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米鉄鋼業、相次ぐ増強。電炉の鋼板能力1000万トン増、「能力過剰」招く懸念

8/14(水) 6:03配信

鉄鋼新聞

 米国の鉄鋼メーカーで能力増強計画が相次いでいる。業績が好調だったニューコアやスチール・ダイナミクス(SDI)といった電炉勢や外資系の米事業、そして米鉄鋼業の代表格であるUSスチールなどがこぞって投資を打ち出し、数年内に稼働する予定だ。トランプ政権が掲げる鉄鋼業など「ラストベルト復活」に呼応したものだが、米国内での過剰能力を招く懸念も強まっている。

 投資に最も積極的な1社がニューコアだ。棒鋼や鋼板といった幅広い品種で新設や増強を進めており、アーカンソー州ヒックマンでの特殊冷延ミル増設など一部は今年から戦力化し始める。鋼板事業ではケンタッキー州ゲントの子会社、ガラチン・スチールで6億5千万ドルを投資し、熱延ミルを今の160万トンから300万トン(1・1倍となるメトリックトンの場合、270万トンに相当。以下同)へ増強。ダニエリ製の薄スラブ連鋳「QSP」へと置換する。同州では13億5千万ドルを投じ、120万トンの厚板ミル新設も進めている。
 ニューコアに次ぐ米電炉2位のスチール・ダイナミクス(SDI)は19億ドルを投資し、テキサス州シントンに300万トンの電炉、SMS製の薄スラブ連鋳「CSP」や55万トンの溶融亜鉛めっきライン(CGL)、25万トンのカラー鋼板ラインを新設する。年明けにも着工、21年央の稼働を予定しており、SDIは2700万トン市場とされる米南部や西海岸、メキシコ北部で鋼管母材や自動車、建材などの需要捕捉と輸入材の代替を狙う。
 SDIは来年にはミシシッピ州のコロンバス工場でもCGLを増設する計画で、18年に買収したインディアナ州の旧ハートランド・スチール含め建材向け表面処理鋼板の強化に力を入れている。
 新興勢力では、アーカンソー州のビッグ・リバー・スチールがこの5月に社債や新株発行で8億ドル弱を調達。電炉や転炉を増設し、CSPの年産能力を330万トンへ倍増すると共に、電磁鋼板など下工程を設ける計画を始動させた。
 米高炉系ではUSスチールが12億ドルを投資し、ペンシルベニア州モン・バレーでプライメタルズ・テクノロジーズから250万トンの薄スラブ連鋳「ESP」を22年にも立ち上げる。来年下期にはアラバマ州フェアフィールドで160万トンの電炉を新設し鋼管素材を一貫生産する予定で、電炉勢に押されてきた中、新たな切り口の投資で競争力向上を狙う。
 外資系では、インドのJSWスチールが買収したオハイオ州の旧ミンゴ・ジャンクションやテキサス州ベイタウンでの電炉新設などで増産を検討。豪州のブルースコープ・スチールの米熱延事業、ノース・スターも80万~90万トンの能力増強を検討している。
 著名なピーター・マーカス氏が率いる鉄鋼シンクタンクのワールド・スチール・ダイナミクスによると、一連の投資で米国の電炉から鋼板を造る能力は1千万トンほど増えると予想されている。さらに「通商拡大法232条」の対象から外されたメキシコでは、来年にもアルセロール・ミッタル、テルニウムが新設する熱延ミルが2基稼働する見通しだ。
 今後数年で北米市場での能力が急速に増える一方、自動車生産など米国内の需要増には陰りが見られ、新設備で思うように増産が進まない場合、輸入鋼材のさらなる排除といった動きにつながる可能性がある。世界各地から年間3千万トンを超える世界有数の鉄鋼輸入国だった米国内で増産が進めば、アジアへ還流するリスクも高まりかねない。
 米の高炉と電炉、際立つ「優勝劣敗」
 米国鉄鋼市場では、高炉メーカーと電炉メーカーの収益格差が一段と際立っている。昨年、トランプ政権が「通商拡大法232条」を発動しスポット市況が急騰した際は電炉勢が高収益を上げる一方、自動車向けの長期契約が多い高炉勢の収益回復は遅れてきた。
 今年に入り米市況が下落し始めるや、高炉を主力設備とするAKスチールはアシュランド製鉄所を年内にも恒久的に閉鎖することを決定。USSはゲーリーとグレート・レイクスの両製鉄所で高炉1基を止め減産に追い込まれている。アルセロール・ミッタルは4~6月期に巨額の減損を計上したこともあり、NAFTA事業は5億3900万ドルの営業赤字だった。
 この米市況の立て直しに向け、果敢に動いたのは電炉最大手のニューコアだった。40ドルの値上げを繰り返し表明し、英国鉄鋼メディアのカラニッシュによると北米の熱延コイル市況は先週、約3カ月ぶりにショートトン当たり600ドル台へと上昇した。積極投資で新鋭設備や川下事業を整えてきたニューコアが米市場を多面的にリードしていると言える。
 今後の能力増でも電炉勢の競争力が底上げされる半面、コスト競争力に劣る米高炉は一段と厳しい立場に置かれるシナリオも予想される。

最終更新:8/14(水) 6:03
鉄鋼新聞

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