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元プライベートバンカーが教える、不動産を相続したときの「すぐ売れない&分割で価値低下」への対処法

8/14(水) 12:00配信

MONEYzine

■元プライベートバンカーが教える、相続のキホン

 はじめまして。株式会社ウェルスパートナー代表取締役の世古口です。「相続」をテーマに連載を始めることになりました。最初に、少しだけ自己紹介をしたいと思います。

 私は、大学卒業後に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に入社し、プライベート・バンキング本部で富裕層向けの証券営業に従事し、その後も、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て、クレディ・スイス銀行(現クレディ・スイス証券)でプライベートバンカーとして仕事をしてきました。

 2016年にウェルスパートナーを設立し、現在も富裕層や事業オーナー向けに資産配分と資産運用設計の最適化コンサルティングを提案しています。この連載では、私のプライベートバンカーとしての経験、顧客から寄せられた相談を踏まえて、相続について知っておきたい基本的な事柄を説明します。

■「富裕層」ってそもそもどんな人? 

 一般的には、プライベートバンキングサービスは「保有資産10億円以上」の方向けに提供されるものですが、そうした富裕層は日本にどのくらい存在するのでしょうか。「相続」を身近な問題としてとらえるために、そのあたりから説明していきたいと思います。

 野村総合研究所は、2018年12月に発表した富裕層に関する調査結果の中で、2017年の日本における富裕層は126.7万世帯、その純金融資産総額は299兆円と推計しています。この「純金融資産総額」の中身は、預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など、世帯として保有する金融資産の合計額から負債を差し引いたもの。その金額をもとに総世帯を以下5つの階層に分類しています。

出典:野村総合研究所
国税庁「国税庁統計年報書」、総務省「全国消費実態調査」、厚生労働省「人口動態調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」、東証「TOPIX」および「NRI生活者1万人アンケート調査(金融編)」、「NRI富裕層アンケート調査」などから野村総合研究所(NRI)が推計。

 上の図にもあるとおり、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」は118.3万世帯、そして純金融資産保有額が5億円以上の「超富裕層」は8.4万世帯となっています。

 つまり、純金融資産1億円以上の「富裕層」「超富裕層」に分類される世帯は126.7万世帯です。一方、総務省が発表した平成29年1月1日時点での日本全世帯数は5,363.9万世帯となっており、これを分母とすると、富裕層の割合は約2.3%になります。

■「富裕層」だけの問題じゃない、「相続争い」「相続税」の問題

 保有資産1億円以上の富裕層は相続人に相続する資産が多く、また相続税も多くなるので、相続に関する悩みが多く、私たちも相談をいただくことが多いです。しかし、相続争いや相続税は一部の富裕層だけの問題ではありません。保有資産1億円未満でも、相続争いや相続税の問題が発生する場合が多々あります。

 では、相続争いや相続税はどういった方に関係するのか。以下の簡単なマトリックスをもとに確認してみましょう。

 この図を見ると、自分も該当しているという方が多いのではないでしょうか。前述の野村総合研究所の調査は、預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など、世帯として保有する金融資産の合計額から負債を差し引いた「純金融資産保有額」をもとに推計したものでした。

 しかし、一般家庭では自宅等の不動産に相続財産が集中しているケースが多いですし、子どもが2人の家庭なら相続財産が4,200万円以上あれば相続税の対象となるため、意外と対象になる方が多いことがわかります(今回は、小規模宅地等の相続税の特例は考慮しません)。

 たとえば相続財産が6,000万円あり、法定相続人が3人いた場合は4,800万円を除いた1,200万円が相続税の対象となり、相続税率をかけた金額が相続税金額となります。これを、相続が発生してから10か月以内に納税するのがルールとなっています。なお、この相続税は累進課税となっており、相続財産が多ければ多いほど税率が高くなります。最も高い税率は55%となり、保有資産が数億円以上の富裕層は頭が痛い悩みとなります。

 また一般的な相続の手続きとしては、遺言がなければ相続人同士の遺産分割協議でどの資産を誰に分けるかを決めることになります。そして遺産分割協議で決定された内容を遺産分割協議書に記すことで、その相続財産の権利が相続人にあることを証明するのです。

 この遺産分割協議書を銀行や証券会社に提出することで、被相続人から相続人に名義が変更されます。そして相続人は、その相続した相続財産金額に応じて相続税を相続発生から10か月以内に納税することになります。つまりたくさん相続すればするほど納税金額も大きくなるということです。遺言や信託銀行が提供している遺言信託などを利用していると上記の限りではありませんが、一般的にはこのような流れが多いかと思います。

■不動産は相続争いの原因になりやすい? 

