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溺れる移民をドローンで傍観、EUの非人道性あらわに

8/12(月) 14:02配信

The Guardian

「あのとき、助けを求める叫びを無視していたら、もう二度と海と向き合うことはできなかっただろう」と、イタリア・シチリア島在住の漁師、カルロ・ジャラターノさんは話す。移民を救助してイタリアに上陸させた者に対して罰金または禁錮刑を科すとしている同国政府の「安全保障政令」に背いたのだ。

 ジャラターノさんの体験は、「欧州要塞」の国境で起こっている法律をめぐる緊張感を如実に表している。国際法では、船長には海難に遭遇している人を「国籍や立場にかかわらず」救助する義務がある。しかし、多くの欧州諸国や欧州連合(EU)が、こうした活動を制限しようとしている。地中海での死者数が増えているにもかかわらずだ。

 EUの専門機関である欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)は独創的な解決策にたどり着いたらしい。ドローンを使うのだ。遭難している船舶に対する救助義務は無人航空機には適用されない。そもそも、移民を救助しなければ、誰がその移民の面倒を見るかという政治的な議論も避けられるというわけだ。

 EUは、移民をただ放置して溺れさせているわけではない、リビア沖を渡ろうとする移民船を拿捕(だほ)し、リビア国内の移民収容所に送還する同国の沿岸警備隊を支援していると主張している。

 しかしスイスに拠点を置く非政府組織(NGO)、グローバル・ディテンション・プロジェクト(GDP)は、リビアの移民収容所では「被収容者はレイプや拷問、強制労働、奴隷状態、劣悪な住環境、司法手続きによらない処刑など、深刻な虐待に遭うことが多い」と報告している。また、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は「No Escape from Hell(「地獄から逃れるすべなし」の意味)」と題した報告書で、過剰収容と栄養失調、警備員が移民の子どもたちを殴打している疑いについて言及している。

 国境警備への執念は、欧州社会の長年の道徳的な義務──弱者の面倒を見て、己の欲するところを人に施し、助けられる者は助ける──と衝突している。

 だが、欧州諸国の政府は、移民を救うのは欧州市民の義務ではないという判断を下した。現代の欧州では、昔から培われてきた道徳観に反し、溺れかけている移民を救助する船員が罰せられるようになった。

 相互の義務という人のつながりを壊すと、代償がついて回る。社会の結束は弱まり、摩擦が生じる。欧州は「敵対的な環境」となり、欧州市民も人に対して冷淡になってしまった。

 欧州市民は自ら、国内の「国境警備隊」に志願してしまっている。土地所有者、看護師、教師、管理職など、社会とのどのような関わりにおいても監視が必要とされる。「日々、境界を設ける」政権によって、私たちの社会の中に「互いを疑うコミュニティー」が生まれた。誰かが存在するだけで人々は疑心暗鬼になり、いつでも通報され得る。

 国境は、外国人を私たちの社会に入れない仕組みというだけではなく、その中で、彼らを恒久的に外国人と見なす制度にもなった。私たちの社会全体が、移民を拒否するために、収容能力によって定まる欲深い国境にただ従うだけの「しもべ」と化してしまっている。

 目に見える悲劇や死が報道されても、ニュースは、一部の人々の「懸念」が増幅され、議論の余地のない「常識」へとすり替えられてしまっている状態と関連付けて伝えることはしない。国境政策の代償は明確には示されていないため、私たちはその問題から目を背けている。それは、私たちが残酷だからではなく、自分たちがしていることを直視できないからだ。移民の人々と同じ世界で暮らしているにもかかわらず、私たちは海で溺れている移民を無人のドローンから眺め、一方で、それを救出しようとする人々を国家は裁く。

 国境は人道的なものであるという作り話を信じている人があまりにも多いのは、国境警備において日常茶飯事となっている血なまぐさい現実を直視するのが怖いからだ。しかし、できることなら、この作り話を現実のものにする方法を考え出してもいいのではないか? 考え出していないとすれば、現実のものにはできないのかということを検討してみるべきだ。

 これから移民は増えるばかりだ。移民を受け入れない選択肢は無料ではない。誰かと資源を共有する無料の方法はない。しかし受け入れなければ、私たちは自ら能動的に移民を溺れさせ、収容所に送り込み、戦闘地帯での奴隷労働に追いやることになる。敵対的な環境を選び、「自分たちの生活を守る」ことを選ぶことになる。市民権もなく、テントやうだるように暑い倉庫の中で希望を失うまで疲れ果てて暮らす移民が増加していくのを尻目に。

 この代償は高過ぎると、いつか私たちは考えるようになるのだろうか。そこまでの代償は今のところないようだと言うとしたら、それは私たちの何を物語っているのだろうか。【翻訳編集】AFPBB News

「ガーディアン」とは:
1821年創刊。デーリー・テレグラフ、タイムズなどと並ぶ英国を代表する高級朝刊紙。2014年ピュリツァー賞の公益部門金賞を受賞。

最終更新:8/12(月) 14:02
The Guardian

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