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不倫、退職の末、やっと幸せが…プロポーズを受けた32歳女性は、なぜ飛び降りたのか?

8/13(火) 12:13配信

読売新聞(ヨミドクター)

心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

 「もしもし、こちら警察です。○崎S子さんについて、お話をうかがえますか?」

 ある日、警察から電話があった。

 S子さんは、確かに私の心療内科外来に通っている。

 「S子さんがどうかされたのでしょうか?」

 「昨夜、マンションの5階から飛び降りました」

 「!」

 私は息をのんだ。

 「それで、容体は?」

 「意識はありません。予断を許さない状態とのことです」

 私は言葉を失った。彼女は先週、「彼からプロポーズされた」と、うれしそうに報告に来たばかりだったのだ……。

上司との関係が原因で「うつ病」に

 S子さんは32歳の女性。診断は「うつ病」。3年前にはじめて外来を訪れた時は、気分の落ち込み、気力の低下、不眠や不安など、典型的な症状がすべてそろっていた。

 原因は「上司との不倫」だった。

 彼女は清楚(せいそ)で知的な印象の女性で、配属先の部長からすっかり気に入られてしまった。個人的な誘いは断ってきた彼女だったが、「キミのことを大切に思っているんだ」「思いつめるタイプのようだから心配なんだよ」という言葉に心が動いた。「そんなに私のことを思ってくれるなら……」という気持ちから、親しい関係になってしまった。

 それからは大変だった。部長は強引な人で、こちらの気持ちなんか考えてくれない。身勝手な部長に振り回され、心身ともに疲れ切ってしまった。そして、ある日、部長の奥さんが、彼女のマンションにやってきた。さんざん責められ、叩(たた)かれ、罵(ののし)られた。彼女は人格を全否定され、ひどくショックを受けた。会社も辞めざるを得なくなった。強い「うつ病」の症状が発現したのはその時である。

「プロポーズされたんです」 笑顔で話したのに

 心療内科での治療と、会社を離れたことにより、S子さんの症状はゆっくりと改善していった。

 新しい職場で働くうち、2歳年下の同僚から思いを寄せられた。真面目で誠実な印象の人だった。こちらの話をよく聞いてくれる。自分の意見をおしつけたりせず、今まで会ったことのないタイプだった。彼と付き合うようになってから、うつ病の症状はさらに軽くなった。診断も、「抑うつ状態」とワンランク軽くなり、薬も減らしてきていた。

 そして、先週。

 「先生、彼からプロポーズされたんです」

 S子さんは、控えめな笑顔でそう告げてきた。

 「そう、よかったね!」

 「ありがとうございます」

 これまでの苦労がようやく報われる。そんな印象だった。

 しかし、その彼女がマンションから飛び降りた。どうしてそうなったのか、私にはわからなかった。

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最終更新:8/13(火) 12:13
読売新聞(ヨミドクター)

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