 まず、相続に関する問題は相続人が相続財産の所有権などでもめる「相続争い」と相続財産を相続することに対して課税が発生する「相続税」に大きく分けられます。

 この2つは同時に発生することもありますし、片方だけしか関係しないこともあります。ただ2つの問題に共通して言えることは、保有資産全体に占める不動産の割合が高い場合に問題化することが多いという点です。不動産は資産形成や相続対策に有効な資産ではありますが、下記2点の問題点があります。

(1)分割すると著しく価値が下がる可能性があるリスク
(2)流動性が低い(すぐに売却できない)リスク

 これらの不動産の問題点が具体的にどのように相続争いや相続税に関わってくるのかを、私たちが実際にかかわった事例を参考にして確認していきましょう。

■【ケース1】自宅を兄弟で分割相続、その後、兄が亡くなった

 まず、「相続争い」の例から見ていきましょう。家族構成は、父親と母親、子どもが2人(長男、次男)です。父親の資産背景は、主に戸建ての自宅が4,000万円、預金2,000万円です。父親が亡くなったあと、自宅は母親が、預金は兄弟で1,000万円ずつ分けました。その数年後に、母親も亡くなり、自宅は兄弟で不動産の持分を1/2ずつ分割して相続しました。

 その後、長男も急死し、長男の妻と子どもが不動産の持分を1/4ずつ保有することになりました。長男と次男の関係性は良好だったので、長男の妻や子どもが不動産の所有権も持っていても、特に問題ないだろうと次男は思っていました。

 数年後、次男は自身の自宅をリフォームする資金を捻出するために、不動産を売却したいと思い、長男の妻と子どもにみんなの不動産持分をまとめて売却することを打診しました。長男の妻はOKだったのですが、長男の子どもは持分の売却を拒みました。理由はその不動産物件に現在住んでおり、家賃もかからないので売却したくないというものでした。

 では次男は、この不動産持分1/2だけを売却できるのでしょうか? 

 正直、難しいでしょう。ちゃんと持分登記をしていれば、理論上は1/2でも売却はできますが、戸建て物件の土地と建物1/2だけほしい人はいませんし、仮にいたとしても、とんでもなく安価で買い叩かれることになります。

 私たちは、この時点で次男から相談を受けたのですが、この状況から打てる手立ては、物件に住んでいる子どもへの交渉だけです。これが不動産の「分割すると著しく価値が下がるリスク」です。

 もし、この不動産という資産が預金や株式、債券、投資信託などの金融資産であれば、相続の時点で相続人のそれぞれの完全な所有権として所有する形になり、売却するのも相続人の完全な自由になっていました。この性質の違いから不動産が相続において問題になるリスクがあることがわかります。

●対策はあるの? 

 では、このような状況にならないためにはどんな対策があったのでしょうか。私は下記2つの対策があったと考えています。

(1)長男と次男が所有者のうちに不動産(自宅)を売却する
(2)不動産(自宅)を長男か次男のどちらか一方にすべて相続させる

 (1)は、長男が亡くなる前の所有者の意思統一が可能なうちに、不動産を売却するという意味です。

 (2)は、両親が自宅所有している段階で、遺言等により所有者を長男か次男のどちらかに集約するということです。遺言を使えば実際にどちらかに集約することは可能だったと思いますし、遺言がなくても、長男と次男の仲が良好なことを考えれば、遺産分割協議で所有権を集約することも可能だったかもしれません。

 今回のケースでは、こうした対策を打っていれば、難しい状況にはならなかった可能性が高かったと思います。いろいろなケースを見てきて、相続争いは自分たちに関係ないと思っている方ほど、上記のような困ったケースが起こっていると感じています。

■【ケース2】どうする? 相続した土地に建物が! 

 次に、「相続税」についても見ていきましょう。ここでもポイントは不動産です。このケースの家族構成を見ていくと、父親はすでに亡くなっていて、母親は健在です。兄弟姉妹は3名いて、長男、次男、長女です。財産は、事業用の土地4,000万円分、有価証券1,000万円、自宅3,000万円、現預金1,000万円です。

 その後、母親が亡くなり、その遺言をもとに、実家を継いだ長男に自宅、自身で商売をしていた次男に事業用の土地、残りの有価証券、預金を長女に承継することになりました。遺言どおりに遺産を分割したのですが、その後、次男が相続税の納税で困ることになったのです。

 次男の相続税は数百万円程度だったので、相続した土地を売却すれば納税が可能かと思いますが、この土地は大手寿司屋のチェーン店に長期契約で賃貸しており、すでに建物が建っていました。もちろん土地の賃料収入は入ってくるのですが、建物があるため、購入してもすぐに土地を使えない状態です。このままでは、この土地をほしいという人はなかなか現れないでしょうし、すぐに売ろうとすれば相当な安価で買い叩かれてしまうでしょう。

 これが、まさに不動産の「流動性が低い(すぐに売却できない)リスク」です。こういった状況で次男から相談を受けた私たちは、いろいろと選択肢を検討しましたが、最後はもともと次男が保有していた日本株の一部を売却し、相続税の納税資金に充てることになりました。

●対策はあるの? 

 このケースも、遺言作成の時点で母親から相談をいただいていれば、納税資金に困らないように承継先と承継資産を最適化することで回避できたでしょう。相続争いの例と同様に、いかに事前の対策が重要であるかということがわかります。

■まとめ

 ここまでお読みいただくと、自分には関係がないと思っていた相続争いや相続税が意外と身近な問題だということがわかるかと思います。

 日本は、家族の間であまりお金の話をしない文化だと感じます。特に子どもから親の財産や相続に関しする内容は話しづらいものです。しかし、思ったよりもご両親が財産を多く保有していたり、流動性が低い不動産を保有していると、相続争いや相続税の問題に直面するケースが多いのです。

 この連載がきっかけとなって、少しでも読者の皆さんの資産承継のお役に立てればと思います。次回は、さらに具体的な相続事例をご紹介しようと思います。

最終更新:8/14(水) 12:00
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