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映画「スローなブギにしてくれ」が大ヒット、作家・片岡義男が描いた70~80年代の東京とオートバイ

8/12(月) 21:30配信

アーバン ライフ メトロ

短編の名手が描いた、若者たちの群像

 筆者(増淵敏之。法政大学大学院教授)は、2019年2月に「『湘南』の誕生 音楽とポップ・カルチャーが果たした役割」(リットーミュージック)を上梓した際、「湘南」のイメージ形成に寄与したコンテンツ作品を集めました。

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 1970~80年代に一世を風靡した作家で、短編の名手として知られる片岡義男の作品には「湘南」という先入観がありましたが、意外にも「湘南」を舞台したものはわずかでした。筆者の中に、片岡作品といえば「海」「オートバイ」が出てくるというイメージが勝手に出来上がっていただけでした。

 彼の存在は1976(昭和51)年の短編集「スローなブギにしてくれ」で知りました。同名の短編が1974(昭和49)年の第2回「野生時代」の新人文学賞を受賞、直木賞候補作品にもノミネートされたほどです。

 この作品はのちに1981(昭和56)年に映画化され、以後オートバイやジャズを取り入れた軽妙なタッチの作風が若者の支持を得て、一大ブームを巻き起こしました。当時、おびただしい数の作品が文庫で発売され、またそれが同時に映画化されることで、彼の人気にますます拍車がかかりました。

「野生時代」は角川書店のエンターメント小説誌で当時、角川メディアミックス戦略の軸となっていました。メディアミックスとは、もともとひとつのメディアでしか表現されていなかった作品を、小説やマンガ、アニメ、ゲーム、CD、テレビドラマ、映画、タレント、トレーディングカード、プラモデルなど、複数メディアを通じて展開するビジネスモデルのことです。「スローなブギにしてくれ」はその代表的なものといえます。

第三京浜の出会い

 この作品は、世田谷区の玉川ICと横浜市の保土ヶ谷ICをつなぐ「第三京浜道路」をオートバイで走る青年が、ムスタング(乗用車)から放り出された若い女性と子猫を拾うところから始まります。

 映画の脚本は原作に幾つかの短編を加えた形となっています。監督は藤田敏八で、浅野温子が主演。主題歌の南佳孝の同名ソングもヒットしました。撮影は福生市を中心に神奈川県の大和市などでも行われています。ある意味、「郊外型」の作品です。

 在日米軍の横田飛行場のある福生市は当時、米軍外国人やその家族のために建てられた「アメリカンハウス」が結構残っており、日本のミュージシャンなども住んでいました。日本であっても少しアメリカ色の強い地域といった感じです。なお大和市も米軍、海上自衛隊が共同使用している厚木飛行場があります。つまり「スローなブギにしてくれ」は、東京とアメリカ色の強い「郊外」を行き来する物語といえるのかもしれません。

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最終更新:8/12(月) 21:53
アーバン ライフ メトロ

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