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心技体が結実した42年ぶりの偉業 現地でコースを見たからこそ「より驚異的」【辻にぃ見聞】

8/7(水) 16:50配信

ゴルフ情報ALBA.Net

20歳が大仕事をやってのけた。まだ賞金シードも保持していない渋野日向子は今季、「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」で初優勝を挙げ、さらには海外女子メジャー「全英AIG女子オープン」で日本勢としては42年ぶりの優勝。日本列島のみならず全世界を驚かせた。これには同じく全英に出場していた上田桃子に帯同していたプロコーチの辻村明志氏も、「異次元の戦いだった」と目を丸くした。

偉業を成し遂げた渋野日向子、最終日の活躍をプレーバック【動画】

■ウォーバーンだから勝てたわけじゃない 人を引きつける魅力が生んだ偉業
今年の舞台となったウォーバーンGCは、他の全英が行われるいわゆる“リンクス”とは違い林間コース。日本でプレーしている選手にもなじみがあるコース形状だった。渋野も戦前から「日本で回っているみたい」と話していたように、例年よりも日本勢に回りやすさはあった。

「コースの雰囲気を感じて、“予選ラウンドは突破できそう”といった気持ちは出ていたと思います。各ホールの作りを見ても、右ドッグホールは4番ホールのみ。あとはストレートか左ドッグレッグのホールのため、ドライバーショットの球筋がドローの渋野さんは、打っていきやすいと感じられるロケーションだったのではないでしょうか」(辻村氏)

だが、次に出てきたのは「でも、ウォーバーンだから勝てた、というわけじゃないと思います」という言葉だ。

「ウォーバーンに来るのは2度目(1度目は2016年)ですが、そのときよりも、パー3とワンオンを狙わせる12番以外はほとんど距離が伸びていました。そこで20アンダー近いスコアを出したという驚きがあります。“ここはパーでいい”と思っていたら出ない。ましてやインコースのほうが難しいですし、16番からはバーディホールじゃないんです。だから先にいいスコアで上がっていた方が有利。そこで18番でバーディを奪って勝負を決めた。何よりインコースで18バーディを奪って、ノーボギーというのは驚異的というほかありません。最後まで攻めていける度胸は素晴らしい。コースどうこうよりも性格的な部分が大きいと思います」(辻村氏)

渋野の一本気で筋の通った性格は多く報道されている通り。そんな性格も初海外という状況でもホームを作った。「あの笑顔はもちろん、どんなときでも挨拶が素晴らしい。そして真っ向勝負できる度胸とフェアプレー精神。それらはすごく人を引きつける。だからギャラリーは日に日に増えていきましたし、英語が話せなくとも同組の選手も渋野さんのプレーを見守り、時には応援までしてくれた。そういった彼女の魅力が“やりやすい”環境を作ったと思います」と辻村氏は見ている。

■ミスがミスにならない 渋野日向子の低い位置でのグラブさばき
だからといってそんな性格と環境だけでは、最高峰の戦いを制することはできない。攻めていける勝負度胸を裏付ける技術が必要だ。4日のうち、2日がパーオン18回中17回とアイアンショットが特にさえた。「この数字も驚異的。コースが簡単に見えた」と辻村氏もあらためて驚く。

「渋野さんの球は本当にねじれない。ドライバーはドローですが、アイアンはフェード、ストレート、ドローと打ち分けます。でもフェードでこすれすぎたり、ドローで曲がりすぎたりということがない。どれも薄く曲がっていく。曲がり幅の計算が立つからグリーンを攻めていきやすい」(辻村氏)

渋野の最大の特徴といえばアドレス。渋野は腕を伸ばした時にヒジが極端に外側に曲がっている。細身で若い女性に多いこの腕をグッと下ろしたハンドダウンの構えが特徴的だ。今大会期間中も海外メディアから「わざとやっているのか?」、「あのほうがゴルフに向いているのだろうか」といった声も聞かれた。

「渋野さんはヒジが外側に出ているので、腕を伸ばしたハンドダウンで構えますが、背中が一切丸まっていません。姿勢がいい。だから重心の低い構えになります。姿勢の悪いハンドダウンの構えでは重心が低くなりません。背中が丸まっていないから最後まで重心を低く保てているんです」(辻村氏)

この重心を最後まで低く保つのが、安定感のあるショットへのポイントだ。「渋野さんはダウンスイングで下ろしてきてから、振り切る最後の最後まで、ヒザの位置も、手元も、顔も全く上がらない。低い位置でインパクトゾーンをつくることができている。今回キャディを務めた青木翔コーチが頭を押さえてスイングして、顔を上げないような練習に取り組んでいるのもよく見ます」。それだけ体が起き上がらないことを意識しているということに他ならない。

少しでも体が浮き上がれば、タイミングがズレて薄い当たりになってしまう。もちろん渋野もタイミングがズレるときはあるが、重心は低いままだからたとえダフったとしても距離を落とさず持っていけるヘッドの加速がある 。だから最終日の18番で「ちょっとダフった」という当たりも4.5mのチャンスにつけられたのだ。これこそ縦距離が合う理由だ。

「それができるのはアドレスで下半身から始動して、下半身から切り返すからです。テークバックを手で上げるのではなく、最初に動き出すのは下半身。切り返しも同じですね。下半身から動き始めるから手が余計な動きをしない。その後トップで作ったかたちから、クラブを最短距離で下ろせてくる。これは体感速度が速いソフトボールをやっていた影響だと思います。そして忘れてはいけないのが最後まで振り切るということ。これは自分の体をフルに使えているからできること。当てにいっていたのであれば、ダフれば距離は落ちますし、インパクトをミスすれば左右にブレる。縦距離も左右のブレも少ない理由はスイングにあるのです」(辻村氏)

最後にパッティングにも触れた。「一度入るとどんどん勘が冴えてくる感じでしたね。ウォーバーンGCのグリーンは、下へ向かって順目、上りへ逆目とはっきりと芝目がありました。加えてアンジュレーションも多い。そういったクセのあるグリーンでも持ち前の強気を失わずに次々と決められた。最終日の3番ホールで4パットのダブルボギーを叩いたら、普通の選手ならもう打ち切れません。でも最後の18番まで自分のスタイルを見失わなかった。それはスコアがどうというよりも、自分のスタイルを貫き通すことに主眼を置いているからです」。ティショットからパッティングまで“よそ行き”のゴルフは一切なかった。それが強さだった。

攻撃的な気持ちと裏表のない性格、それに加えて確かな技術。この3つが結実した42年ぶりの偉業達成だった。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

(撮影:村上航)<ゴルフ情報ALBA.Net>

最終更新:8/7(水) 16:50
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