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赤川次郎「三毛猫ホームズの無人島」 娯楽に忍ばせた弱者の叫び 【あの名作その時代シリーズ】

8/9(金) 12:00配信 有料

西日本新聞

隆盛を極めた後、棄てられた「軍艦島」。そこだけ、時が止まっていた=長崎市・端島(本社ヘリから)

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年2月25日付のものです。

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 「あっ珍しいな、と思いました」
 
 光文社(東京)で長年、赤川次郎を担当した編集者石坂茂房さん(42)は、「別冊小説宝石」一九九六年初冬号に掲載された「三毛猫ホームズの無人島」の原稿を受け取ったときのことをよく覚えていた。「実在の地名が書かれていましたから。〈軍艦島〉って」

 赤川の作品で、人名以外の固有名詞が登場するものは皆無に近い。

 天才的推理能力を持つ飼い猫にヒントをもらいながら、殺人事件を解決する「三毛猫ホームズ」シリーズ。主人公は警視庁捜査一課の刑事だが、四十冊を超えた同シリーズには「東京」という文字すら、めったに出てこない。物語の舞台を特定する場合も、N女子高校、T高原とイニシャルで表記するだけ。風景の具体的な描写も極端に少ない。現実世界を連想させる表現をなるべく控え、会話を主体にテンポよく話を進めることで、血なまぐさい殺人劇さえも軽妙なユーモア・ミステリーに仕立て上げてしまう。幅広いファン層を持ち、毎年約二十冊という驚異的なペースで作品を刊行し続けてきた赤川の流儀の一端が、そこにはある。

 ところが「無人島」には、長崎港沖に浮かぶ端島(はしま)(通称・軍艦島)が舞台と分かる言葉や情景描写が並ぶ。

   ■   ■

 現在、端島への上陸は禁止されている。ヘリコプターで空から迫った。長崎市上空に差しかかったころ、濃紺の海原にセピア色の“艦影”が浮き上がってきた。コンクリートで塗り固めた岩礁に、高層アパートの群れを植え込んだ異形の島がそこにあった。 本文:2,647文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:8/9(金) 12:00
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