にやっていることが私は制限されることになったのです」

仕方なく、勤務時間中は水分を取らず、トイレも必死に我慢した。喉の渇きを抑えるために、飴をなめて口の中を潤してしのいだ。

「体調を崩して、近所に住む介助者に助けを求めたこともありました。なぜ、働かないで家にいる時間は介助派遣が受けられるのに、自立しようと働いている時に介助派遣が認められないのか、理不尽に感じました」

役所に毎年訴えても聞き入れてくれない

なんとか仕事中も介助派遣を認めてもらえないかと、さいたま市に毎年掛け合った。さいたま市に要望書を提出しようとして、一度は受理さえも断られたことがある。その度にこう言われた。

「法律が変わらないと無理なんですよ。自治体ではどうにもできません」

重度訪問介護の利用要件を定めている厚生労働省告示では、「通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出を除く」という制限を設けている。

この規定によって、仕事中や学校で勉強中、施設を利用中などは介助派遣を利用できないこととされてきた。

そして、厚生労働省は、雇用主や教育機関などが、介助派遣の費用を負担するように求めてきた。「就労で恩恵を受ける雇用主が支援を行うべき」「障害者差別解消法に基づく合理的配慮は雇用主や教育機関などが行うべき」という方針だ。

今回、参院議員となった舩後靖彦さんや木村英子さんに対し、参議院が当面、介助派遣の費用を負担することを決めたのは、この国の方針に沿ったものだ。

だが、受け入れ側に費用負担の責任を負わせれば、経営に余裕のない民間企業などでは介助派遣代を負担することを避けることは容易に想像がつくし、コストが上乗せされる障害者を雇わなくなることさえ考えられる。

障害者の方も、介助費用を自費で負担するか、介助派遣なしで命の危険をおかすぐらいならば、働くこと自体を諦めてしまうことが懸念される。

舩後さんや木村さんが自分たちだけの費用負担ではなく、あくまでも制度改定を訴えているのは、全国の障害者の置かれたこんな不条理な状況を変えようとしているからだ。

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最終更新:8/1(木) 11:10
BuzzFeed Japan

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