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不倫、退職の末、やっと幸せが…プロポーズを受けた32歳女性は、なぜ飛び降りたのか?

8/13(火) 12:13配信

読売新聞(ヨミドクター)

「私に関わった人はみんな不幸に」

 「意識が戻りました!」と、S子さんの家族から連絡があったのは、飛び降りた1週間後だった。彼女からくわしい事情が聞けたのは、さらに1か月後のこと。骨折などへの対応が一段落し、松葉杖(づえ)で外来を受診した時のことだった。

 「プロポーズされた時は、とてもうれしかったんです。ああ、こんなすてきな人が私を愛してくれたんだって。これほど幸せな気持ちになったのは生まれてはじめてでした。でも、翌日になると急に怖くなりました。私のようなダメな人間が幸せになれるはずがない。今まで私に関わった人はみんな不幸になってきた。彼のようなすてきな人が私と一緒になったら、不幸になってしまう。私には彼を不幸にする権利なんかない。そう思えました」

 プロポーズをいったん受けたけれど、やはりお断りしたい。何度伝えても、彼は納得してくれなかった。「ほかに何か理由があるのではないか? 好きな人がいるならあきらめる。でもそれ以外なら、どうしてもあきらめられない」と。

 「彼の誠実さが身にしみました。私はすごくうれしかったけれど、とても不安でした。気持ちが千々に乱れて、どうしていいかわからなくなりました。そしてあの夜、ふと、『やっぱり、私がいなくなるのが一番よいことだ』と思ったんです。そう思い始めたらもう止まらなかった。ふらふらと部屋を出て、気がついたら飛び降りていたんです」

家族を失ってきた過去が…

 それを聞いて、私は、彼女の生い立ちについて以前聞いた話を思い出した。

 彼女の両親は仲が悪かった。父親は女性関係にだらしがなく、母親との口論が絶えなかった。しかし、S子さんはやさしい父親が大好きだった。彼女がほしいと言う物を、母親に内緒でよく買ってくれた。そして、家族で遊園地に行った楽しい一日のあと、父親は姿を消した。彼女は泣きじゃくって父を探したが、もう二度と会えなかった。

 母親は神経質な人で、S子さんに厳しかった。「父親に顔がよく似ている」と、さんざん嫌みを言われた。3歳年上の兄は、おとなしくて頭が良く、母親の宝物だった。東大に入れる頭だと、母はよく自慢していた。だが、大学受験に2度失敗。無理を重ねた受験勉強のあとで自分に絶望し、部屋で首をつった。家族3人で「残念会」を開いた直後のことだった。

 母親は廃人のようになり、S子さんを責め、自分を責め、酒を飲んではグチをこぼす毎日だった。S子さんは、愛する家族を次々に失い、「自分のような人間が幸せになってはいけない」という信念を抱くようになった……。

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最終更新:8/13(火) 12:13
読売新聞(ヨミドクター)

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