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痴漢を取り押さえた会社員、全治3カ月の大けが。たとえ補償なくても「また助ける」

8/14(水) 8:14配信

ハフポスト日本版

人助けも経済格差?

吉田さんは今年4月、執行役員として現在の勤め先に転職したばかりで、有給休暇も発生していなかった。

社長は「気にしないで休んで」と言ってくれたが、「そう言われると、休むのが心苦しくなって…。入社2カ月で、一番頑張らなければいけない時期でもあった」(吉田さん)。このため、休みは取らなかった。

勤め先は、最寄り駅から徒歩10分程度だが、歩行がままならないため25分くらいかかってしまう。

週1回、朝7時からの朝会前日は、遅刻しないよう近くのホテルに宿泊した。医療費、宿泊代など出費もかさんだ。

だが吉田さんは「けがをしたのが僕のような、オフィスワーカーで良かった」と話す。

「運転手など、体を使った仕事の人が同じ目に遭ったら、労災も下りず生活が立ち行かなくなるかもしれない。無職やアルバイトの人にとっても、経済的な負担は大きいだろう」

存在知られぬ補償制度

警視庁によると、一般人が被疑者を取り押さえる時にけがをしたり、障害が残ったりした場合、治療費などを支払う制度がある。

ただ制度利用の手続きは、所轄の警察署長の報告によって始まると定められており、けが人自身は申請できない。

吉田さんが所轄署に問い合わせたところ、制度を使えるか検討しているが、「補償が支払われるかはまだ分からない」と回答されたという。

吉田さんは「制度について知らない人も多く、人助けにすら経済格差が生じてしまっているのではないか」と疑問を口にする。

通勤客は傍観

ハラスメント撲滅に取り組む活動「#WeTooJapan」の一環として、評論家の荻上チキ氏が昨年実施したインターネット調査によると、女性の約半数が、電車やバス、路上で体を触られる被害を受けていた。

だが痴漢被害者の5割以上が「我慢した」と答えており、加害者を捕まえたり、駅員や警察に通報したりしたのは、全体の15%弱。加害者のほとんどは、野放しなのが実状だ。

埼京線池袋駅―板橋駅間はラッシュ時の混雑で悪名高く、痴漢も多い。吉田さんは高校時代にも、埼京線の車内で痴漢を捕まえたことがあるという。

今回、人助けの「つけ」は大きかったが、吉田さんは「もしまた痴漢を目にしたら、同じことをすると思う」と話す。

今年からは、長女が中学に入学して電車通学を始めた。「娘が被害に遭ったらと思うと、なおさら見過ごせない」

しかし、吉田さんのように行動できる人は、ごく一部だ。

被害者の女性が「助けてください!」と叫んだ時、大半の通勤客は見ているだけだった。

吉田さんは「女性がたった1人で、男性の加害者を駅員のいる場所まで連れていくのは、大変な勇気が必要だったろう」と振り返る。

だが「助けたい気持ちはあっても、急いでいたり、けがなどのリスクを恐れたりして、行動できなかった人も多いのではないか」とも話す。

実際、家族からも危険な行為だとして「叱られちゃいました」と、吉田さんは苦笑する。

ただ、吉田さんは、勤め先の社長が「誇りに思う」と言ってくれたのが「心の支えになった」と振り返る。

社長は事件を知ると、全社員にメールで経緯を知らせ、吉田さんを称賛した。女性社員が多いこともあり、同僚も好意的に受け止めてくれた。

吉田さんは最後にこう話した。

「周囲が何らかの形で認めてくれれば、それだけで救われる。『世間の役に立ちたい』という思いをもっと社会が承認し、評価するようになれば、痴漢を傍観していた人も行動を起こせるようになるのではないか」

有馬知子

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最終更新:8/14(水) 10:14
ハフポスト日本版

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